提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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注目の農業技術



ナシの補植における早期多収技術

2023年04月20日

背景とねらい
 茨城県内のナシ園地は樹齢30年生以上のものが多く、収量や果実品質の低下が懸念されていますが、改植(樹を植え替えること)は一定期間の収入減を伴うため、生産者心情として実行しにくいのが現状です。実際のナシ園地では、枯死してしまった樹や樹勢の弱い樹はスポット的に生じている事例が多くみられます(写真1)
 そこで、園地内のスポットを穴埋め(補植)するような形で、従来よりも収穫量を早期に確保できる栽培方法として、「1株3樹植え1本主枝仕立て」を検討しました。


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写真1 既存のナシ園地内にスポット的に生じた枯死樹


技術の概要
 茨城県のナシ栽培では、苗木1樹につき3本の主枝を仕立てて樹を育成していく方法(3本主枝整枝)が主流であるため、補植の場合も同様の主枝の配置である方が効率的であると考えました。1株3樹植え1本主枝仕立ては、1箇所に苗木3樹を植え付け、それぞれの苗木が主枝1本を担うように仕立てていく方法です。
 具体的には、3本主枝整枝と同様に各主枝(苗木)の間隔を約120°とし、周辺樹の枝の配置に合うように苗木の定植位置を決めます。定植した苗は120cm程度で切り返し、各樹につき1本の支柱を立てて新梢を誘引し、主枝候補枝を育成します(写真2)。定植2年目以降は各樹の主枝を延長するとともに、途中から発生した新梢を側枝(将来、着果させる枝)の候補枝とします。そして定植3年目から結実を開始します(写真3)


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写真2 1株3樹植えの定植1年目の樹姿


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写真3 定植3年目の初結実の状況
:1株3樹植え1本仕立て  :慣行仕立て ※品種は茨城県育成品種「恵水」)


特徴とメリット
 1株3樹植えは3本主枝整枝に比べると、1株あたりの新梢発生数が多く、早期に側枝を確保することができます(写真4、表1)。一般に、ナシでは主枝数が多いほど樹の勢いが落ち着き、主枝数が少ないほど新梢生育が旺盛となるため、主枝数の少ない1株3樹植えの方が新梢発生数が多くなったと考えられます。
 早期に側枝を確保できることで、定植3年目から結実が開始され、定植5年目までの累積収量は3本主枝整枝を大きく上回りました(図1)。また、果実品質にも問題はみられませんでした(表2)


20230414chumoku_4L.jpg  20230414chumoku_4R.jpg
写真4 定植2年目の新梢発生の様子
:1株3樹植え1本仕立て  :慣行仕立て ※品種は茨城県育成品種「恵水」)



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図1 仕立ての違いが定植3~5年目の収量に及ぼす影響
(10aあたり75樹で換算)



導入における留意点
(1)せん定・新梢管理
 樹冠拡大中は通常の樹づくりの基本と同様に、主枝先端の新梢の生育を脅かすような、主枝直上から発生した強勢な枝はなるべく使わず、主枝の横や斜め下から発生するような新梢を側枝候補枝として用います。また、株元部分は苗木同士の間に空間ができ、棚面を側枝で埋めることが難しいですが、樹冠拡大中は無理に返し枝を用いると主枝の生育を負かすおそれがあるため、側枝先端も主枝先端と概ね同じ方向を向くように配枝します。樹冠拡大が一段落し、主枝が十分強くなってから株元部分へ側枝を配枝して棚面を埋めていきましょう。


(2)着果数
 側枝数を早期に確保することができるため、側枝あたりの着果数を目安にして着果管理を行った場合、着果過多になってしまうことがあります。樹齢が若いことを考慮して、果実の肥大状況をみながら着果数を調整しましょう。


(3)定植前の土壌処理
 白紋羽病対策として確立されている温水点滴処理(写真5)には、いや地物質(前作樹由来の生育阻害物質)を流下させることで、定植1~2年目の苗木の生育を促進する効果も確認されました(写真6)。白紋羽病の防除といや地リスクの回避を同時に行える処理として有効です。なお、温水点滴処理の実施が難しい場合は、定植箇所にナシ栽培歴のない土を用いて客土を行う方法でも同様の生育促進効果を得ることが可能です。


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写真5 ナシ抜根跡地への苗木定植前の温水点滴処理


20230414chumoku_6L.jpg  20230414chumoku_6R.jpg
写真6 定植前の温水点滴処理が定植後の「幸水」苗木の生育に及ぼす影響
:温水点滴処理  :無処理 ※いずれも定植翌年7月の同日に撮影)


執筆者
比屋根 雅子
茨城県農業総合センター園芸研究所 果樹研究室