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2015年5月26日
背景とねらい
日本では現在、飼料イネや米粉用などの主食用以外のイネ(新規需要米)の栽培面積が広がっています。これらの品種の一部で、九州地域を中心に水稲害虫のセジロウンカ(写真1)が多発生して集団でイネを吸汁して、葉色の変色(写真2)や極端な場合には全面枯れの被害(写真3)が起こっています。このような激しい被害は、普通はトビイロウンカによって起こるのですが、なぜ新規需要米品種の一部でセジロウンカの被害が多く起こるのでしょうか。
左上 :写真2 セジロウンカによる新規需要米品種の初期の被害(中央部が黄色に変色している)
右下 :写真3 セジロウンカによる新規需要米品種の全面枯れの被害
その理由は、新規需要米品種の多くが、高い収量や大きな粒を得るためにジャポニカ稲とインディカ稲との交配によって育成されていることにあります。
セジロウンカはもともとジャポニカ稲では増えにくく、インディカ稲では産卵数が多く増えやすいことが知られています。また、セジロウンカがイネに卵を生むと、イネが卵を殺す物質を作り出して卵の多くが死んでしまうこと(殺卵作用)が知られています。写真4の左図は正常な卵で、目のもとになる眼点(赤い部分)が見えますが、写真4の右図は殺卵作用で卵が死んでしまって眼点が形成されていません。
写真4 セジロウンカの健全な卵(左)と殺卵作用によって死亡した卵(右)
一般に、殺卵作用はジャポニカ稲で強く、インディカ稲では弱いことが知られています。これらのことが、インディカ稲の特性を入れて育成した新規需要米品種の一部で、セジロウンカが増えやすい原因と考えられます。
しかし、新規需要米のうち、どの品種でセジロウンカが増えやすいかは明らかにされていません。そこで、現在栽培されているおもな新規需要米品種のセジロウンカの増えやすさを比較しました。
研究の内容
新規需要米の19品種にそれぞれセジロウンカを放して、産卵数と眼点形成卵数(産まれた卵のうち殺卵作用を免れて生き残った卵の数)を主食用品種「ヒノヒカリ」と比べた結果、「もちだわら」と「タカナリ」は眼点形成卵数が多く、セジロウンカが増えやすいことがわかりました(図1)。「ミズホチカラ」、「北陸193号」、「ルリアオバ」、「はまさり」、「モミロマン」、「クサホナミ」、「モグモグあおば」は、産卵数と眼点形成卵数が「ヒノヒカリ」と同等でした。それ以外の品種では「ヒノヒカリ」に比べて産卵数と眼点形成卵数が少ないことがわかりました。
図1 主要新規需要米品種におけるセジロウンカの産卵数(A)と眼点形成卵数(B)の対照品種「ヒノヒカリ」の値に対する比率
それぞれの比率は各品種の値を同時に調査した「ヒノヒカリ」の値で除したもの。*は「ヒノヒカリ」対して有意差(P<0.05)あり
新規需要米の栽培の栽培では病害虫防除がおろそかになりがちですが、「ヒノヒカリ」に比べてセジロウンカが増えやすい品種では早めの防除対策が必要です。増えかたが同等の品種についても、食用品種と同様の防除対策が必要です。
今後の課題
九州地域を中心にトビイロウンカの多発生が続いています。トビイロウンカについても新規需要米品種の一部で多発生することがあるため、おもな新規需要米品種での増えかたの違いを明らかにするための試験に取り組んでいます。
執筆者
農研機構 九州沖縄農業研究センター 生産環境研究領域 虫害研究グループ
松村正哉