落合いも-丹波山の歴史と食文化を守り、育て、未来に残す
2017年12月11日
特徴と由来
●山梨県北都留郡丹波山村
東京都の奥多摩に隣接し、多摩川の上流水源域の丹波山村では、「落合いも」と「つやいも」の2種類の在来バレイショが栽培されています。
中でも「落合いも」の栽培は古く、隣接する山梨県塩山市(現在の甲州市)落合地区から丹波山村杉奈久保地区に導入されたと伝えられています。
山梨県には、かつて清太夫(せいだゆう)薯と呼ばれた薯があり、高野長英の「救荒二物考」によると、この薯は「甲斐国に於て明和年間(1770年ごろ)、代官中井清太夫の奨励によりて早く該地に繁殖し、今に至るまで清太夫薯の名にあり...」と記され、甲斐国は救荒作物としてのバレイショの導入先進地であったことが伝えられています。
落合いも(あかいも)
産地の動向
「落合いも」は4月中旬頃に植え付け、7月中旬に収穫します。薯の皮の色は淡く赤みがかっていることから「あかいも」と呼ばれることもあり、肉質はきめ細かく粘り気があり、煮くずれし難い性質です。重さは平均して40gの小振りのものが多いです。
このイモの栽培ピークは昭和30年ごろでしたが、その後、男爵薯やメークインが入ってきたことで栽培は減少。やがては過疎高齢化の進行に伴う担い手減少等の影響を受け、一時は丹波山村の「落合いも」は消失したものと考えられていましたが、村内で栽培を続けてきた1戸の農家から種いもが入手されたことを機に、地域遺伝資源の保全に対する文化的価値を再認識し、丹波山村在来種ジャガイモ等保存会を創設して種イモ保存が行われるようになりました。
現在では、村内の一般農家に加え、農業法人等が中心となって保存活動を推進することで、耕作放棄地の保全と有効活用、学校給食や調理講習会等の食育活動を通じた世代間交流と伝統文化の継承、都市住民との交流体験等農村振興への多様な効果が現れるとともに、年々種イモ増産の成果が上がっています。
丹波山村在来種ジャガイモ等保存会による増産活動
利用方法(食べ方)
丹波山村を含む北都留郡では、在来バレイショの栽培が見られる地域の郷土料理の一つとして、小粒のイモを皮付きのまま味噌、砂糖、みりん等で甘辛く煮詰めた煮っ転がしにして食されることが多いです。作り方や味付けは家庭ごとに少しずつ異なり、丹波山村ではこれを焼き転がしと呼ぶこともあるようです。
このほか、蒸かした「落合いも」に丹波山村で昔から伝わる、辛いおかず味噌の南蛮味噌または葱味噌をつけて食すスタイルや、煮くずれしにくい特徴を活かして芋煮や味噌汁の具としても利用されています。
これらは、一般の家庭料理として食されているほか、7月のジャガイモ祭りをはじめ、主に村のイベント等でも提供され、来村者も伝統的な郷土料理としてその味を楽しむことができます。
ねぎ味噌で食べる蒸かしいも
芦澤秀雄
山梨県富士・東部地域普及センター 副主幹
●月刊「技術と普及」平成28年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載