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切ってもすりおろしても果肉が変色しないリンゴ「千雪」

2020年10月 2日

 それは、偶然の発見から。
 ある日、選抜中の個体の果実品質を調べていたK研究員は、時間も遅くなったことから、果汁を搾った後の果実の残渣をそのままにして帰宅しました。次の日、後片付けをしていたK研究員は、ある個体の残渣だけが褐変していないことに気づきました。
 その個体が、今回ご紹介する「千雪(ちゆき)」です。


育成の経過
 「千雪」は青森県りんご試験場(現:(地独)青森県産業技術センターりんご研究所)で昭和58年に「金星」と「マヘ7」((印度×ゴールデンデリシャス)×レッドゴールド)を交配し、得られた実生の中から選抜・育成されました。調査中に、変色しないという珍しい特長を偶然発見し、平成20年に「あおり27」の品種名で登録されました。果実を販売するときには、商標名の「千雪」が使われています。


果実特性と活用方法
 育成地である青森県での収穫期は10月20日頃で、満開日からの日数は160日です。大きさは300g程度、果形は円~円錐形、果皮は濃い紅色です(図1)。ちりばめられた雪を思わせる果点が、「千雪」の名前の由来となりました。糖度は15%と高く、酸度は0.3%ほどで甘い味のりんごです。果汁が多く、芳香があり、食感は「金星」に似ています。こうあ部にさびの発生がみられるほか、収穫が遅くなると、果皮の直下や果心線の部分に赤い色素が入ることがあります。貯蔵性は普通冷蔵で2か月程度、CA貯蔵で5か月程度です。貯蔵中に果皮に褐色の斑紋が生じる軟性やけ症の発生がみられますが、収穫後に10℃程度の環境に5~7日間置いてから冷蔵庫に搬入することで回避できます。


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図1 「千雪」果実


 りんごなどの果物の切り口が茶色に変色するのは、果実の細胞に含まれるポリフェノールが、酸化酵素によって酸化され、褐色の物質ができるためです。ポリフェノールと酸化酵素は、細胞の中で別々の場所にありますが、果実を切ることでそれらと酸素が出会い、茶色に変色します。研究の結果、「千雪」は他の品種に比べてポリフェノール酸化酵素の働きがとても弱く、ポリフェノールの量も少ないため、切っても果肉が変色しないことが分かりました。すりおろしても(図2)、凍結・融解しても果肉が変色せず、このような品種は世界的にもあまり例がありません。


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図2 すりおろし3日後の果肉。「千雪」(左)と「ふじ」(右)


 一般的に、果肉の変色を防ぐために塩水につけるなどして酸化を防止していますが、「千雪」は変色しないという優れた特性があるので、このひと手間が必要なく、カットしてお弁当やサラダに、すりおろして離乳食や介護食などに利用できます。また、酸化防止剤無添加のジュースやジャム、カットりんごなど、付加価値をつけた加工品への利活用が期待できます。


執筆者
(地独)青森県産業技術センター
りんご研究所 品種開発部
田沢純子

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