スマート農業実証プロジェクト令和3年度実証の紹介(有限会社すがたらいす:岐阜県下呂市)
2021年08月12日
1.コンソーシアム名:
先端機械・機器低コスト共同利用モデル実証コンソーシアム
2.実証課題名:
棚⽥地域における安定的な営農継続のための先端機械・機器低コスト共同利⽤モデルの実証
3.実施場所:
岐阜県下呂市
4.構成員と役割:
5.実証品目
水稲(81.6ha)、飼料作物(20ha)
6.背景とねらい
岐阜県の県土面積の86%、耕地面積の44%を占める中山間地域においては、良質な水源や冷涼な気候風土、匠の技を活かし、「コシヒカリ」、実証地域のブランド米品種「いのちの壱」といった良食味米生産や世界に誇れるブランド銘柄「飛騨牛」に代表される畜産など多様な農業が展開されている。
実証地域である下呂市金山町菅田地域は、中山間地域の中でも特に栽培条件が不利な棚田地域に属しており、水稲の生育状況の確認や水管理・見回り、畦畔の雑草管理等、平坦地域と比較して多大な時間と労力を要している。
このような中、実証経営体である(有)すがたらいすは、地域の水稲作を一手に担う担い手として、耕作できなくなった農地を積極的に引き受け、地域の農業を守っている。しかし主要作業や農地管理の請負が年々増加し、きめ細やかな栽培管理の励行が難しくなってきており、革新的な技術導入による生産コストの低減や地域全体で支える仕組みづくりが不可欠となっている。
そのため、(1)作期分散の図れる稲作農家と畜産農家(粗飼料生産)とのスマート農機のシェアリングモデルの構築、(2)スマート農機の運用コストを低減する新たなLPWA通信サービスの仕組みづくり、(3)外部のコンサルティングを活用した中山間地域におけるスマート農機の導入モデルの検証など、スマート農業を背景とした新たな経営モデルの構築を行うことで、条件不利地における安定的な営農の継続を図っていく必要がある。
7.令和2年度の主な実証項目及び成果
①直進アシスト機能付きトラクタのシェアリングによる導入コスト低減及び耕起・代かき作業の省力化
・直進アシスト機能により、耕起作業時間を約23%低減
・畜産農家とシェアリングを行い、稼働面積が増加することによる導入コスト約18%低減
②無線遠隔草刈機のシェアリングによる導入コスト低減及び草刈作業の省力化
●無線遠隔草刈機により、草刈作業時間を約66%低減。また、作業時の身体への負担を大幅軽減
●畜産農家とシェアリングを行い、稼働面積が増加することによる導入コスト約84%低減
③水田センサによる水管理作業の省力化
●遠方の圃場に水田センサ30台を設置。事前に水位を把握し水管理が不要な圃場への移動時間を削減することにより、見回り時間約11%低減。
④無線通信基地局の複数機器による共同利用
●2メーカーの水田センサを1つの無線通信基地局で運用することを実現。従来の水田センサより大幅な通信コスト等の削減ができるモデルを構築
共同無線通信基地局
⑤地域ブランド米(いのちの壱)の高品質安定生産技術の確立
●IoT栽培ナビゲーションシステムの環境データを用いた収穫適期期予測により、適期に収穫作業を実施したが、玄米タンパク質含有率は8%前後と目標値を上回った(目標値7%以下)。衛星画像解析により得られた玄米タンパク質含有率が高い水田について肥培管理の見直しを行った。
⑥稲WCSの品質向上、安定生産による耕畜連携の拡大
●IoT栽培ナビゲーションシステムの環境データを用いた出穂期予測による適期収穫の実施や、水田センサを用いた適切な水管理等による雑草混入対策を実施。
⑦外部コンサルティングによるスマート農機導入モデルの検証
●スマート農機導入の手引き(仮)作成のため実証成果の分析中。
8.令和3年度の実証項目
(1)スマート農機の稲作農家と畜産農家との共同利用(シェアリング)及びリースを活用して、導入コスト及び労働時間等の低減を図るモデルの構築
①直進アシスト機能付きトラクタのシェアリング及び耕起・代かき作業の実証
●導入した直進アシスト機能付きトラクタでの耕起を行い、作業時間を測定し導入効果を検証する。また、R3年度は代かき作業でも直進アシスト機能付きトラクタを使用し、代かき作業の導入効果を検証する。
●シェアリングにおいて、(有)すがたらいすと(株)佐古牧場との間で作業体系の見直しを行い、直進アシスト機能付きトラクタの稼働率向上を図ることができるスケジュールを設定。(4月上旬~中旬:(有)すがたらいす・・・荒代かき、4月下旬~5月上旬:((株)佐古牧場・・・デントコーン播種など)
●R2年度実証で本地域において一部GNSSが取得困難なほ場がある事が判明したため、直進アシスト機能付きトラクタ利用時に、スマートフォンアプリによる上空衛星個数の調査及び地理条件の分析を行い、中山間地域におけるGNSS活用目安を検討する。
②無線遠隔草刈機のシェアリング及び草刈作業の実証
●導入した無線遠隔草刈機を活用し、作業時間や作業負荷を測定し導入効果を検証する。
●R2に作成した無線遠隔草刈機利用可否マップ(圃場を①すべて無線遠隔草刈機で作業可能、②無線遠隔草刈機と刈払機との併用が必要、③無線遠隔草刈機使用不可に分類)を元に無線遠隔草刈機と刈払機を使う作業者のスケジュールを調整し、効率的な草刈作業を実施する。この場合、マップ利用の前後の草刈り作業時間、オペレーターの動線、草刈りにかかる労賃等の経費を検証すると共に、指示者の利便性についても聞き取りを行う。また併せて、どのような場所で無線遠隔草刈機を活用できるか分析し、中山間地域における無線遠隔草刈機活用モデルを検討する。
●シェアリングにおいて、(有)すがたらいすと(株)佐古牧場との間で作業体系の見直しを行い、無線遠隔草刈機の稼働率の向上を図る。
③IoT栽培ナビゲーションシステムのリース導入・実証
●育苗ハウスに導入したIoT栽培ナビゲーションシステムで温度、湿度、日射量等のモニタリングを行い、異常値のアラート通知を受け取れる仕組みを用い、導入前、導入後の育苗ハウスの見回り回数・時間を比較し導入効果を検証する。
●リース方式の効果については、リースでマネジメントできるリスクを分析し、農業経営におけるリース方式及び購入のコストやリスクなどをシミュレーションにより比較検証する。
④水田センサの実証
●導入した水田センサで水位のモニタリングを行い、水管理に要する見回り時間を測定し導入効果を検証する。
(2)無線通信基地局で複数メーカーのスマート農機データを一元的に受信する新たなサービスを活用したコスト低減とセンシングデータ等を活用した地域ブランド米(いのちの壱)・稲WCSの高品質安定生産
① 無線通信基地局の複数機器による共同利用
○複数機器による共同利用の実証
●前年度に得られたコストを元に、適当な利用料金体系や社会実装に必要な法整理について検討し、普及性のあるサービスモデルを確立する。
○コスト低減が向上する水田センサ及び無線通信基地局の設置場所の検討
●前年度に得られたデータ及びR3営農計画を元に、水田センサをより効果的に活用できる「ほ場内における設置場所」を検討するのと併せて最適な無線通信基地局の設置場所を検討する。
●検討結果に基づき無線通信基地局を設置し、中山間地域における見回り作業時間が低減できる水田センサ及び無線通信基地局の設置場所を確立する。
○データ一元管理プラットフォームの実証
●前年度に得られた農業者の感想を元に、iPhoneへの対応及び水位変動時のアラーム通知ができるようシステムを改修し、データ管理の利便性向上について検証する。
②地域ブランド米(いのちの壱)の高品質安定生産技術の確立
●前年度に得られたデータを元に、「いのちの壱」の生育予測をIoT栽培ナビゲーションシステムで実施し、栽培ナビゲーションに基づいた適期収穫作業・防除作業を実施し、品質向上を検証する。
●衛星リモートセンシングにより、ほ場ごとの相対的な玄米タンパク質含有率を見える化し、適期適量の追肥作業の実施や、基肥施用量の調整、無線遠隔草刈機による適期草刈作業の実施により、品質向上を検証する。
●IoT栽培ナビゲーションシステム等により、栽培管理を効率的に実施することで高付加価値米である「いのちの壱」の栽培面積の拡大を図る。
③稲WCSの品質向上による耕畜連携の拡大
●前年度に得られた土壌分析結果を基に、品質の安定化・均一化を図るため施肥改善を実施し、発酵度合い等の品質向上を検証する。
●直進アシスト機能付きトラクタを活用した代かき作業や水田センサを用いたほ場の適水位維持を図ることで除草剤の効果を向上させ、雑草混入率の低減を検証する。
●前年度に得られた実証結果をもとに畜産農家と協議を行い、需要量拡大により栽培面積の拡大を図る。
9.農研機構スマート農業実証プロジェクトの紹介ページ
▼(有)すがたらいす ほか(岐阜県下呂市)(農研機構サイト)