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受粉作業が不要な単為結果性を持ち、カットやスライスに向くトマト新品種「サンドパル」

2015年7月 7日

育成の背景
 トマト栽培では、着果を安定させるためにホルモン処理やマルハナバチによる受粉が行われています。しかし、これらの処理は労力やコストがかかるため、生産者からは単為結果性品種に期待する声が大きくなっています。単為結果性とは、受粉・受精がなくても果実が大きくなる性質で、トマトでは単為結果性品種はまだ少ないのが現状です。

 一方、生食用トマトの消費場面では、カットやスライスして使う機会が多くなっています。しかし、カットしたときにゼリー部が落ちてしまってサラダの見ばえが悪くなったり、スライスしたトマトをパンにはさんだときに液だれによってパン生地が湿ったりと、現在流通しているトマトは、必ずしもカットやスライス向きとは言えません。


 そこで、愛知県農業総合試験場では、このような生産者と消費者の双方のニーズに応えた新品種「サンドパル(※)(系統名:試交10-2)」(写真1)を育成し、平成26年3月に種苗法に基づく品種登録出願を行いました(平成26年8月出願公表)。

「サンドパル」は、愛知県が取得した登録商標(第5724880号)です。


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写真1 「サンドパル」の果実と横断面


品種の特性
 「サンドパル」は単為結果性を持っているため、ホルモン処理やマルハナバチによる受粉を行わなくても着果が安定しており、栽培の省力・低コスト化が図れます。果実重は200g程度で、同じ単為結果性品種の「ルネッサンス」より約20%重くなります。

 完熟の果色は朱色に近い赤で、国内で生産されている一般的な大玉トマトの桃の果色とは外観の印象が異なります(写真2)。果形は豊円で、空洞果の発生は少なく、花落ち部は小さめです。節間長は「桃太郎ヨーク」より長めで、葉は下垂しますがコンパクトなため採光性は比較的よい草姿です(写真3)。また、トマトモザイクウイルス(Tm-2a型)、萎ちょう病(レース1、レース2)に抵抗性を示します。


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写真2 完熟の果色
左 :「サンドパル」(赤色) / 右 :「一般品種」(桃色)


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写真3 「サンドパル」の草姿


適する用途
 果肉の割合が多いためにゼリー部が落ちにくく、液だれしにくいことから、サラダやサンドイッチなどのカットやスライスする用途に向いています。糖度(Brix)は、「ルネッサンス」と同等で一般的な大玉品種より高めですが、丸かじりするとややあっさりした印象との声もあります。品種の特性を活かし、サラダやサンドイッチなどに調理して食べるのが最適です。


栽培上の留意点
 初期の生育はややおとなしく、単為結果性の発現によって早めに着果するため、第1花房開花前のやや若苗を定植します。花数の多い花房は摘果を行い、第3花房開花以降は、追肥を適宜実施して草勢の維持に努めます。通常は果頂部のとがりの発生は少ないですが、低温期を経過する栽培では発生する場合があります。適作型は、平坦地での促成栽培と半促成栽培、中山間地での夏秋栽培です(愛知県基準)。


 なお、「サンドパル」の種子は、平成27年7月から愛知県種苗協同組合(事務局は(株)アサヒ農園:電話0587-97-2525)が販売しています。


執筆者
愛知県農業総合試験場 園芸研究部 野菜研究室
大川浩司

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