多収で病虫害抵抗性が優れるでん粉原料用カンショ「こないしん」
2023年03月28日
はじめに
でん粉原料用カンショは南九州の基幹作物で、特に鹿児島県ではカンショ栽培面積の約4割に、でん粉原料用品種が作付けされています。長年、でん粉品質に優れた多収の品種「シロユタカ」が、でん粉原料用の主力品種として使われてきました。しかし近年、農家数の減少や単収の低下、サツマイモつる割病の多発、2018年に国内で初めて発生が確認されたサツマイモ基腐病(以下、基腐病)の被害の拡大などにより、でん粉工場では深刻な原料不足に悩まされています。九州沖縄農業研究センターでは、でん粉原料の安定生産のため、「シロユタカ」よりも多収で耐病性に優れるでん粉原料用品種の開発に取り組み、2019年に「こないしん」を育成しました。
「こないしん」の特徴
「こないしん」のいもは楕円形で、皮色は茶橙、肉色は黄白、目は浅く、条溝および皮脈は"微"、裂開の発生はありません(図1)。上いも収量は、マルチ栽培・無マルチ栽培ともに「シロユタカ」よりも優れ、でん粉歩留は「シロユタカ」並みで、でん粉収量は「シロユタカ」よりも2割以上多収です(図2)。でん粉の品質に影響するでん粉白度は、「シロユタカ」並みに高いです。つる割病抵抗性は「シロユタカ」よりも強い"やや強"です(表1)。
「こないしん」は、基腐病の初発生と時を同じくして誕生しましたが、基腐病に対しても抵抗性があります(図3)。サツマイモネコブセンチュウの主要な3レースに対する抵抗性は"強"、ミナミネグサレセンチュウに対する抵抗性は"やや強"、黒斑病抵抗性は"やや弱"です(表1)。
図2 育成地(宮崎県都城市、2014~2018年)における上いも収量とでん粉歩留(A)、でん粉収量とでん粉白度(B)。
エラーバーは標準誤差(n=5)を示す。でん粉白度は粉体白度計(C-130, Kett)により測定した
表1 病虫害抵抗性 検定試験結果
図3 サツマイモ基腐病甚発生圃場における発病程度別塊根収量
2022年5月10日植付、10月17日収穫
成果の活用や今後の課題
でん粉を意味する"粉"と変革を意味する"維新"を合わせた「こないしん」という名には、カンショでん粉をめぐる現状を変える品種になってほしいという期待が込められており、「こないしん」は農林水産省の最新農業技術・品種2021にも選定されています。
基腐病に強かったこともあり、鹿児島県内の多くのでん粉製造事業者は「こないしん」の栽培に取り組んでおり、令和4年の栽培面積は1500haを超えています。基腐病の被害が深刻化する中、「こないしん」がカンショに携わる多くの方々の希望の品種となることを切に願っています。一方で、しょ梗が強いため収穫時にいもが離れにくい、また、いものしっぽ(尾部)も手でちぎりにくいといった欠点もあるため、基腐病に強く、収穫作業性にも優れる品種の開発を進めているところです。
なお、「こないしん」の育成の一部は、生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(29028C)の支援を受けています。
執筆者
小林晃
農研機構九州沖縄農業研究センター カンショ・サトウキビ育種グループ