MENU
2014年9月26日
研究の背景とねらい
近年、減農薬農法や有機農法のように化学合成農薬の使用を削減した農法が広がっています。環境に配慮したこれらの農業生産システムが普及するにつれて、天敵を活用した害虫制御技術が注目されるようになりました。
果樹研究所では、果樹園で「土着」の天敵の活動を促進して害虫による被害を軽減することを目標に、果樹園及びその周辺の植生管理技術の開発を行っています。
技術の概要
植生管理の一環として下草に着目し、ナシ園にシロクローバーとヒメイワダレソウを導入する試験を行いました(図1、2)。
これらの下草を導入した園では、防草シートを敷設した園と比較して、ヒメハナカメムシ類やオサムシ類、ヒラタアブ類(図3)、テントウムシ類(図4)、寄生蜂類、クモ類(図5)など多様な土着天敵がより多く発生し、ナシ園への下草の導入が土着天敵の定着に有効であることが明らかになりました。
左上 : 図1 シロクローバー / 右下 :図2 ヒメイワダレソウ
左上 :図3 ヒラタアブ類 / 右下 :図4 テントウムシ類
技術の内容
果樹園内で土着天敵の多様性と生息数を増大してその活動性を高めるためには、天敵の本来の餌となる害虫がいないときに、それに替わる餌(蜜や花粉、代替寄主など)や天敵の隠れ場所を提供することが必要です。
シロクローバーとヒメイワダレソウは、関東地方では5月から10月頃まで花が続きます。花は天敵の重要な餌資源になります。蜜や花粉、花に生息するハナアザミウマ類は寄生蜂やカブリダニ類、ヒメハナカメムシ類の代替餌として利用されていると考えられます。また、植物体の立網構造は徘徊性の天敵類にとって格好の「すみか」となっています。これらのことから、下草の導入によって天敵類が増加すると考えられます。
導入した2種の下草では、適宜、地上高10~15cmで機械除草することで草丈を低くし、農作業の妨げになることなく植生を維持することが可能です。
今後の展望
下草に加え、防風樹や園地周辺の樹木、マリーゴールドなどのインセクタリープランツ(天敵温存植物)と呼ばれる草本類も、天敵の重要な供給源であることもわかってきました。現在、土着天敵の多様性と活動性を促進する植物の導入と、害虫の被害軽減効果を検証する研究を精力的に進めています。
【参考資料】
▼技術紹介パンフレット「生物の多様性を維持する果樹・茶の管理技術」 (農研機構果樹研究所)
執筆者
農研機構 果樹研究所 企画管理部 業務推進室
三代浩二
(図表はクリックで拡大します)