V字状に幅広な破砕溝を構築できる全層心土破砕機「カットブレーカー」
2020年12月25日
背景とねらい
水田転換畑では、緻密な耕盤層が残っているため排水性が劣り雨水などが溜まりやすい状態になる場合が多くあります。このような条件では、畑作物の目標とする収量や品質が確保できません。畑作物や野菜の生育を良好に保ち生産性を高めるには、より深く・より広範囲の土壌の緻密性・通気性・透水性の条件を、畑作物の根伸長に適するように改善する必要があります。
営農による対策には心土破砕が広く実施されていますが、これまでの技術では十分に効果が発揮されない場合があります。そこで、これらの課題を解決した、多様な土壌条件に適用可能で、効果的な、新たな心土破砕の技術を開発しました。
技術の概要
従来の営農による心土破砕より深く、表面から70cmまでV字状に幅広く土壌を破砕できる全層心土破砕機「カットブレーカー」を開発しました。カットブレーカーは、小型~大型のトラクタに装着できます。
カットブレーカーは、牽引力で土中の30~70cmの任意の深さに1~3連のV字状の破砕溝を構築でき、堅密な土壌を改良します。施工方法(図1)は、V字状の切断刃を挿入して土塊を持上げて破砕、後方に落下させて埋戻し、破砕溝を構築します。破砕溝では、土壌硬度である貫入抵抗値が大幅に低下しており、3年後も破砕効果が保たれています(図2)。それにより、透水性と通気性が改善され、根域の拡大と湿害回避が期待されます。加えて、破砕溝の横に凸状の非破砕な堅密部が形成されており、機械走行のための地耐力の維持とともに保水性の維持による干ばつ回避の効果が期待されます。
左 :カットブレーカー2連タイプ。標準は2連、オプションで追加可能
右 :トラクタへの装着状況。2連タイプ、120馬力トラクタ接続
ラインナップ 左から ブレーカー・60~150馬力、mini2連・50~60馬力、mini1連・50馬力以下
施工方法:施工時の横方向からの視点(左)とV字状の破砕部(中)、施工後の土壌断面(右)
図1 全層心土破砕機「カットブレーカー」の概要と施工方法
図2 カットブレーカー施工後の貫入抵抗値 (2017北海道鹿追町施工ほ場)
カットブレーカーは、V字状に切断した土を持上げてそのまま落下させるため、土壌の攪乱が少ない特徴があります。このため、土壌の化学性を変化させることなく物理性だけ改善できます。また、切断刃が斜めに配置されているため、土中の直径10cm程度の石は、衝突時に石と切断刃が上下方向に相互にズレ、後方に抜けることから、表面まで持ち上がることはありません(図1)。
技術の改善効果
本機を利用して、堅く締まって地表に水が溜まりやすい土壌を確実に破砕し、下層土や既設の暗渠まで迅速に余分な水を浸透させることにより、農地の排水性を良好に保ち、畑作物の生産を安定化することができます。特に、堅密な土壌のため作物の生育が抑制される洪積土のほ場において大豆の生育を改善し、収量を増加させます(写真1)。また、湿害に弱い大豆のほか、根域拡大が必要な根菜類のジャガイモやテンサイの畑作物に対して効果的です(表1)。
写真1 カットブレーカーの大豆に対する効果
左 :ほ場での生育状況(未施工区(左)と施工区(右):ブレーカーmini・1連、洪積土)
右 :成熟期の作物(未施工区(左)と施工区(右))
表1 カットブレーカーの畑作物の収量(坪刈り)に対する効果
カットブレーカーの適用条件
カットブレーカーは、概ねすべての土壌に活用できます。施工の間隔はトラクタ幅での全面的な施工を標準とします。主に転換畑、畑、草地で使用します。使用上の留意点は、石礫が5%以上含まれる除礫が必要なほ場、石礫5%未満ではあるが直径30cmを越える巨礫が含まれるほ場、埋木があるほ場に使用できないことです。また、本機は破砕強度が強いため、水田や施工後3年以内に復田するほ場への施工は望ましくありません。復田が想定される場合は、1連或いは2連の施工機を用い、施工方向を田植え方向と直交に施工し、田植え機の旋回部に施工しないことが必要です。
今後の展望
カットブレーカーは、農家や法人への個別の導入とともに、農業団体や自治体による共同利用、レンタル業、建設業による請負施工などの低コストな施工ができる体制での普及を目指しています。
執筆者
農研機構 農村工学研究部門 農地基盤工学研究領域
北川 巌