キャベツセル苗の深植えによる根系発達と耐倒伏性の向上
2017年10月23日
背景とねらい
近年の加工業務用キャベツ需要の増加に伴い、機械化一貫体系の導入が進められていますが、その核となるキャベツ機械収穫では、結球部が倒伏する(傾く)と作業効率が低下する問題があります。倒伏の抑制をめざして育種や育苗技術が検討されていますが、それ以外の栽培技術として、キャベツのセル苗を深めに定植することで、収穫時の結球部の倒伏を軽減できることを明らかにしました。
セル苗の深植え定植の方法
標準的な定植では、キャベツセル苗に軽く覆土(4-5mm深程度)する程度に植えますが、深植え定植では、培土の上に2cm程度土が覆土するように深めに定植します(図1)。
深植え定植による倒伏抑制効果
収穫時におけるキャベツ結球部の倒伏は、標準植えや浅植えに比べ、深植えすることで軽微な範囲に抑えることができます(図2)。
図2 収穫時のキャベツ結球部の傾き
結球部の傾きは、垂直方向からの角度で示す
深植え定植による根系発達と耐倒伏性
倒伏には、茎と根が関与しますが、今回は根系に注目しました。
キャベツセル苗を浅植え定植すると、結球始期までに表層(1~2cm深)に少数の太い根が多く発達するのに対し、深植え定植ではより深い3~5cm深に多数の細い根(直径2mm以下)が発達します(図3)。
キャベツ倒伏の様子を観察するため、人為的に押倒したところ、株直下の根系および土壌が周囲の土壌と断裂し、回転することで倒伏することが分かりました(図4)。
キャベツ押倒しの抵抗値は、浅植え定植に比べ、深植え定植で高くなる傾向がみられました。これには上記の根系発達の違いが関係していると考えられます。
図3 定植深度別の根の直径と本数
直径0.5mm以上の根を調査
図4 キャベツの倒伏調査(押倒し)に 伴う根系および土壌の動向
キャベツ茎部を土壌断面と並行方向(図の左方向)に人為的に押倒し、根系および土壌の動きを観察。
×:株元の根系と土壌の回転中心、
△:移動の方向、点線:測定前の地表面、数字:茎部の垂直からの角度
活用上の留意点
深植え定植では、セル苗の子葉や胚軸が覆土されても大きな影響はありませんが、生長点が覆土されないように注意が必要です。
定植作業は、うね立て(うね幅60cm、うね高20cm)後に半自動移植機を用いて植付け深さを変えて実施しており、定植深度による作業性の違いはほとんど認められません。
この成果は、宮城県岩沼市の砂地圃場およびその土壌を用いたプランター試験により夏秋期キャベツ栽培で得られた結果であり、他の品種、異なる土壌や栽培時期については本事例と異なる可能性があります。
執筆者
山本 岳彦
農研機構東北農業研究センター畑作園芸研究領域