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畑ワサビの超促成栽培法の開発

2017年12月 5日

研究の背景とねらい

 畑わさびは、沢わさびのような「根茎」ではなく、「葉柄」が主な収穫部位で、主に業務用の練りわさび原料として利用されています。山口県農林総合技術センターでは、播種から収穫まで約22か月かかる畑わさび栽培を、約1年に短縮できる「超促成栽培法」を開発しました。

 栽培期間を短縮できるポイントの一つとして、育苗方法の改良があります。従来の方法では夏期の高温を避けるため、標高の高い林間畑で約1年間かけて育苗しますが、「底面給水掛け流し法」を利用することによって、育苗期間が約4か月に短縮できます。
 二つ目のポイントとしては、厳寒期のワサビは暖かい方が成長促進されるため、9月下旬~10月上旬頃にパイプハウス内に定植することで、収穫期である5~6月までに地上部を早く大きく育てることができます。


特徴とメリット
●林間畑での山上げ育苗が不要になり、短期間で苗が仕上がります。
●パイプハウス内に定植することで、収穫時期が早まり、加工原料である葉柄収穫量が増加します。
●6月上旬に播種することで、花茎の収穫も可能です。


技術の内容
(1)新たな育苗方法「底面給水掛け流し法」
 栽培ベンチ上に給水用のとい、栽培ベンチ横に排水用のといを設置し、底面給水用のマットを敷きます(図1、2)。そして清流を給水といに引き込み、給水マットに浸透させることで、無電源で自動灌水が可能です。「底面給水掛け流し法」では、冷水による直接的な冷却効果及び気化熱の放出により、夏場でもワサビの生育適温に近づけることができ、短期間で苗が仕上がります。
 ただし、標高の低い温暖地では成苗率が下がるので、標高300m以上の場所で育苗する必要があります。


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図1 底面給水かけ流し法 模式図(断面)


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図2 底面給水かけ流し法


(2)花茎も収穫できる作型開発
 加工原料である葉柄を収穫するだけであれば、春から秋までの幅広い期間で播種が可能ですが、2月頃に花茎(図3)を収穫するためには、6月上旬播種が適することが判明しました(図4)。一方、7月以降の播種では、年内に花芽形成に必要な生育量が得られず、ほとんど花茎が収穫できません。


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図3 ワサビの花茎


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図4 播種時期と花茎収量


(3)パイプハウス内への定植
 ワサビの生育適温は8~18℃であるため、山間部では厳寒期の成長が停滞します。そこで9月下旬~10月上旬頃にパイプハウス内に定植することで成長が促進され、加工用原料である葉柄(図5)の収穫量も増加します。
 ただし、積雪に耐えられるような、耐候性ハウス(図6)や、耐積雪支柱による補強が必要です。


201711_wasabi_z5.jpg  201711_wasabi_z6.jpg
左 :図5 加工用原料となる葉柄 / 右 :図6 耐雪型のパイプハウス


研究成果の活用
 山口県内のワサビ産地では、本技術を普及することによって、新規生産者を確保し、生産拡大を図ることとしています。


執筆者
重藤祐司
山口県農林総合技術センター 園芸作物研究室

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