提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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注目の農業技術



野菜栽培のための土作り(耕耘砕土畝立て成形施肥作業)

2008年04月07日

●ねらい
野菜生産は、生産者の高齢化や新規就農者の減少のため年々栽培面積が減少しており、機械利用による省力・軽作業化が望まれています。また、環境に対する消費者の関心が高まる中、肥料を効率よく作物に吸収させることによって施肥量を削減する「環境にやさしい」施肥技術の確立も求められています。


yasai_tutidukuri_sagyouki1.jpg このような状況の中、キャベツやブロッコリー等の野菜栽培では、砕土性に優れるロータリを用い、畝立て器、肥料タンクおよび肥料吐出部を装着することで耕耘、作畝、施肥作業を一工程で行うことができる機械が普及しはじめています。


 ここでは、キャベツ栽培を対象に、1)超砕土成形ロータリを使った土壌の砕土性向上技術と、2)施肥量の削減と追肥作業の省略を目的とした、畝内局所施肥技術について紹介します。


●超砕土成形ロータリと畝内局所施肥の概要
今回、紹介する超砕土成形ロータリと、畝内局所施肥技術の概要は以下のとおりです。

(1)超砕土成形ロータリとは
 (株)クボタから発売されている機械で、ロータリの爪数が48本または52本と慣行のロ-タリ(爪数36本)に比べて12本または16本多く、ギア数の変更によりロータリ回転数が慣行ロータリより多い装置です。本ロータリの利点は、

 1)慣行のロータリに比べて土壌の細分化が優れるため、耕耘後の砕土性が向上する、
 2)稲株を細かく砕きながら耕耘し、同時に畝立てができるので水田での裏作野菜栽培の準備を短期間でできる、  などです。


(2)畝内局所施肥技術とは
 畝内局所施肥は、畝立て時に肥効が緩やかで濃度障害が起こりにくい緩効性肥料を、苗が定植する位置周辺の土壌のみに集中的に施肥する技術です。作業機は、ロータリの後方に肥料吐出部を土壌に埋没させる肥料吐出管を装着させる構造です。福岡県(福岡県農業総合試験場)は、(株)クボタと共同で畝内局所施肥器を開発しました。


 野菜の一般的な施肥法は、ほ場全体に肥料を散布する全面全層施肥ですが、この施肥法は肥料を畝溝など作物の根が分布していないところまで施用するため、肥料の利用率は低くなります。

 一方、畝内局所施肥技術は、

 1)従来の全面に肥料を散布する方法と異なり、肥料を作物の根域に限定するので施肥量が削減できる、
 2)緩効性肥料からの成分溶出パターンを作物の吸収にあわせるため肥料の利用効率が高まる、
 3)全量基肥で施用できるので追肥作業が省略できる、
 4)肥料成分の流亡が減り環境にやさしい、
 5)土壌表面等に肥料がないので、雑草の発生がきわめて少なくなる、

などの利点があります。


yasai_tutidukuri_sagyouki2.jpg 
 :畝内施肥器を装着したトラクタ
 :図1 畝内局所施肥での施肥


●砕土性に優れた畝づくり
 なぜ、畝土壌の砕土性が優れることが良いのでしょうか。

 それは、砕土性が向上することで土壌の透水性や空隙率などの土壌環境が良くなり、植物体の根の伸長や肥料吸収が良くなるほか、機械移植における移植精度が優れることが挙げられます。

 図1は、土壌含水比が異なるほ場での、耕耘後の土塊10mm以上の割合と植付不良株との関係をみたものです。土塊10mm以上の割合が少なくなるほど、根鉢の露出と浅植えが少なくなりました。


 では、畝土壌の砕土性を良くするにはどうしたら良いのでしょうか。

 図2は、ロ-タリ利用における耕耘前の土壌含水比と耕うん後の砕土程度の示したものです。土壌含水比が高くなるほど10mm以下の土塊割合が減少し、砕土性が劣る傾向を示しました。


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 つまり、砕土性を良くするには、作畝前にできるだけ土壌含水比を低下させることが効果的であり、そのためには明きょ、暗きょの設置や水稲栽培期間の溝切り、早期落水等の乾田化対策や、水稲の収穫から野菜苗の移植までが短期間の作型では稲藁を搬出することが有効と考えられます。


また、同じ土壌含水比のほ場で、耕耘後の砕土性を比べると、超砕土成形ロ-タリ(RT-515、K社製)が慣行ロ-タリ(R150G、K社製)に比べて優れ、特に、土壌含水比が高い条件で砕土性が優れました(図3)。


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●開発した畝内局所施肥技術器
(1)畝内局所施肥器
 開発した畝内局所施肥器は、肥料吐出管の先端を横幅13cmの扇型として吐出口中央部の底面を凸状に底上げすることにより、土壌中の肥料の散布横幅が約13cmで均等に分散できます。さらに、吐出部中央に2本の突起棒(長さ4cm)を付けることにより、耕耘土壌が撹拌され、肥料を縦方向約4cmに分散できました(写真、表1、図4)。


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開発した畝内施肥器


yasai_tutidukuri_tosyutsuka.jpg  yasai_tutidukuri_hiryouichi.jpg
 :開発した幅広型肥料吐出管
 :開発器利用による肥料位粒位置


表1 :幅広型肥料吐出管の特徴


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(2)畝内局所施肥で生育を安定させる施肥法
畝内局所施肥は局所のみに施肥するため、定植後から長期間、降雨がない場合には、土壌中の塩類濃度が高くなることがあり、生育を安定させるためには、速効性肥料の全面全層施肥と緩効性肥料の畝内局所施肥を組み合わせる施肥法が望ましいと考えます。


 福岡県のキャベツの初冬出し栽培において、本県の慣行施肥量(施用窒素合計32kg/10a)を基肥と追肥で施用した場合と、作畝前に圃場全面に10a当たり窒素成分10kgを施用し、その後、開発した畝内局所施肥器を用いて窒素成分16kgを畝内施肥した場合(施用窒素合計29kg/10a)を比較すると、畝内局所施肥を行ったほ場では生育初期に株周辺土壌の塩類濃度が過剰にならず、生育中は生育に合わせて肥料から窒素成分が溶出することもあり、慣行の全面施肥に比べて窒素施用量が20%減でも慣行区と同等の収量が得られました(表2)。

 なお、本作型において畝内局所施肥に用いる肥料は、溶出期間が40日の被覆尿素と速効性肥料を、1:1の割合で混合した肥料が良いと思われます。


表2 キャベツの畝内施肥栽培における施肥量と生育、結球重(2001年)


(3)畝内局所施肥技術の留意点
畝内局所施肥の肥料施用量は、肥料繰り出しロールの回転数で決まります。各圃場でトラクタのスリップ程度等が異なるため、施肥前には必ず圃場内を試走して、散布する肥料の量を調節してください。

 また、畝土壌中の肥料の埋設深さは本技術の重要なポイントです。適正な深さは約10cmですので、あらかじめ作畝、施肥して深さを確認してください。なお、土壌水分が極めて高い条件では、吐出管に土が付着して作畝ができない可能性がありますので注意してください。


 本技術は、キャベツの他にブロッコリー栽培でも適応できることを確認しています。ただし、品種、作型、土壌の種類によって吸肥反応等が異なりますので、実施の際は最寄りの指導機関(普及センター等)におたずねください。

(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)


執筆者
福岡県農業総合試験場筑後分場 野菜チーム
森山友幸