スマート農業実証プロジェクト令和3年度実証の紹介(株式会社福成農園:鳥取県)
2021年08月11日
1.コンソーシアム名:
「(株)福成農園」スマート農業実証コンソーシアム
2.実証課題名:
次世代につなぐ水稲・白ネギを柱にした中山間地域水田複合経営モデルの実証 ~農業の「ユニバーサルデザイン化」・「データの見える化」を目指して~
3.実施場所:
鳥取県南部町
4.構成員と役割:
5.実証品目
水稲(36ha)、白ネギ(4.5ha)、小麦(4.0ha)、大豆(4.5ha)
6.背景とねらい
鳥取県では、農業が主要な産業であるが、中山間地域など条件不利地が多いことに加え、農業所得の低迷や高齢化の進展に伴う担い手不足など、構造的な問題を抱えている。
実証農場の(株)福成農園がある南部町は、水田が740ha(耕地面積の86%)あり、稲作中心の町である。南部町などの中山間地域において、誰でも取り組めるような複合型農業の生産体系の構築や効率的な生産方式が実現するためには、①10年後を支える多様な担い手が活躍できる環境の整備、②産地力のアップによる農業所得の向上が課題となっている。
これらを解決するため、人手不足への対応として、軽作業化等の労働改善により、雇用者(形態)の多様化を図るための「ユニバーサルデザイン化」、早期人材育成に向け、熟練者でなくても均質な農作業・栽培管理ができる技術の平準化を図るための「データの見える化」を目指す。
また、複合経営における生産性や収益性を向上し、他産業並みの給与支払、退職金制度を設けるなど、雇用の確保、就業者のモチベーション向上を図り、条件不利農地を含む地域の農地の維持を目指す。
7.令和2年度の主な成果
(1)自動操舵システムを利用した各種作業技術の実証(白ネギ、小麦、大豆)
自動操舵システムを利用し、白ネギの植溝堀り及び土寄せ作業、大豆、小麦の播種作業を行った。
白ネギの植え溝堀り作業は、入社1年目の社員が行ったが、誤差2cm程度で正確に植え溝掘り作業を行うことができた。土寄せ作業では、小型トラクタを使用した際に、当初、トラクタ前輪が浮き上がってうまく作業ができなかったが、ウエイトバランスを調整することで解決された。
大豆、小麦の播種作業でも、直線作業の時間短縮の効果が確認された。
(2)直進キープ・条間アシスト・株間キープ・施肥量キープ機能付田植機の実証(水稲)
10a当たり作業時間が約15%削減された。
直進キープ・条間アシスト・株間キープ・施肥量キープ機能付田植機の実演の様子
(3)食味・収量コンバインの実証(水稲)
各ほ場ごとに、作業が終わると同時にKSASにデータが蓄積され、ほ場ごとの食味・収量の分析が可能となった。令和3年度に向け、測定したデータに基づいて収量・品質改善に向け、ほ場ごとに施肥設計を見直し、実証中である。
(4)衛星画像に基づく穂肥診断及びドローン等による可変施肥技術の実証(水稲、小麦)
衛星画像に基づいて、施肥基準に応じた施肥量を決定することができた。
一方で、令和2年度は必要とする画像診断時期が天候不順だったため、思うように適期の画像撮影ができず、難しい一面もあることが分かった。
また、ドローンでは積載可能な重量が限られ、必要な量を効果的に施肥する方法について課題が残った。
(5)モニタリングシステムを活用した水管理の実証(水稲)
遠隔地の水管理が容易になり、5月から9月のほ場見回り回数は6~7割削減された。
8.令和3年度の実証項目
【水稲】
(1)省力水管理技術の確立
①モニタリングシステムを活用した水管理の実証
中山間地域等の遠方ほ場を中心に「水位等計測センサー(以下、センサーという。)」を設置し、水位・水温をスマホ等で確認することで、ほ場の見回り回数を削減し、水管理時間の短縮を図る。現状(令和元年数値)と比較し、時間短縮効果を検証する。
令和2年度はセンサー設置ほ場の一部で、水不足による枯れ上がり(センサー設置位置には水があるが、ほ場内の高い部分に水が供給されていない)が見られたため、ほ場の均平化とセンサー設置位置の改善を行う。
費用対効果の観点からもセンサーの適正設置台数について検討する。
(2)生育診断・病害発生予測技術の確立
①衛星画像に基づく穂肥診断及びドローン等による可変施肥技術の実証
人工衛星による画像解析サービスを利用し、葉色等の農作物の生育状況の可視化データを得る。可視化データをもとにほ場ごとの追肥量を決定する。衛星画像診断と連動したドローン・無人ヘリコプターによる可変追肥を行うほ場と、慣行基肥一発追肥なしほ場とを比較して、収量・品質向上効果を検証する。
令和2年度は7月の寡照で、施肥10~20日前の衛星画像に基づく穂肥診断となった。令和3年度は 診断対象ほ場の8~9割が診断できている状態であれば追肥予定日直近の診断データでの実証も検討する。また、少量散布可能な専用肥料を用いて実証する。
②衛星画像の水分含有量測定に基づく適期刈取技術の実証
人工衛星からのほ場画像から解析された籾水分の可視化データに基づいて収穫の順序を最適化し、適期収穫を行う。
③土壌分析による土壌診断の実証
アグリノートに土壌分析結果と施肥データを蓄積、他のデータと併せて増収効果、コストダウンなどを実証する。
令和2年度と同様、ほ場ごとに土壌分析(可給態窒素ほか)を行い、ほ場ごとの次年度に向けた適切な施肥(基肥設計)を行う。
(3)スマート農機作業体系の実証
①GPSガイダンスシステムを利用した耕起・代かき作業技術の実証
GPSガイダンスシステムにより耕起作業の効率化、精度の高位平準化を実証する。 トラクタ作業時の課題やコスト削減効果を実証する。
初心者と経験者の作業時間、作業精度に及ぼす効果を比較検討する。
②直進キープ・条間アシスト・株間キープ・施肥量キープ機能付田植機の実証
GPS情報を利用して植付位置や施肥量を一定に保ちながら直進走行すること、密播、移植同時側条施薬により精度の高位平準化、作業の効率化を実証する。
初心者と経験者の作業時間、作業精度に及ぼす効果を比較検討する。
令和2年度は側条施肥機に詰まりが生じ、肥料が落ちていないほ場(条)がみられたため、過信せず設定量の施肥ができているかチェックするよう改善する。
③食味・収量コンバインの実証
令和2年度に食味・収量コンバインから得られたほ場ごとのデータ(収量・タンパク質含有率)を活用し、ほ場ごとに最適な施肥設計の見直しを行うこと等の適切な肥培管理の実現により、収量を45kg/10a増加させる。
④アシストスーツによる作業能率向上及び疲労軽減の実証
米袋積み作業における作業員の身体全体への負担軽減効果について実証する。
アシストスーツを装着することにより作業効率が上がると考えられる作業体系(ある程度長時間に渡るアシストスーツ使用が必要)を検討した上で、その作業における作業効率効果について実証する。
【白ネギ】
(1)生育診断・病害発生予測技術の確立
①土壌複合センサーによる土壌モニタリングの実証
土壌水分センサーによる土壌水分の把握および乾燥期の潅水、土壌溶液分析による肥効発現の把握を行い、白ネギの夏越し性との関連性を検証する。
②土壌分析による土壌診断の実証
土壌分析結果から可給態窒素施肥算出シート(パックちゃん)で基肥、追肥量を調整し、夏越し性向上と肥大促進による収量向上を検証する。
③気象データとモニタリングによるネギべと病発生予測の実証
千葉県ネギべと病防除支援情報システム「ネギべと病なび」を用いた予防防除を行い、本システムの導入について実施主体を中心に検証する。
(2)スマート農機作業体系の実証
①直進ガイダンスを利用した耕起・防除作業技術の実証
ブームスプレーヤーによる防除作業の効率を直進ガイダンスの有無で比較する。あわせて、作業者の熟練度の違いによる作業効率を検証する。
②自動操舵システムを利用した畝立て、播種、土寄せ作業技術の実証
乗用管理機による土寄せ作業に適した条間、管理機の作業幅を検討し、自動操舵による土寄精度の 向上を図り白ネギ生育の均一性、増収効果を検証するとともに、時間当たりの作業面積を検証する。
③アシストスーツによる作業能率向上及び疲労軽減の実証
白ネギ収穫時のコモ運搬作業における作業員の身体全体への負担軽減効果について実証する。
アシストスーツを装着することにより作業効率が上がると考えられる作業体系(ある程度長時間に渡るアシストスーツ使用が必要)を検討した上で、その作業における作業効率効果について実証する。
【小麦】
(1)生育診断・病害発生予測技術の確立
①土壌分析による土壌診断の実証
生産管理システム(アグリノート)に土壌分析結果と施肥データを蓄積、他のデータと併せて増収効果、コストダウンなどを実証する。
令和2年度と同様、ほ場ごとに土壌分析(可給態窒素ほか)を行い、ほ場ごとの適切な施肥(基肥設計)を行う。
②衛星画像に基づく穂肥診断及びドローン・無人ヘリコプターによる可変施肥技術の実証
衛星画像診断と連動したドローン・無人ヘリコプターによる可変追肥を行ったほ場と、一律に慣行量追肥を行ったほ場とを比較して、収量・品質向上効果を検証する。
令和2年度と同様、人工衛星による画像解析サービスを利用し、葉色等の農作物の生育状況の可視化データを得る。可視化データをもとにほ場ごとの追肥量を決定する。衛星画像診断と連動したドロ ーン・無人ヘリコプターによる可変追肥を行うほ場と、一律に慣行量追肥を行うほ場を設置する。
③衛星画像の水分含有量測定に基づく適期刈取技術の実証
人工衛星からのほ場画像から解析された子実水分の可視化データに基づいて、低アミロのリスク回避を考慮した収穫開始時期やほ場の優先順位を決定し、適期収穫を行う。
(2)スマート農機作業体系の実証
①直進ガイダンスを利用した耕起・防除作業の実証
GPSガイダンスシステムにより耕起作業の効率化、精度の高位平準化を実証する。
トラクタとブームスプレーヤでシステムを共有し、作業時の課題やコスト削減効果を実証する。
基準直線設定済みのほ場で、設定時間が省略できる状態で調査を実施する。
②自動操舵システムを利用した播種作業技術の実証
自動操舵システムにより播種作業の効率化、精度の高位平準化を実証する。
自動操舵の枕地旋回機能を活用した播種作業の実証調査を行う。
③食味・収量コンバインの実証
収穫作業時にほ場ごとの収穫量、子実水分、タンパク質含有率を測定し、KSASとのデータ連携により、効率的かつ持続したほ場ごとの実態把握を行う。
食味・収量コンバインで把握したほ場毎のデータや土壌分析結果、施肥実態と照らし合わせることにより、次年度の施肥設計に活用する。
【大豆】
(1)生育診断・病害発生予測技術の確立
①土壌複合センサーによる土壌水分モニタリングの実証
気象予報に加え土壌水分のモニタリングによる最適深度での播種により、出芽を安定させ生育量を確保する。
青立ちの発生が課題となっており、屋外のモニタリングシステムによる土壌水分のデータを活用した 適期かん水を行うことで、青立ちを回避し、増収につなげる。
灌水に伴うセンサーの土壌水分値の変化を把握できるよう、適切な位置に設置する。
(2)スマート農機作業体系の実証
①直進ガイダンスを利用した耕起・防除作業技術の実証
GPSガイダンスシステムにより耕起作業の効率化、精度の高位平準化を実証する。
トラクタとブームスプレーヤでシステムを共有し、作業時の課題やコスト削減効果を実証する。
②自動操舵システムを利用した播種作業技術の実証
自動操舵システムにより播種作業の効率化、精度の高位平準化を実証する。
自動操舵の枕地旋回機能を活用した播種作業の実証調査を行う。
令和2年度は6月中旬から7月の天候不順により播種時期が遅くなった。令和3年度は、限られた作業可能日に効率的に作業を行うため、耕起・播種を同一日に行う等の作業改善を行う。
9.農研機構スマート農業実証プロジェクトの紹介ページ
▼(株)福成農園ほか (鳥取県南部町)(農研機構サイト)