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ネギの新しいかたち 「短葉性ネギ」の開発

2007年06月15日

作りやすく使いやすいネギとは

 根深ネギは一般に軟白部が長く、太いものほど商品価値が高いとされています。これは、他の野菜と同様、生産物の大きさによって規格に振り分けられ、市場ではその規格に応じて価格が決められるからです。

 長く太いネギを作るためには、播種から収穫まで少なくとも8カ月を要し、土寄せ作業等の多くの管理労力を必要とします。また、その間に様々な環境ストレスにさらされ、収量減少が問題となります。
 消費者にとってみれば、一般的な荷姿が60cmもあるネギは、買い物袋からはみ出す、冷蔵庫に入らない、一度に食べきれないなどの不便さが指摘されることもあります。


 そこで、野菜茶業研究所では、従来の根深ネギ用品種よりも短く、そのかわり早期収穫が可能になるような軟白部の肥大の早い「短葉性ネギ」の品種開発を進めてきました。

 短葉性ネギは、土寄せ作業などの省力化が可能となることから、高額な機械の導入困難な小規模産地でも取り組みやすく、耕土の浅い土壌へも適応できると考えられます。

 また、消費場面に対しては、「コンパクトで扱いやすく、軟白部だけでなく緑葉部までもおいしく食べられるネギ」をコンセプトに、食味についても差別化が可能となるような、やわらかく、辛味が少なく、葉身も葉鞘とともに利用できるものを目標としました。


育成系統の特徴
 これまでに育成した短葉性系統「ネギ安濃1号」および「安濃2号」は、一般的な根深ネギ品種と比べ、葉身部、葉鞘部ともに顕著に短く太いという特徴的な形状を有します(表1、写真1)


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写真1 短葉性ネギ育成系統の収穫物 (右端は一般的な根深ネギ用品種)


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 短いネギとして知られる「下仁田」と比べると成長が速く、早期収穫が可能です。また、葉鞘の巻きが強く、短くても土寄せの際に葉の中へ土が侵入しにくくなっています。根深ネギの栽培では、通常5、6回程度の土寄せが必要ですが、短葉性ネギでは、2、3回で収穫に至ります。軟白長20cm程度で収穫し、全長40cm程度の荷姿に調製すれば、持ち運びや収納に便利なコンパクトな特徴が引き出されます(写真2)

 食味に関しては、辛味の指標成分であるピルビン酸生成量が、一般の根深ネギ品種よりも低く(表1)、生で食べても辛みをあまり感じないので、白髪ネギや薬味にも適しています。これら2系統については、品種化を目指して、現在系統適応性検定試験を継続中です。


今後の課題
 短葉性ネギは、早く収穫できるものの、従来のネギと比べ生産物のサイズが小さいため、収量を確保するためには密植栽培が必要となります。そのための栽培技術や省力的な調製技術の確立など実用化するためにはいくつかの課題があります。


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写真2 想定される短葉性ネギの似姿


 しかし、ネギの栽培期間の大幅短縮により、生産のリスクを低減させるための柔軟な作付け体系をとることができると期待されることから、今後は、多様な作期に対応可能な短葉性品種の開発と、各作期で高品質な収穫物を得るための栽培技術の確立が望まれます。

 また、ネギには様々な調理形態があり、食べ方を考慮したネギの提供も必要です。このような新しいネギの特徴と利用方法に関する情報を、消費者に的確に伝えていくことがネギの需要拡大には重要と考えられます。


 なお、当該研究成果は、農林水産省委託プロジェクト研究「新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」農産物提供のための総合研究 6系 野菜」の中で得られたものです。


執筆者(研究担当者)
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 野菜育種研究チーム
若生忠幸

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