「みどりの食料システム戦略」の解説と今後の展望についてお話を伺いました
2024年08月15日
そこで、清水治弥氏(農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課みどりの食料システム戦略グループ 持続的食料システム調整官)に、みどりの食料システム戦略について、また、基本法の関連情報も含めてお話を伺いました。
(聞き手:齊藤総幸 (一社)全国農業改良普及支援協会 普及参事兼情報部長)
「みどりの食料システム戦略」策定の背景
齊藤 まず、あらためて「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」について、自分事として考えられるよう、おさらいの意味でお話しを伺いたいと思います。戦略を打ち出した背景を教えてください
清水治弥 持続的食料システム調整官(以下、清水調整官)
昨今、地球温暖化による気温の上昇や、大規模な気象災害の頻発などによって、農林水産業は、大きな被害・影響が顕在化している状況にあります。このように農林水産業は、気候変動の影響を受けやすい産業であるというのが、背景のひとつ目です。
また、農林水産業は、気候変動の影響を受けやすい、というだけでなく、気候変動の一因にもなっています。燃料の燃焼による二酸化炭素の発生や、水田や牛のげっぷなどからのメタンの発生があるほか、作物に吸収されなかった肥料の窒素分が酸化すると、一酸化二窒素という温室効果ガスになって放出されるという側面もあります。これら農林水産分野からの温室効果ガスの排出が、気候変動の一因となっていることが背景の二つ目です。
そして、農業生産・食料生産に不可欠な生産資材である肥料です。化学肥料は、原料のほとんどを海外からの輸入に頼っています。また、燃料とか家畜の飼料についても、同じような状況です。このようなことから、将来的に食料生産を安定的なものとしていくためには、できるだけ地域にある資源を有効に活用していく必要がある、これが背景の三つ目です。
こういったことを背景に、令和3年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定しました。
「みどりの食料システム戦略」の具体的な内容について
齊藤 みどりの食料システム戦略(みどり戦略)の具体的な内容について、お話を伺いたいと思います。どのような内容が盛り込まれていますか
清水調整官 みどり戦略では、持続可能な食料システムの確立に向けて取り組みを進めることとしています。2050年までに、農林水産業のCO2ゼロエミッション化、化学農薬の使用量50%低減、あるいは有機農業取り組み面積を全体の25%まで拡大する、といった意欲的な目標を掲げ、それに対して中長期的に取り組む、こういった戦略になっています。
具体的には、いまある技術だけでなく、「イノベーション」ということで、技術開発を並行して進め、これから生み出される技術も社会実装していく、こういったことにより、先ほどの意欲的な目標達成をしていこう、という計画になっています。
齊藤 「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現」は、食料システム戦略本体のサブタイトルなのでしょうか。いま、調整官がおっしゃった話が、まさにこの言葉に集約されていると思いました。
清水調整官 おっしゃる通りです。環境に配慮するだけでなく、生産力の維持向上も併せて図っていく、生産力と持続性を両立させていくというのも非常に重要なポイントで、イノベーションの力を借りて実現していくというのが、大きなテーマになっています。
それぞれが取り組むべき内容について
齊藤 つぎに、生産者、試験研究担当、また、機械資材メーカーなど、主体ごとに取り組むべき内容について伺いたいと思います。まず、生産者としての取り組むべき内容について、お伺いしたいと思います。
清水調整官 みどり戦略は、「みどりの食料システム」という言葉を使っています。
この「食料システム」というのは、生産者だけでなく、先ほど申し上げた肥料とか燃料といった資材の調達の段階、そして、生産された農林水産物の加工・流通の段階、そして消費者まで、各段階に携わるみなさんの取り組みを促すことによって、この戦略を実現していこうという風に考えています。生産者は、食料システムの中で生産を担う、中核となる重要な分野であり、生産者のみなさんには、大きく二つの取り組みをお願いできればと考えています。
まず、いま行っている営農形態、あるいは営農活動の中で、見直せる部分を見直していただきたいということです。いまある技術、あるいは資材を使って、より効率的な施肥とか、無駄のない防除とか、あるいは無駄な燃料は使わないようにするとか、そういった足元の取り組みを進めていただくというのが重要だと思っています。
その上でもうひとつ、中長期的な取り組みとなりますが、新しく出てくる技術です。これからも、いろいろな資材・技術・機械等が開発されると思います。そういった技術をぜひ、自らの経営の中、あるいは産地に取り入れていただきたい。そうすることで、一段進んだ環境負荷低減と、そして、生産性・生産力の向上、この両立を図ることができると考えています。
齊藤 みどり戦略の中で、イノベーションの部分が重要だと思います。関係者、とりわけ技術開発面からの、取り組むべき内容を教えていただければと思います。
清水調整官 技術開発についても、大きく期待しているところです。環境負荷を低減することと生産力の維持、向上、これを両立させるためには、いまある技術だけでは足りないということです。生産者・生産現場のみなさんからは、「有機農業に転換すると労力がかかって、いまの規模を維持できない」とか「規模拡大は難しい」といった声があります。そういった中で、例えば、今まで手でおこなっていた作業を機械化するとか、これまで使っていた化学肥料なり化学農薬と置き換えられるような、使いやすい代替資材の開発、あるいは、防除技術の開発。こういったものは非常に重要です。あと、当然のことながら、品種も重要です。病気に強い品種などの開発など、品種の力というのも非常に大きいと思っています。そういう面で、試験研究機関あるいは企業の技術開発に、大きな期待を持っています。
齊藤 温暖化で新しい品種が求められています。例えば水稲では、コシヒカリに構成が偏って、出穂期の天候不順で一気に不作になる恐れがある、ということもあります。温暖化対策として、技術面でどのようなことが必要か、あるいはそれを使う側にもなにかありましたら、お願いします。
清水調整官 水稲については、昨年の夏も猛暑で、コメが十分に充実しないとか白く濁ってしまうとか、そういった影響が顕在化している状況です。果実でも、夏が暑すぎると色づきが良くないといったような問題も出てきています。そういった中で、夏場の高温に強い品種とか、暑くてもしっかり生育して色づく品種とか、そういった高温耐性を持つ品種が求められていくと思います。
あと、夏の暑い時期に、ある生育ステージに達することが影響を受けやすくなる一因でもあるため、いくつかの品種を組み合わせて作付けをするとか、時期をずらして作付けをする作期分散といった取り組みも、各生産現場で進めていただきたいと思っています。
齊藤 それを受けて、機械・資材メーカーの取り組むべき内容を教えていただければと思います。
清水調整官 「みどりの食料システム法」の中で、環境負荷低減に資する機械資材のメーカーを認定して支援する措置も設けています。生産者の方々が生産方法あるいは使用する資材とか機械を変えることで、取り組みが進んだり定着したりする面が非常に大きいと思っています。そのために、化学肥料あるいは化学農薬に代替する資材の開発とか、化学農薬等に頼らずに除草ができる機械の開発が求められていると思っています。
「みどり法」認定制度の中、令和6年5月現在で69の事業者や機械資材メーカーの認定をしているところですが、これからも引き続き、さらに協力してくださるメーカーが増え、生産者が使いやすい資材や機械が広がってくることを期待しています。
「みどりの食料システム戦略」に期待できることは?
齊藤 それらの取り組みにより、全体を通してどのようなことが期待できるでしょうか。
清水調整官 まさに、生産者だけでなく、試験研究や技術開発、あるいは機械・資材メーカー、また、加工流通そして消費者まで含め、食料システムに携わるさまざまな関係者が、その取り組みを進めていただくことが重要と考えています。先ほど、みどり戦略で意欲的な目標を掲げていると申し上げましたが、関わる多くの皆さんが取り組みを進めることで、この意欲的な目標が絵空事でなく、その達成につながっていくと思っています。
齊藤 戦略が公表された当時は、コロナ禍の真っただ中でした。その後、2年前のウクライナ侵攻もあり、また、公表時の為替レートは1ドル110円だったものが、150円台まで円安になっています。まさに、戦略で危惧していたことが、さらに顕在化したと思います。
それぞれの主体が自分ごととして理解して、取り組むことが重要だと思います。生産者、試験研究、機械資材等のメーカー、それぞれのみなさまに、ひとこと呼びかけをお願いできればと思います。
清水調整官 資材価格の高騰、それから気候変動による影響、こういったものが顕在化している中で、持続的に将来にわたって食料の生産そして供給を続けていくためには何ができるか、そういったことを、生産者のみなさんだけでなく、事業者や研究者のみなさんそれぞれが、自分にできることは何かを考えて、取り組みを進めていただければと思います。
齊藤 「みどりの...」というと、平成7年頃の、「ガット・ウルグアイ・ラウンド」の時の政策を「みどり」で分けた記憶があります。世界向けに進めるべき戦略だと打ち出している言葉かと思ったのですが。
清水調整官 世界向けに発信していくという意味ではまさにその通りです。アジアモンスーン地域という、温暖湿潤で、草も伸びるし虫も発生しやすい、畑だけでなく水田もという農業形態の地域で、その環境負荷低減と生産性を両立させていく取り組みとして、「みどり戦略」を打ち出しています。
「みどりの食料システム法」認定制度のメリットは?
齊藤 その後にできた法律で、みどり認定制度が創設されました。みどり認定制度での、生産者のメリットなどを教えていただけますか。
清水調整官 みどりの食料システム法では、二つの計画認定制度を創設しました。
ひとつは、環境負荷低減に取り組む生産者を認定して支援する制度、もうひとつは、生産者だけでは解決しがたい、資材や機械の開発供給とか、環境負荷を低減して生産された農林水産物の流通あるいは消費の拡大といった、生産者を支える民間事業者を認定して支援する仕組みです。
生産者の認定の仕組みは、環境負荷低減に取り組む、例えば、土づくりと化学肥料・化学農薬の低減とか、あるいは温室効果ガスの排出削減、こういったことに取り組む生産者の方に、およそ5年間の計画・目標を立ててもらって、計画的に取り組みを続けていただく。同時に、労力面での課題あるいは販路の確保などといった課題解決にも取り組んでいただき、5年目以降も、取り組みがしっかり定着するようにという趣旨で、みどり認定の制度を作っています。
そして、みどり認定を受けた生産者には、まず田植機とか、施肥の機械あるいは堆肥を作る機械、そういった取り組みに必要な機械設備の導入を行う際に、無利子の融資とか税制の特例・優遇といった措置を講じています。また、それ以外にも、農林水産省の各種補助事業において、「みどり認定」を取得した生産者にはポイント加算をして優先的に採択するなどのメリット措置を講じているところです。
齊藤 現場の目線だと、ポイントがつくのはすごく良い、モチベーションが高まる部分だと思います。
清水調整官 農水省の補助事業を使われる方は、是非、みどり認定チャレンジしていただければと思います。
齊藤 この法律では、機械資材メーカーや食品事業者もメリットがありますね。生産者だけでなく、関係事業者に対して、同時に措置されている、画期的な制度だと思います。具体的な制度の内容と、メーカーの反応などがありましたら、教えていただけますか。
清水調整官 先ほども申し上げましたが、生産者だけでは解決しがたい、研究開発、あるいは資材・機械の開発、それから、農林水産物の流通の合理化、そして消費の拡大といった、こういった生産者を支える事業者を国が直接認定をして支援をする仕組みを設けています。基盤確立事業の認定と言っていますが、この認定制度において、令和6年5月現在69の事業者を認定しています。環境負荷低減に資する資材とか機械の生産販売、こういったことに取り組むメーカーが増えてきています。今後はそれだけでなく、物流の合理化あるいは需要の開拓と言った、川下から生産者を支える事業者のみなさんにも、より参画していただきたいと思っています。
こういった認定を受けた事業者のみなさんにも、例えば設備投資の際の低利子の融資とか税制の特例などの措置を講じているところですし、農水省の補助事業でも、この認定を受けた事業者向けに優先的に採択する事業、こういったものを設けていますので、生産者だけでなく、資材機械メーカーにも積極的に、みどり法の認定にチャレンジしていただきたいと思います。
齊藤 支援措置では、例えば、補助金と交付財産の処分の制限解除手続きや農地転用許可の手続きのワンストップ化など、非常にきめの細かい支援措置が付いていて、私自身、感動して見ていました。
清水調整官 今おっしゃった補助金等適正化法や農地法の手続きのワンストップ化という特例を設けています。これは、個々の生産者の認定への特例ではなく、生産者が地域ぐるみでまとまって環境負荷低減に取り組まれた計画で認定を受けた際に、特例として講じています。
これまで、補助金で作った施設を違う目的で使う際には、いろいろな手続きがありました。国にひとつひとつ説明して協議して...ということが必要でしたが、今回、このみどり法の認定を受けることによって、そういった補助金等適正化法の手続きや農地法の手続きがワンストップで進められるようになりました。
齊藤 みどり認定は、生産者はどれくらい認定されていますか?
清水調整官 令和6年5月末で、全国で15,690名の方が認定を受けています。県別に数の多い少ないはありますが、東京を除く46道府県で生産者の認定が進んでいる状況です。
例えば福井県では、農協の水稲部会の皆さん全員、部会がまるごとグループで認定を受けたという事例もあります。みどり法の認定制度は、個人個人で計画を出すだけではなく、農協単位や法人単位、あるいは任意団体でもいいのですが、グループで計画を作って認定を受けていただくという道もありますので、是非活用いただければと思います。
齊藤 このグループ申請というところが、非常に画期的なところと思っておりました。グリーンな栽培体系への転換サポート事業(グリサポ事業)で見ていると、J-クレジットに、市町村が興味を持って、是非取り組んでほしいと、普及指導員にはっぱをかけるようなところがありました。市町村からの反応とか、そういったことは何か聞いていますでしょうか。
清水調整官 みどりの取り組みを進める上で、県や市町村、あるいは県の中のある地域や農協とか、そういう単位でまとまって取り組みを進めていただくことは、非常に重要です。
例えば、栽培暦などは、産地ごとに作っている場合が多いです。その見直しということで、地域の気候や土壌に合わせて、この資材がどういう効果があるのか、しっかり生産性が維持できるのか、といったことを、グリサポ事業を使って、まず確認し、その上で、産地全体で栽培暦にそれを反映してもらう。こういったことで、より多くの生産者が栽培方法の転換に踏み切れるのだろうと考えています。
J-クレジットの対象になる中干し期間の延長とか、そういった取り組みも当然、グリサポ事業の対象になり得ますので、そういった技術を各地域で、「この技術を確かめて広げていこう」という形で取り組んでいただきたいと思います。
齊藤 オーガニックビレッジもそうですが、J-クレジットなども、市町村の首長さんが、市町村の特色づけとして、「うちは環境に配慮した市町村である」といったところを打ち出すためにうまく活用されて、あと押ししていると言う風に見えているところです。
清水調整官 地域ぐるみでの取り組み、特に市町村長・首長さんがリードして、「有機農業の旗を立てて町づくりしていくんだ、子供たちに有機農産物を提供していくんだ、給食を提供していくんだ」というような取り組みがだんだん増えて来ています。こういった地域ぐるみの取り組み、これがもっともっと広がるよう、農林水産省としてもサポートしていきたいと思っています。
「食料・農業・農村基本法」の改正にともなう政策の展開方向について
齊藤 最後に、「食料・農業・農村基本法」の改正に伴う政策の展開方向について伺います。このたび施行された基本法改正に伴う「みどりの食料システム戦略」の展開方向について、改正基本法の第3条には「環境と調和のとれた食料システムの確立」が明記されています。法改正によって、具体的にどのような政策が取り組まれているのでしょうか。
清水調整官 まず、今回の基本法の改正では基本理念として、「環境と調和のとれた食料システムの確立」を新たに位置づけました。これは非常に大きなことです。これまで「多面的機能の発揮」は基本理念に入っていましたが、農業は、環境に良い多面的機能を発揮しているのと同時に、環境に負荷を与えている側面もあるということで、環境にプラスになる多面的機能の発揮と、マイナスになる環境負荷の低減、この両方を進めていくというのが今回の基本法の改正で位置づけられました。それに伴い、各種の施策を展開していくことになりますが、今回の基本法の改正を受けた、今後のみどりの政策の柱として、三つを考えています。
ひとつ目はクロスコンプライアンスと言うものです。これは、農林水産省の各種補助事業、あるいは委託事業などにおいて、要件として最低限行うべき環境負荷低減の取り組みのことで、農業者、林業者、漁業者そして食品企業、あるいはそれ以外の民間事業者を含め、「農林水産省の事業に参加される方は、環境に負荷を与えないようにするため、最低これだけの取り組みを行ってください」というものを要件化しました。これがクロスコンプライアンスです。
二つ目は、先進的な環境負荷低減の取り組み支援です。これは、現状、環境保全型農業直接支払とか多面的機能支払の中で、有機農業など環境保全型農業の取り組み、あるいは多面的機能支払の中でも、いきもの調査とか生物多様性の保全に向けた取り組み、こういったものを支援しているところですが、これをさらに強化し、基本法の柱として位置付けた以上は、やはり、この環境に配慮した取り組みを主流化させていきたい、多くの人が取り組むような形にしていきたいと考えています。こういった環境保全型農業直接支払、多面的機能支払について、まず充実させられる所をきちっと充実をさせるため、有機農業の取り組み拡大のために、さらに改善できる点はないか、あるいは、多面的機能支払の集落・地域ぐるみの活動の中で、より、環境負荷低減の取り組みを効果的に進められないかという観点で、見直しを行いたいと考えています。
その上で、令和9年度には、先進的な環境負荷低減の取り組みをされる生産者の皆さんに対する直接支払いに新たな仕組みを導入していきたいと考えています。具体的な取り組みメニューとか要件、あるいは支援の水準などは検討を進めていくことになりますが、ひとつ明らかにしているのは、新しい支援の仕組みの中では、その対象は、先ほどの「みどり認定」を受けていることが要件になるということです。みどり法の認定を受けて計画的に環境負荷低減の取り組みを進める、そういった農業者の方が対象になるということは決めておりまして、その上で、どれだけの支援メニュー、あるいは支援水準を充実させていけるかというのを、いま、検討しているところです。
三つめは、食料システム全体で、生産者だけではなく、消費者や関連事業者の方まで、環境負荷低減の取り組みを促していこうということです。例えば、環境負荷低減の見える化です。生産者の方が取り組んだ、例えば化学肥料を減らした、あるいは中干しを延長したという取り組み、それが地域の平均に比べてどれだけ温室効果ガスの排出を減らせているかというのを簡易に算定できるシートを農林水産省で作りました。協力いただける生産者の方が資材の投入量等を入力すると、簡単に計算ができ、地域の平均よりも5%以上温室効果ガスを減らせていれば、ラベルに一つ星を表示できる。10%以上であれば二つ星、20%以上削減できれば三つ星というようにラベルを貼って販売ができる、そういった取り組みも始めているところです。それによって、環境負荷低減の取り組みが、消費者の商品選択につながるようにと考えています。
また、農林水産省、環境省、経済産業省が共同で取り組んでいるJ-クレジットという仕組みがあります。これは、生産現場における温室効果ガスの削減の取り組みについて、見える化よりも非常に厳密な計算が必要になりますが、国でクレジットとして認定をすると、そのクレジットを農外の方や民間企業に販売できるようになる仕組みです。生産現場での環境負荷低減の取り組みをしっかり資金化する、民間の資金、他分野の資金を農林水産業に呼びこむ手段として、取組推進の一助としていけたらと考えています。
以上のように、生産の場面で、各種補助事業を横串で要件にするクロスコンプライアンス、生産の段階で意欲的な取り組みをされる方への支援の充実、そして、消費者あるいは関連事業者も含めた環境負荷低減を支える仕組み、そういったものをしっかり三本柱で進めていきたいと考えています。
齊藤 クロスコンプライアンスについても、入口として7つの項目のチェックという、非常に取り組みやすい形でスタートしていると思いました。
清水調整官 「クロスコンプライアンス」というのは、聞き慣れない言葉かと思うのですが、いろいろな補助事業に横串で、最低限の取り組みを要件にするということです。これは、先ほどの紹介の通り、基本的な取り組みとして、肥料や農薬の無駄をなくす、省エネを図るといった取り組みを、みなさんの自らの農業経営の中でしっかり意識して取り組んでいただこうというものです。これは、化学肥料を3割減らすとか、農薬を5割減らすといった数値基準を設けているものではありません。それぞれの営農の中で意識して気をつけていただくことが重要になりますので、是非、皆さんにしっかり取り組んでいただきたいと持っています。
齊藤 生産者自体としても、取り組みの確認と言う意味で、非常に重要なことと思ってみておりました。ヨーロッパなどでも、直接支払いには必ずクロスコンプライアンスがあったような気がします。
清水調整官 EUの所得支持の交付金にも、こういったクロスコンプライアンスが導入されています。日本はEUとは違って、どうしても草が発生しやすい、あるいは虫が発生しやすいという温暖湿潤な気候の中で、いかに環境負荷を下げていくかという観点から、合理的に適切に防除をする、あるいは適切に無駄なく施肥をするとかいった取り組みが重要だと思っています。
EUでは、冷涼乾燥な気候で畑地帯中心なので、どちらかというとあまり耕さないとか、植生を残していくとか、できるだけ手をかけないようなクロスコンプライアンスになっていますが、日本の農業のクロスコンプライアンスは、適切に手をかける、適切に管理をするという内容になっています。ですから、普段行っている営農活動の中で、注意していただく、意識していただくというところが重要かと考えています。
齊藤 みどり戦略もそうですし、クロスコンプライアンスもそうですが、まさに、日本だけではなく、アジアでの取り組みのひとつの見本、モデルになるような政策であったり、制度であるのかなと言う風に感じておりました。
齊藤 最後に、全体を通してまとめをお願いいたします。
清水調整官 農林水産業は、気候変動などの影響を受けやすいことに加えて、農林水産業自体も、温室効果ガスの排出など、環境に負荷を与えている側面もあります。農業は多面的機能と言われるように、環境に良い側面がある一方で、こうやって環境に負荷を与えている側面もあるということで、今回、みどりの食料システム戦略、それから、食料・農業・農村基本法の改正を踏まえて、農林水産分野での環境負荷低減を進めていきたいと考えています。みなさんが自分ごととして、この環境のことをとらえて、自らの営農活動の中で、そして、産地の中で取り組みを進めていただきたいと思います。よろしくお願いします。
齊藤 制度も充実して参りました。できるだけ多くの生産者、事業者さん、さらには消費者の皆さんに理解していただければと思います。そのためにも、我々も積極的に情報発信を行っていきたいと思います。本日はありがとうございました。(みんなの農業広場 令和6年6月20日取材)
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【予告編】「みどりの食料システム戦略」の解説と今後の展望についてお話を伺いました」(YouTube)