クロタラリアと鶏ふん堆肥を利用した秋作ブロッコリーの減化学肥料栽培
2021年10月19日
背景とねらい
長崎県は、環境負荷を考慮した施肥基準の見直しや減化学肥料栽培等の環境保全型農業を推進しています。そこで、慣行栽培の化学肥料施肥量を50%削減することを目的に、マメ科緑肥であるクロタラリアと、地域の未利用資源として鶏ふん堆肥を利用した秋作ブロッコリー栽培の減化学肥料栽培を検討しました。
左 :クロタラリア(品種:ネマコロリ) / 右 :ブロッコリーの栽培
特徴とメリット
1.慣行の秋作ブロッコリー栽培の窒素施肥量(N 25kg/10a)の50%に相当する窒素量をクロタラリアと鶏ふん堆肥(合計でN 12.5kg/10a、表1)の肥効を利用することで、慣行栽培と同等の収量が得られることをセンター内試験で確認しました(図1)。また、ブロッコリー生産者圃場(雲仙市)においても、同様の結果が得られました(図2)。
なお、センター内試験は秋作ブロッコリーの後作はなく、他品目栽培の残肥の影響はない収量の結果です。
左 :図1 センター内試験(2019年度) / 右 :図2 生産現地試験(2019年度)
2.化学肥料施肥量を50%減肥することで、化学肥料由来の硫酸イオンや硝酸イオン等の量が減少するため、慣行栽培と比較して作後の土壌pHを下げず、ECを高めない効果があります(表2)。
研究成果の活用および留意点
1.クロタラリアの播種量は6kg/10aで、すき込みは播種後50日頃の開花期前後に実施します(表3)。この時期を過ぎるとクロタラリアの茎の繊維質が強靭になるため農業機械に絡まる等で作業性が落ちてしまうので注意が必要です。
2.本試験で使用した鶏ふん堆肥は、採卵鶏由来で形状はペレット、主要な成分の含有量(製品表示値)は現物値で窒素全量3%、リン酸全量4%、カリ全量3%、炭素窒素比7で、元肥と同時に施肥します。2017年2019年度試験における鶏ふん堆肥の施肥量は、毎年度購入したうえ肥料分析した結果で決定し、平均で概ね400kg/10aでした。
3.クロタラリア(品種:ネマキング、ネマコロリ)、ソルガム(品種:つちたろう)、エビスグサ(品種:エビスグサ)を対象に窒素含有量等を比較した結果、肥効が優れるネマコロリを選出しています(写真4、表4)。
4.2020年3月に農研機構が発行した「緑肥利用マニュアル-土づくりと減肥を目指して-」に本成果の一部が掲載されています(図3)。
図3 「緑肥利用マニュアル -土づくりと減肥を目指して-」(2020年3月31日発行、農研機構)
5.ブロッコリー連作地域においては、定期的な土壌診断により、鶏ふん堆肥由来のリン酸、塩基の蓄積の有無を確認するようご留意ください。
おわりに
緑肥と鶏ふん堆肥の肥効を利用することで、秋作ブロッコリー栽培の化学肥料施肥量をNPKそれぞれ50%減肥しても、慣行栽培と同等の収量が得られることを今回の試験で確認できました。
緑肥や堆肥などの有機質資材を活用した減化学肥料栽培は、環境負荷低減だけでなく、作後土壌pHの低減を抑制でき、低pH土壌で発生しやすい根こぶ病のリスクを下げることに繋がります。
なお、本研究は、農林水産省委託プロジェクト研究「生産コストの削減に向けた有機質資材の活用技術の開発」の補助を受けて行いました。緑肥利用マニュアルは以下に公開されています。
執筆者
長崎県農林技術開発センター 環境研究部門 土壌肥料研究室
主任研究員(土壌医)
五十嵐総一