ゆうこう-長崎オリジナル香酸カンキツで新たな地域産品作り
2016年03月17日
由来
「ゆうこう」(写真1)は、現在、長崎市南部の土井首(どいのくび)地区と北部の外海(そとめ)地区といった限られた地域(図)に、わずか100本ほどの自生が確認されている香酸カンキツです。
自生している地域は隠れキリシタンと深く関わりがあり、「ゆうこう」は「キリシタンが伝えたのではないか」といわれるなど、歴史的興味を抱かせる説もあります。幕末から明治にかけて多くの外国人が長崎を訪問、居住しており、その頃使われていた「だいだい」に変わる調味料として甘みがあり洋食に適していたことから「ゆうこう」が広く栽培されるようになったとも言われています。
「ゆうこう」の分布地域
写真1 ゆうこう果実
(長崎県農林技術開発センター果樹研究部門提供)
食べ方
土井首と外海地区では、昔から家の周囲に栽培されており、とれたての鰯などに絞った果汁をかけて食べたり、果実に竹ストローを突き刺して果汁を飲んだり、お風呂に浮かべたりと、地域に根付いた果物として利用されています。
生産振興への取り組み
「ゆうこう」の再発見は平成13年頃、長崎市職員が地域の調査をしている時、道端のカンキツをもらって食べたところ独特の味がしたことから、(独)農研機構 果樹研究所カンキツ研究興津拠点の根角氏(現:農研機構 近畿中国四国農業研究センター)に調査を依頼したのが始まりです。
「ゆうこう」の古木における果実特性等については、根角氏らにより、果実重は150g程度であり、扁球径で果径指数は115~124。果皮の厚さは5.5~6.9mm、含核数は25~35粒と多くなっています。12月に着色し、果汁のクエン酸は3.2~3.9%で、ユズ、ユコウ、カボス、木酢等の既知の香酸カンキツには「ゆうこう」の形質と同一の品種は見当たらないと報告されました(表)。また、長崎県農林技術開発センター果樹研究部門において、ゆうこう果汁中に含まれる総フラボノイドの98%、果皮に含まれる総フラボノイドの83%が、抗アレルギー性等の生理機能が報告されているヘスペリジンとナリルチンであると明らかにされています。
現地では平成16年「ゆうこう振興検討会議」を発足し、自生樹の調査(分布調査)を実施し、現在では長崎市の認定農業者を中心に苗木を配布(3組織で350本程度)しています。
6次産業化の取り組みにも熱心で、果汁、果肉、果皮などを利用した試作品を作成し、ポン酢の「龍の泪」(写真2、平成25年度「長崎四季畑」長崎県認証)も販売されています。
平成17年から導入された苗木も結実を始めており、自生樹の果実に頼った活動から、安定生産に向けた取り組みが課題となり、栽培技術向上を支援しています。
写真2 龍の泪(長崎市提供)
角口紀義
元 長崎県県央振興局長崎地域普及課
●月刊「技術と普及」平成26年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載