緑肥を活用したカンショの高品質栽培技術
2024年02月26日
はじめに
茨城県のカンショ産地では、青果用品種である「ベニアズマ」の品質(A品率:全収量のうち、形状の良いカンショの割合)の低下が問題となっている。当研究所では、カンショを連作すると可給態窒素(地力窒素)が低下していくことを確認するとともに、カンショの品質低下が可給態窒素の減少によるものであることを明らかにした(データ省略)。
そこで、地力を向上させる方法として緑肥のすき込みを行い、「ベニアズマ」の収量・品質に及ぼす影響を検討した。また、緑肥にはサツマイモネコブセンチュウに対して防除効果を示すものもあることから、その被害低減効果についても検証を行った。
緑肥の導入について
緑肥とは、植物を堆肥化などの処理をせず、直接土壌にすき込んで肥料として利用するものを指す。本研究では夏緑肥としてソルガム(写真1)とクロタラリア(写真2)を、秋冬緑肥としてエンバク(写真3)を供試した。
茨城県におけるソルガム、クロタラリアの播種適期は5月下旬~7月中旬であり、カンショを1作休作する必要があるが、カンショの挿苗後から早掘りカンショの掘り取り前までの、作業が空く時期に播種することができる。さらに、すき込み時期は播種後60日程度となるので、早い時期に播種することによって早掘りカンショの掘り取り前にすき込みを行うことができる(写真4)。
エンバクは早掘りカンショ収穫後の8月下旬に播種し、年内にすき込みを行えるので、カンショを休作する必要はない。
写真4 すき込みの様子(寺井利久氏提供、緑肥用ソルガムの裁断)
可給態窒素と収量・品質への効果
ソルガム、クロタラリアを緑肥としてすき込むことで、緑肥をすき込んでいない慣行区と比較して可給態窒素が増加し(図1)、翌年の「ベニアズマ」のA品収量は同等以上となった(図2)。ソルガムおよびクロタラリアは生育量が大きく、すき込まれる量も多いことから、可給態窒素の増加と収量向上への効果が高いことがわかった(データ省略)。一方、エンバクはソルガムやクロタラリアに比べると地力向上効果や収量は高くなかった(図2)。
図2 緑肥導入がカンショA品収量に及ぼす効果
サツマイモネコブセンチュウに対する防除効果
カンショを1作休作して夏緑肥(ソルガムまたはクロタラリア)を栽培し、翌年にカンショを栽培した結果、カンショ連作(殺線虫剤あり)に比べ、ネコブセンチュウ被害および収量は同等となった(表)。また、カンショ連作(殺線虫剤なし)に比べてネコブセンチュウ被害は低減し、収量が増加した(表)。
表 緑肥作付けによるカンショのネコブセンチュウ被害低減効果
注1) 殺線虫剤:ホスチアゼート粒剤(ネマトリンエース粒剤)20kg/10a、全面土壌混和
注2) ソルガム:6月16日播種、播種量5kg/10a、8月15日すき込み/クロタラリア:6月16日播種、播種量9kg/10a、8月15日すき込み
注3)カンショ(平成29年・平成30年):5月22日挿苗、10月1日収穫
注4) 被害指数=(被害程度"甚"の塊根数×4+同"多"×3+同"中"×2+同"少")÷(調査塊根数×4)×100 被害程度 無:被害を認めず/少:わずかな被害を認める/中:小さな被害が多い/多:小さな被害が多く、大きな被害も認め、塊根の形状が乱れる/甚:大きな被害が多く、形状の乱れが著しい
注5)上いも重:塊根(80g以上)の総重量
まとめ
今回の研究では、夏緑肥作物であるソルガムやクロタラリアを導入することにより、可給態窒素が高まるとともにセンチュウの被害を低減でき、カンショの収量・品質も改善することがわかった。
緑肥を導入した栽培体系(図3)は、カンショ栽培圃場の地力低下の程度やセンチュウの被害程度に応じて、一事例として活用していただきたい。
図3(参考)緑肥を導入した栽培体系
執筆者
茨城県農業総合センター農業研究所 環境・土壌研究室 室長
忍垂 常雄
●月刊「技術と普及」令和4年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)「連載 みどりの食料システム戦略技術カタログ」から転載