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2016年4月 8日
背景とねらい
イネ紋枯病はカビによる病気(図1、図2)で、いもち病とならぶイネの重要病害です。おもな被害は稔実歩合と千粒重の低下による減収ですが、最近、玄米等級を落とす白未熟粒を増加させることも報告されています。この病気は高温を好み、夏期の高温が発生時期を早めたり、発生量を増加させたりするなどが懸念されています。
一方、イネ紋枯病は発病後、周辺のイネ株に徐々に伝染する病気なので、発病状況を確認しながら防除の要否を判断できます。また、菌核と呼ばれる菌糸の塊(図3)が翌年の伝染源となるため、連作により徐々に発生が増加する特徴があります。
図1 イネ紋枯病の初期症状。
宮城県では7月上~中旬頃にみられる
図2 イネ紋枯病の症状。
初期症状から、徐々に上位葉に上がってくる。病勢が進むとひどい場合には止め葉まで到達する。図は8月下旬撮影
図3 イネ紋枯病の病斑上に形成された菌核。
半球形で大きさは2~5mm程度。始め白く、のちに黒褐色になる。水田に落下して越冬し、翌年の第一次伝染源となる
そこで、このような紋枯病の発生生態の特徴を参考に、移植後の発病状況からの防除の要否と、収穫前の発病状況から翌年の予防薬剤の要否を判断する基準を作成して、効率的な防除体系を構築しました。
防除体系の特徴
構築した防除体系を宮城県の主力品種「ひとめぼれ」、紋枯病による減収量が5%を被害許容水準として、図4に示しました。
図4 宮城県におけるイネ紋枯病の防除体系。
品種「ひとめぼれ」を例に、イネ紋枯病による減収率5%を被害許容水準とした場合を示した
本体系は移植後の本田の防除要否と、翌年の予防薬剤の要否の2つの判断基準から成り立っています。どちらも発病株率を判断の基準としています。
前者は、稲穂が出る前に発病状況を調査して、発病株率が18%を超えていれば茎葉散布による防除を行います。後者は、収穫の前発病状況を調査して、発病株率が40%を超えていれば翌年の移植時に育苗箱処理剤による紋枯病の予防を行います。このように、毎年判断基準に応じて防除の要否を決定することで、不必要な薬剤散布がなくなり、農業生態系に配慮した稲作が実現できます。
本田の防除要否の基準は「ひとめぼれ」のほかに、「ササニシキ」と「コシヒカリ」についても作成しています(表1)。また、被害許容水準を3段階(減収量で5%、3%、1%)とし、それぞれの基準を作成しました。さらに、白未熟粒の発生に対する防除要否も作成しました。これによって、生産者が考える被害(減収なのか、品質低下なのか)と、米価の変動に対する防除コストに応じた防除要否基準を選択できるようにしました。
表1 宮城県におけるイネ紋枯病の防除要否の判断の基準
おわりに
宮城県では水稲の農薬節減栽培が推進されており、水稲一作期で使用できる薬剤の成分数が制限されていて、実際にイネ紋枯病を防除している地域はごく一部に限られます。世界的に温暖化が進行する中、高温を好む紋枯病は、温暖化の影響により将来発生が増加することが予測されています。今回紹介した防除要否に応じた体系をおこなうことで、紋枯病を対象とする成分を含む薬剤を効率的に防除メニューに加え、活用されることを期待しています。
なお、本内容は農林水産省委託プロジェクト研究「気候変動に対応した循環型食料生産等の確立のためのプロジェクト」の「地球温暖化が農業分野に与える影響評価と適応技術の開発」において実施し、得られた成果を紹介しています。
執筆者
宮城県古川農業試験場 作物保護部 病害制御班
(現:宮城県仙台地方振興事務所農業振興部 兼 仙台農業改良普及センター)
鈴木智貴