提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ

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注目の農業技術



高速作業が可能な不耕起対応播種機

2024年05月14日

■技術の概要
(1)開発機の概要
 開発機は高速かつ高精度な作業が可能で、不耕起圃場にも対応する播種機である。開発機の構造や特徴は次の通りである。
 高速作業でも種子を1粒ずつ分離・放出するダブル播種プレート式種子繰出機構、圃場上に残る前作物の残さや雑草を切断する1枚のディスクコールタ(円盤状の刃)などを備えた不耕 起対応溝切り機構、溝を埋め播種深度を安定させる鎮圧輪などで播種ユニットを構成する。
 プレートを交換することで、飼料用トウモロコシ、ソルガム、大豆など形状の異なる種子に対応する。条ごとの播種ユニットは、平行リンクを介してフレームに取り付けられ、地面の凹凸に追従する。トラクタ直装式で、PTO(Power Take Off、トラクタから回転動力を取り出す装置)を使用せず、接地輪の回転動力によって駆動する(表、図1)


表 開発機の主要諸元(2条仕様)
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図1 開発機の概要


(2)ダブル播種プレート式種子繰出機構
 種子繰出機構は、円板状の分離プレートと放出プレートの2つに分けた、ダブル播種プレート構造である。種子ホッパに充填された種子は、回転する分離プレートによって1粒ずつ分離され、繰出装置上部の仕切り板で放出プレートに1粒ずつ受け渡される。回転する放出プレートによって繰出装置の下部に運ばれ、種子放出口から播種機の進行方向後方へ放出される(図2)
 2つのプレートは、仕切り板を挟んで同軸・同方向に回転する。回転速度は、接地輪の回転によってトラクタの走行速度と連動する。播種間隔は、歯数の異なるスプロケット(チェーンの駆動を伝達する部品で出力軸と入力軸の歯数を組み合わせることで出力軸の回転数を変更できる=播種間隔を変更できる)の組み合わせによって変更できる。分離プレートの外周に種子が入る三角形状の切り欠きがあり、切り欠きに種子が1粒ずつ入ることで高い1粒率を達成した1)


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図2 種子繰出機構の分解模式図

(3)不耕起対応溝切り機構
 溝切り機構は1枚のディスクコールタ(以下、コールタ)で地面に切り込みを入れ、先端から後方にかけて幅が広くなる溝拡幅部で切り込みを広げ、2枚の平板からなる種子誘導スリットで種子を地中に落下させる(図3)


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図3 溝切り機構の構成


 従来の不耕起播種機の作溝部は複数のコールタが用いられており、地面からの抵抗反力が大きく播種ユニットが浮き上がりやすいため、重量が必要であった。コールタを1枚とすることで接地圧を大きくすることができ、播種ユニットが浮き上がりにくくなったため、小型軽量化を実現した。
 コールタと溝拡幅部は直列に接するように配置し、コールタと溝拡幅部の隙間に前作物の残渣や雑草が入りにくい構造とした1)
なお、溝切り機構の後方の鎮圧輪は、開いた溝を閉じる役割と、溝切り機構の地中への食い込み量を一定の深さに抑え、播種深度を安定させる役割を持つ。


■効果
(1)作業精度・能率
 イタリアンライグラス収穫後の不耕起圃場と、プラウとディスクハローで耕うんした整地圃場において、2条仕様の開発機でトウモロコシ種子を設定株間19cm、作業速度0.7、1.5、2.0m/sの3段階で播種する精度試験を行った。その結果、不耕起圃場と整地圃場ともに、いずれの作業速度の場合も1粒率は98%以上であった2)
 リードカナリーグラス収穫後の不耕起圃場20a(20×100m)において、2条仕様の開発機でトウモロコシ種子を設定株間19cmで播種する能率試験を行った。その結果、圃場作業量(1時間当たりの作業面積)は64a/h、作業能率は1.6時間/ha、作業速度は平均2.3m/s、であった。これは同じ2条の播種機による標準的な作業能率5.2時間/ha3)の約3倍であった2)。不耕起圃場での播種風景と出芽状況を写真1に示す。

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写真1 不耕起圃場での播種風景と出芽状況


(2)不耕起播種の収量性
 不耕起栽培では前作物の残渣が障害となり、作溝不良や覆土不良を引き起こし、苗立ち率の低下が懸念されるが、開発機を用いた栽培試験において、播種深さを3cmよりも深くすることで苗立率が改善した(播種深さは4~6cmを推奨)。また、乾物収量は耕起区と不耕起区で差が認められなかった4)


(3)作業時間の短縮によるCO排出削減
 高速作業による作業能率の向上に加え、不耕起栽培体系では、慣行体系で必要な耕うん、砕土、整地作業が不要になるため、全体の作業時間を短縮できる。慣行体系と不耕起栽培体系との作業時間を比較した試験では、作業時間を5~7割削減することができ、さらに燃料消費の大きい耕うん作業を省略できることから、燃料消費(≒二酸化炭素排出量)を7~8割程度削減することが可能となると報告されている5)6)


(4)二期作トウモロコシ
 トウモロコシの二期作栽培は暖地で用いられる作業体系であるが、近年二期作の限界地帯と考えられる関東での事例が増加している。登熟に必要な有効積算温度を得るためには、一期作収穫後すぐに二期作を播種する必要がある。不耕起栽培体系により、大幅に作業時間を短縮することができるため、トウモロコシの二期作限界地帯などでの二期作の普及が期待される。


■導入の留意点
 種子の種類と大きさに適合する分離プレートを選定する。石礫が多くある圃場では、播種機が石に当たって跳びはねて播種深さが安定しない、覆土が十分にされないなどの現象が起きるため、作業速度を遅くする。前作物の残渣が多い場合(わらが積もった状態など)は、残渣の除去と播種深さを深くすることが必要である7)
 そのほか、開発機の特徴、使用方法、留意点は「不耕起対応トウモロコシ高速播種機の活用Q&A ~試験事例集~」にまとめられている。開発機は2条で開発が進められたが、4条仕様(条間60~85cm、写真2)や、水稲や麦などにも適応可能な6条、8条仕様(条間30cm)が市販されている8)


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写真2 4条仕様の不耕起対応播種機


[引用文献]
1)橘保宏(2013)高速作業が可能なトウモロコシ不耕起播種機の開発、農業機械学会誌75(3)、p128-129
2)橘保宏(2016)日本型飼料生産システムの高度化に向けた開発研究、筑波大学大学院博士(農学)学位論文、p54
3)社団法人日本農業機械化協会(2009)高性能農業機械等の試験研究、実用化の促進及び導入に関する基本方針参考資料'09、p92
4)福井弘之(2017)イタリアンライグラス跡地におけるトウモロコシ不耕起播種技術の開発、農業食料工学会誌79(2)、p102
5)岩手県(2016)飼料用トウモロコシ栽培の不耕起対応高速播種機活用による省力不耕起播種技術、平成28年度岩手県農業研究センター試験研究成果書、普-08-1-2
6)松尾守展(2017)不耕起圃場に対応したトウモロコシ播種機の改良と現地試験、農業食料工学会誌79(2)、p96-97
7)不耕起飼料生産技術研究会(2018)不耕起対応トウモロコシ高速播種機の活用Q&A~試験事例集~、p20-21
8)アグリテクノリサーチ株式会社(2023)トラクタ用ダブル播種プレート式高速汎用播種機&施肥播種機シリーズ、p4


●参考URL NTPシリーズ
 

執筆者
農研機構 農業機械研究部門 無人化農作業研究領域 革新的作業機構開発グループ
主任研究員 
川出 哲生


●月刊「技術と普及」令和6年1月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載