提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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トラクター等でけん引することで手軽に本暗渠を施工できる「カットドレーナー」

2023年07月11日

研究の背景とねらい
 水田転換による大豆や麦などの畑作物や、野菜等の高収益作物の導入が求められています。特に高収益作物は湿害に弱いものが多いため、排水性の強化により増収効果が期待できます。公共事業による暗渠排水の施工が全国で実施されており、農地再編整備事業等で暗渠の更新による排水改良も実施されています。一方、公共事業の実施にはある程度まとまった面積を必要とする、申請から実施まで一定の期間が必要等の、一定の要件が必要となります。そのため、アスパラガス等の永年性の野菜や果樹の生産者の中には、自前で暗渠を施工する事例もあります。

 このような背景の中、農研機構はこれまでに、トラクター等の農作業機でけん引することで排水改良が可能となる作業機の「カットシリーズ」を開発してきました。主なものとしては、無材の暗渠を施工可能な穿孔暗渠機「カットドレーン」、全層心土破砕機「カットブレーカー」があります。しかし、公共事業のように長期間効果が持続する暗渠施工機はこのシリーズの中にはありませんでした。

 そこで、大型のトラクターや農作業用のブルドーザーを用いてけん引することで暗渠管とモミガラ等の疎水材を深さ80cm程度まで埋設可能な本暗渠施工機を開発しました。


技術の概要
 地面を開削することなくトラクター等の農業機械を用いてけん引することで、コルゲート管等のフレキシブルな管を埋設し、かつ管の直上にモミガラやウッドチップ等の疎水材を筋状に埋設する機能を持つ「カットドレーナー」(写真1)により、深さ80cm程度までのコルゲート管等の排水管をもつ本暗渠を施工することが可能です。

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写真1
V字刃本暗渠機「カットドレーナー」の外観(左)とトラクタへの接続事例(右)


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施工状況。疎水材投入(左)とパイプ挿入(右)(同時作業)


 「カットドレーナー」は前面に配置されたV字刃と、その後ろの暗渠管と疎水材を地中に埋設するためのユニットから構成されています(図1)。トラクター等でけん引することでV字刃により幅7cmの溝を作り、溝の底に暗渠管を、その上の溝に疎水材を埋設して本暗渠を施工することができます(図2)。本機を用いていくつかの農地に施工したところ、写真2のような断面をもつ暗渠が形成され、降雨時に安定した排水効果を発揮することが確認されました。


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図1 カットドレーナーの構造


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図2 カットドレーナーによる本暗渠の施工方法


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写真2 カットドレーナーによる本暗渠施工後の土壌断面
左 :管埋設深 管下80cm 礫質灰色低地土(北海道:畑地)
右 :管埋設深 管下50cm 礫質灰色台地土(岩手県:水田)


 土の硬さや水分状態にもよりますが、90~150馬力のトラクターや農耕ブルドーザーを用いることで、0.5~1km/hの速度で施工が可能です。オペレーターを含み3名により、10aあたり0.4時間程度で施工可能です(資材補給時間込み;木材チップ疎水材を使用の10m間隔で施工の場合)。


 機械走行が容易な乾燥した時期の地盤の固い台地土や沖積土、黒ボク土の圃場が施工に適しています。レキが極端に多い圃場では施工できませんが、多少のレキを含む(直径30cm未満の石礫を1割未満含む)圃場であれば施工可能です。暗渠施工と同時に、V字刃による心土破砕効果も期待できます(図2)


執筆者
農研機構 農村工学研究部門 農地基盤情報研究領域
岩田 幸良