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果実が大きく食味がよい露地栽培用イチゴ新品種「東京おひさまベリー」の育成

2019年10月03日

育成の背景
 現在、イチゴは全国的に促成栽培が主流ですが、都内では消費者自らが果実を収穫する体験的な直接販売を行っている露地栽培があります。露地栽培用の主要品種「宝交早生」は古い品種で甘くて多収ですが、果実が小さい、軟らかくて傷みやすいなどの問題があります。そこで、都内の露地栽培に適した、大果で傷みにくいなどの特徴を持つイチゴ品種の育成に取り組みました。


育成経過
 「女峰」×「宝交早生」の交配実生から選抜した「99-8」を種子親、「99-8」に「芳玉」を交配し、選抜した1系統を花粉親として2005年に交配を行いました。得られた実生から選抜を重ね、目標に達した1系統を「東京おひさまベリー」として2016年5月に登録出願し、2019年3月に品種登録されました(登録番号:第27386号)。


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 :生育の様子 /  :果実の外観および断面


特性の概要(「宝交早生」と比べて)
●草姿は立性で葉が大きく葉柄も長いので植物体が大きく、草勢も強くなります。
●花芽分化が2~3日早く、休眠打破のための低温遭遇時間がやや短く、開花開始が3日ほど早くなります。
●収穫開始は、1~2番果が大きくなり、5~6日程遅い4月下旬~5月上旬になります。
●果実は、丸味を帯びた卵円形で大きく、果皮は鮮やかな赤色で光沢が強く、外観は優れ、内部も果肉、果心ともに赤色で、ジャムなど加工した際の色調もきれいです。
●果皮、果肉ともにやや硬く、軟化や灰色カビ病の発生が少なくなります。
●糖度は同程度で酸度がやや高いので甘味と酸味のバランスがよく、さらに独特の香気があり、食味は良好です。
●収穫果数は少ないが果実が大きく、可販果収量で1.5t/10aと、ほぼ同程度の収量があります。


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 :「東京おひさまベリー」の収量(2013~2015年の平均)
 :「東京おひさまベリー」のジャム


栽培上の留意点
 露地栽培なので、基本的には「宝交早生」に準じた栽培管理を行います。
●「東京おひさまベリー」は草勢が強く、窒素の肥効が強いと過繁茂や先青果が発生するので、土壌診断の結果によっては窒素施用量を減らす必要があります。
●「宝交早生」と比べて果柄が長く、果実が通路に出ることがあります。ベッドの内寄りに定植するか、ランナーの切り口を正面内側ではなく斜めに向けて植え付けます。


「東京おひさまベリー」の普及に向けて
 苗の販売に関しては、東京都種苗会を通じて都内に限らず全国に向けて行います。露地栽培用品種であるので、都内はもとより全国の露地イチゴ栽培の生産者が栽培できます。さらに、家庭菜園や市民農園などで一般の方の利用も期待できます。
 今後は、品種特性を活かせる栽培管理技術を開発するとともに、関連機関と協力して都内での栽培を普及していきます。


執筆者
海保富士男
東京都農林総合研究センター園芸技術科野菜研究チーム