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注目の農業技術



マルチ下への局所施肥を中心とした施肥改善による畑土壌由来N2O発生量の削減

2023年10月11日

背景とねらい
 温室効果ガスの一つであるNO(亜酸化窒素)は二酸化炭素の約300倍にもなる大きな温室効果を持ち、オゾン層の破壊物質でもあるため、排出量の削減が急務となっています。NOの主な発生源の一つは農地であり、特に土壌に窒素が多く存在する状況で、土壌水分が高まった際に大量に発生する性質を持っています。
 山梨県が近年、開発・普及を進めている「マルチ下局所施肥」では、マルチで覆われた畝部分にのみ施肥を行い、降雨が直接影響する通路へは施肥を行いません。そのため、窒素と水分の両方が高まる状況が回避されることで、NO発生量を低減できる可能性があるとの仮説を立てました(図1)


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図1 マルチ下局所施肥によるNO発生抑制のメカニズム


技術の概要
 「マルチ下局所施肥」は、マルチで覆われた根圏に集中的に肥料を施用することで、肥料の利用効率を高め、化学肥料の施肥量を削減する技術です。さらに、作物の養分吸収パターンに合わせて速効性と緩効性の肥料を組み合わせて施用する「基肥一回施肥」の技術と組み合わせることで、追肥作業を省略でき、農作業の労力削減にも役立ちます。

 山梨県は、これまでにスイートコーンとナスについて、マルチ下局所施肥による改善施肥体系を開発し、農家への普及を進めてきました。

 さらに、マルチ下局所施肥の応用として、2~3作分の肥料を基肥一回施肥でマルチ下に施用する「複数作一回施肥」の施肥体系開発にも取り組み、これまでに二作一回施肥(スイートコーン+キャベツ)と三作一回施肥(レタス+スイートコーン+ブロッコリー)等の施肥体系が開発されています(表1)。「複数作一回施肥」は、追肥を省略できるだけでなく、マルチを張り替えずに連続して作物を栽培できるため。作業時間の大幅な短縮が可能です(写真1)
 これらの改善施肥体系で作物を栽培することで、慣行施肥で栽培した場合と同等以上の収量を確保でき、窒素利用効率も大きく向上します(写真2・表2)


表1 マルチ下局所施肥を中心とした改善施肥体系の例
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▼山梨県総合農業技術センター研究成果情報はこちら


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写真1  二作一回施肥栽培のイメージ 
※同じマルチを活用し、1作目のコーンの植え穴(中央写真の○)の間に新たな穴を開け、2作目のキャベツを定植。


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写真2  マルチ下局所施肥および慣行施肥で栽培されたスイートコーン
マルチ下局所施肥(左)とマルチなし・全面施肥(右)


表2 二作一回施肥で栽培した作物の収量および窒素利用効率
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Oの削減効果
 マルチ下局所施肥でスイートコーンを栽培し、マルチ被覆なし・全面施肥で栽培した場合と、NO発生量を比較しました。併せて、二作一回施肥栽培でスイートコーンとキャベツを栽培し、マルチ被覆なし・全面施肥で栽培した場合と、NO発生量を比較しました。その結果、マルチ下局所施肥(一作、二作一回)によって、全面施肥と比較して、NO発生量を大幅に低減できることが明らかになりました(表3)。全面施肥区では、施肥後に大量のNOが発生し、特に通路からのNO発生量が大きくなります(図2)。一方、局所施肥区では、作期を通じてNO発生量が低く抑えられます(図2)


表3 施肥体系の改善がNO発生量に及ぼす影響
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図2 NO放出速度の推移
※矢印は対照区における施肥時期を示す


まとめと活用上の留意点
 マルチ下局所施肥は元来、農作業の省力化と肥料コスト低減を目指して開発された技術であるため、農家に負担をかけることなく、温室効果ガス削減への取り組みが可能です。
 この技術は、いずれの地域でも適応可能ですが、山梨県が開発した施肥体系以外の作型にマルチ下局所施肥を導入する場合は、各地域・作型に適合する肥料の組み合わせをあらかじめ検討する必要があります。


執筆者
山梨県総合農業技術センター環境部環境保全・鳥獣害対策科
主任研究員
馬場久美子