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巨大胚で低アミロース性の玄米食用イネ品種「金のいぶき」

2017年4月12日

研究の背景とねらい
 主食用米の消費減少や、生産者の高齢化が進む中、飼料用米や米粉用米が生産されるなど、水田の有効利用と米の用途拡大に向けたさまざまな取り組みが進められています。宮城県古川農業試験場では、巨大胚で低アミロース性の「東北胚202号」を育成し、2011年度から食品業界団体や民間油糧会社等とともに米油の利用に向けた共同研究を進めてきました。2013年4月に、大規模実証試験に対応するため品種名を「金のいぶき」として品種登録の出願を行い、2015年7月に品種登録されました。2016年3月には、実需からの要望があり、今後の需要拡大の見込みがあること、また、多様なニーズに応じた稲作の生産振興を図ることを目的に、宮城県の奨励品種に採用されました。


育成の経過
 「金のいぶき」は、中生で耐病性、耐冷性を備え、低アミロースで良食味の巨大胚水稲品種の育成を目標として、2002年8月に低アミロース性品種の「たきたて」を母、巨大胚糯品種の「北陸糯 167号」(後の「めばえもち」)を父として、人工交配を行い、その後代から育成されました(図1)
 品種名は、「玄米ごはん」(写真1)としての食味が良好なことから、白米を表す「銀」と対比させて「金」、胚芽が大きいという特長が生き抜く力強さを想起させるため、生命活動である「呼吸」にたとえて「いぶき」とし、震災からの復興に立ち向かう東北の人たちの強い生命力のイメージも重ね合わせて、「金のいぶき」と名付けられました。


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図1 系譜


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写真1 玄米ごはん


特性の概要
 「金のいぶき」の生育と収量、及び特性を表1、2、成熟期の草姿を写真2に示します。
 出穂期は「ひとめぼれ」より3日、「たきたて」より1~2日遅く、成熟期は、「ひとめぼれ」より4~6日遅く、「たきたて」より1~2日遅く、宮城県では、"中生"に属します。
 成熟期における稈長は「ひとめぼれ」並、玄米重は、標肥区、多肥区ともに「ひとめぼれ」対比97、95%とやや低く、千粒重は0.6~0.8g軽くなります。
 いもち病真性抵抗性遺伝子型は"Pii"、いもち病ほ場抵抗性は、葉いもち"中"、穂いもち"やや弱"です。
 耐倒伏性は、「ひとめぼれ」より倒伏程度が優り"中"、穂発芽性は"やや難"、耐冷性が"強"、玄米品質は、外観が白濁し、光沢がやや劣り、腹白や心白を生じることで「中上」になります。玄米ごはんの食味は、粘りが強く、胚芽のプチプチとした食感が心地よく良好です。


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写真2 草姿(左:「金のいぶき」、右:「たきたて」)


 胚芽長は2.97mmと、「たきたて」2.07mm、「ひとめぼれ」2.23mmより大きく、胚芽重は、0.87mgと2倍以上重くなります(図2、写真3)。アミロース含有率は、2006~2012年の7年平均で10.1%となり、「ひとめぼれ」の18.8%より明らかに低く、「たきたて」の7.3%よりやや高くなります(図3)
 玄米成分は、「ひとめぼれ」に比べて、遊離アミノ酸では、甘みやうまみ成分であるアラニン、アスパラギン、グルタミン酸、セリンが高く、ヒトで血圧上昇抑制作用等が知られる機能性成分γーアミノ酪酸(GABA)含量は、「ひとめぼれ」の3.5倍です。その他、脂質、食物繊維、ビタミンE (α-トコフェロール)が高くなっています。


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写真3 玄米
(上:「金のいぶき」、中:「たきたて」、下:「ひとめぼれ」)


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図2 胚芽長と胚芽重
注)胚芽長は、粒厚1.7mm以上の玄米(2011年産、標肥区)の50粒調査。
胚芽重は、上記玄米を搗精し、糠から完全な胚芽を500個回収し計量。


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図3 アミロース含有率
注)オートアナラーザーⅡ型による白米粉(標肥区、搗精歩合90%)の2006~2012年の7年平均。


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写真4  しらす入りチャーハン(左)とリゾット(右)


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写真5 発芽米と発芽玄米ごはん


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写真6 関連加工品


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写真7 「金のいぶき」使用の米油


研究成果の活用について
 宮城県では、平成30年から一般作付けが予定されており、健康に配慮した日常の食卓を手軽に実現する玄米食としての利用が期待されています。
 先行して生産されている「金のいぶき」を利用して、玄米ごはん以外にも玄米や胚芽の食感を活かしたさまざまなメニューが考案され、 レストラン等で一部提供されています(写真4)。 その他、発芽米や発芽玄米の加熱包装米飯、玄米がゆ、バランス栄養食品等の関連加工品や、米ぬかを利用した飲料や米油の商品化が進められており、今後、米の新たな需要を生み出してくれることが期待されています(写真5~7)

                        
執筆者
遠藤貴司
宮城県古川農業試験場 作物育種部

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