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ウメ輪紋ウイルス(プラムポックスウイルス) の見分け方と対策

2012年07月12日

●発生の経緯
 ウメ輪紋ウイルス(プラムポックスウイルス)は、モモ、スモモ、アンズなど核果類の葉や果実に輪紋や斑紋を生じる上(写真1)、奇形果、早期落果なども起こし、収穫が大きく減るため、世界的に恐れられている病気です。1915年頃ブルガリアで初めて確認され、その後ヨーロッパ各地でも発生が見られるようになりました。さらにトルコ、エジプト、南米にも発生が拡大し、1999年にはアメリカ合衆国にも発生したため、わが国でも発生を警戒していました。

 そのような中、東京都青梅市のウメの葉に輪紋やモザイク症状の発生が多数見つかり(写真2)、2009年、東京大学植物病院がウメ輪紋ウイルスによる病気であることを確認しました。昨年は、東京都を始め、茨城県、滋賀県、大阪府、奈良県のごく一部で感染樹が見つかっています。これらの感染樹のほとんどは、青梅市から苗木または穂木が持ち込まれ栽培されていたものです。
 このウイルスは、アブラムシや接ぎ木によって他のウメやモモなどに伝染します。一度感染すると治療法がないこと、モモ、スモモなどへの農業被害が危惧されることから、農林水産省と関係都府県により、国内からの根絶をめざして感染樹の伐採が進められています。東京都の西部地域では、青梅市以外にも周辺の6市町で多くの感染樹が見つかっていますが、今年度中にはすべての感染樹を伐採する予定であり、他の地域でも感染樹が見つかり次第、すべて処分(伐採・抜根)されています。


  
 :(写真1)海外でのモモ果実の輪紋症状(海外の研究者提供写真)
 :(写真2)青梅市でのウメの発症樹の症状。多くの葉に斑紋症状が現れている


●見分けやすい症状
 ウメでは、ほとんどの品種で、葉に明瞭な症状が現れます。葉の緑色に濃淡が生じる斑紋モザイク症状が多くの葉に現れ、その一部は、色の薄い部分がリング状につながって見える輪紋症状となります(写真3、4)。ただし、葉色に濃淡があっても、変色部分の葉裏にカビが生えているような場合は、ウメ輪紋ウイルスではなく、別の原因による場合があります。果実にも斑紋・輪紋症状が見られることがありますが(写真5)、その症状は軽く、発生率はあまり高くないようです。


  
ウメの葉での症状。
 :4月下旬(写真3) /  :6月下旬(写真4)



(写真5) ウメ果実の症状。輪紋、斑紋が見られるが発症率は低い。奇形が見られる場合もある


●病徴が見やすい時期 
 ウメでは、5月から6月の新葉が多く出てくる時期に、病徴もはっきりしてきます。出たばかりの若い葉での病徴ははっきりしませんが、展葉して色が濃くなってくる頃に、斑紋・輪紋症状が明瞭になってきます。感染から数年以内の場合は、樹の一部の枝の葉だけでしか症状が見られない場合もありますが、感染から年数が経つと、ほとんどの枝の葉で症状が見られるようです。その後、夏になっても展開した葉での斑紋・輪紋症状は残ります。


●他の果樹類での症状 
 プルーンではウメと同様の症状が認められていますが、わが国のモモの症状は葉に淡い斑紋が現れたあと、症状は不明瞭になるとの観察があります。また、庭木に使われるユスラウメにも感染します。なお、国内でのこれまでの試験では、サクラへの感染例はありません。


●怪しい症状を見つけたら 
 このウイルスは、前述した各都府県のみの問題ではなく、感染樹のある地域で生産された苗木が国内各地に販売、あるいは譲渡された可能性があるため、思いもかけない地域で見つかる可能性もあります。ウメの苗木を東京の西部地域から購入したり、譲り受けたりされた方は、もう一度ウメの葉の症状をお確かめください。また、果樹農家の皆さんは、自分の果樹園に発生がなくても、周囲の公園や庭木で発生していると、そこから感染が広がります。このような病気があるということを知った上で、もう一度、近くのウメの樹を観察してみてください。

 もし、怪しい症状がありましたら、最寄りの農林水産省植物防疫所、各都道府県の病害虫防除所や果樹(農業)試験研究機関、私ども(独)農研機構果樹研究所などにご連絡ください。症状が出ている生の葉から15分程度で診断できる、イムノクロマト法による診断キット(写真6)が開発されていますので、これを用いて簡易診断を行い、その後遺伝子診断による確定診断を行います。なお、イムノクロマトキットは50検体用が販売されています。



(写真6) ウメ輪紋ウイルス(プラムポックスウイルス)診断キット
(a)イムノクロマト法による診断キット 
(b)診断キットによる検出結果[陽性の場合は下側にバンド(矢印)が出現する。上側のバンドは検出が正常に行われたことを示すコントロール]


 ウメ輪紋ウイルスに感染していることが確かめられた地域には、果樹生産園地や一般家屋の庭を問わず、農林水産省や関係都道府県から周辺の調査や感染樹の処分(伐採・抜根)のお願いにうかがいますので、調査や防除にご協力ください。また、春から秋にかけてはウイルスを媒介するアブラムシが飛び回っていますので、アブラムシ防除の徹底に心がけてください。感染樹を活かしたままで、ウメ輪紋ウイルスを治療する手立てはないことから、少しでも感染を広げないためには、早期に診断し、感染樹はすぐに伐採することが根絶への道筋です。

 なお、ウメ輪紋ウイルスは植物に感染するものであり、人には感染しませんので、果実を食べても健康に影響はありません。

詳しくは農林水産省の下記URLもご参照ください。
ウメ輪紋ウイルス(プラムポックスウイルス)の防除について


執筆者
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所
研究領域長 中野正明