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「百姓百品」で緑豊かな農地を守る。家族経営を母体とした集落の担い手組織

2021年6月 4日

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早田孝伸さん (農事組合法人グリーンファーム畑(はた) 大分県豊後高田市)


 「ここで生まれ育ったからには体が動く限りがんばって、農地を荒らさずに守りたい」。「農事組合法人グリーンファーム畑」の代表理事、早田孝伸さんは言う。一度は故郷の豊後高田市を離れて関東で大手パンメーカーに勤めていたが、両親が高齢になり、家族でUターンして28年がたった。グリーンファーム畑は大分県北東部、国東半島の付け根に位置する豊後高田市にある。法人はそのほぼ中央の中山間地、早田家のある畑集落を含め4つの谷にまたがる65.4haで農業を営む。地域の農地を地域で守り、雇用を生み出したことなどが評価され、令和元年度「豊かなむらづくり全国表彰事業」で農林水産大臣賞を受賞した。


兼業農家から、集落の担い手へ
 「28年前にUターンしてきた当初は、主に家内が家の田んぼや畑をやって、私は運送会社に勤めながら兼業でやっていました。でも近所の人たちから、高齢でできなくなった田畑を預かってほしいと言われるようになって......」。集落のライスセンターに後継者がいなかったので施設を購入し、孝伸さんも農業に専念することになった。

 その頃、孝伸さんは50代半ばだったが、高齢化していく地元では若き担い手だったのである。預かる土地が増えたため、平成18年に特定農業団体に準ずる組織として「畑営農組合」を設立した。当時は生産調整としての転作を潤滑に進めるための組織として、米、麦、そばをブロックローテーションで栽培していた。

 4年後の平成22年には、前身の畑営農組合の有志8名で法人を設立。ほかの集落からも農地を引き受けるようになった。現在は代表理事の孝伸さんをはじめ、事務局1名、会計1名、理事3名で構成。事務局は作業オペレーターでもある息子の政徳さんもいる。そのほかに常時雇用1名、臨時雇用6名が中心となって作業を担っている。


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左 :グリーンファーム畑の圃場
右 :加工所の前で。孝伸さんの隣は政徳さん。事務スタッフの早田あゆみさん(後列右)は、政徳さんの妻


百姓百品。通年の仕事を作り、女性の働く場も作る
 「うちもやれんようになった」「うちも預かってくれんか」。先祖から受け継いだ土地を荒らすよりは、なんとか生かしてほしい。そんな声とともに、たくさんの農地が集まった。では、その土地をどう利用していけば守れるのか。農地は一度、地権者が農地中間管理機構に預け、法人が管理機構から借りて借り賃を納め、管理機構が地権者に平等に賃料を払う仕組みだ。預かり続けるためには収益を上げて、法人を維持せねばならない。

 そこで野菜を作るようになった。作るからには販売先がなくてはならない。まず欲しかったのは大口の売り先だ。県の振興局や市のブランド推進課に相談したところ、市の給食センターを紹介してもらった。そこで園芸品目としてニンジン、タマネギ、ショウガ、落花生、黒大豆などを作ることになった。

 今では豊後高田市の特産品であるそばや、地域ブランド牛「豊後・米仕上牛」の餌となる飼料米、地元酒造メーカーの焼酎の原料となる大麦、昨今健康食品としてブームのキクイモまで、「年間を通じて何かしら売れるものがあるように」と、幅広い品目に取り組む。


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左 :豊後高田市内では、グリーンファーム畑だけが栽培している黒大豆「クロダマル」も人気商品
右 :そばは豊後高田市の特産品。原材料として卸し、市内で製品化される


 「『百姓百品』と親が言いよったですけど、天候がどんなに変わっても何かを作っていれば生活できる。ひとつにしぼるとリスクもありますから」と孝伸さん。「地元の人の雇用の場にもなる。いろいろ作っていれば、年間を通じて仕事ができます。今は『クロダマル』という黒大豆を栽培していますが、豆の選別は冬の作業。手で選って自然乾燥させ、最後はピカピカに磨き上げる。それもあってうちの豆は評判がいいんです」。
 野菜の規格外品がもったいないと始めた乾燥野菜作りも、地元の女性や高齢者の仕事になった。平成27年に加工所を新設し、現在は2拠点で運営する。乾燥野菜は賞味期限が長いところもメリット。爆発的ではないが、ゆっくりと売れていくそうだ。


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干し野菜は天日で乾かすもの、乾燥機にかけるもの、両方を使うものと、製品に応じて工夫する。色よく仕上げるのがコツ


 農産加工の看板商品は、餅類。昔は正月、イベント、お祝いの餅は各家でついていたものだが、それも高齢化の波で難しくなった。そこに目をつけて、チラシを持って一軒一軒営業して回ったところ、注文が舞い込むようになった。
 餅はイベント等での実演販売も大好評。冬の寒の時期に1年分を作る「かき餅」もよく売れている。「餅つき器は買いましたが、米をとぐのは人力。年末は1日中米をといでいます」と、孝伸さんの妻、いつさんは笑う。
 スーパーや百貨店、直売所など、地元に販売先を多数開拓したことも効を奏して、加工品の売上は年々伸びており、平成29年度には350万円を超えた。地元では直売が難しい米は、ふるさと納税の返礼品に採用された。


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左 :かき餅は割れやすいため自然乾燥で。年ごとに変わる温度管理や湿気の調節が難しい
中 :「忙しい時は地元の女性たちもパートで来てくれます」と、孝伸さんの妻、いつさん
右 :冬の間に1年分を作り乾燥したものから冷蔵。随時焼き上げてパック詰めする


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左 :色とりどりのかき餅は、餅つき器の工程を除いて、すべてが手作業
右 :かき餅は、手間暇はかかるが一番の看板商品。豆など地元の素材をつき込んでいる


やってもやっても仕事がある。中山間地の農地維持
 一見、順風満帆のように思われる経営だが、中山間地の水田に畑作物を作付けするにはさまざまな課題もある。シートパイプなど圃場の灌漑設備や、獣害対策の金網柵の設置など、面積が増えるたびに仕事も増える。
 中山間地は法(のり)面が多い。営農部門は実質4名で行っているため、水田除草作業の省力化に向けて、法面に芝草の一種「センチピードグラス」の種子を吹きつけて雑草の侵入を抑えるなどの取り組みも始めた。法面の除草をしたのちに、粘性のあるパルプと芝草の種を混ぜて吹きつけるこの方法は、パルプを作る製紙会社が特許を持つ手法だ。吹きつけ機のほか、資材費が1反で約10万円とコストはかかるが、少人数での作業が可能で、草刈りの手間を考えると割が合うそうだ。


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左 :「センチピードグラス」を吹きつけた法面。大分県集落営農法人会高田支部に加盟している5法人の有志で吹きつけ機械を共同購入した
右 :作業オペレーターのみなさんと


 荒地の解消にも力を入れている。近隣には2つの営農法人があるが、個々の所有地だけで獣害対策を行っても効果は出にくい。取材に訪れた日も、他法人の集落にまたがる2ha分に金網を張るため、木々の伐採と整地を行っていた。

202105_yokogao_greenf16.jpg 重機に乗っているのは孝伸さんの右腕であり後継者の政徳さんだ。「ここでは重機に乗れんと話にならんですね。自分も卒業後、建設会社に就職したり、工場勤務をしてきたけど、今までの経験は何でも役に立ちます」。
 孝伸さんも続ける。「私の若い頃は、男は一生にひとつの仕事をやり遂げよといわれてきたが、自分はそれができなかった。でも、今までの人生、生きるために何でもして、いろんな人と付き合ってきたからこそ、集落の難しい折衝ごとも、次々にやってくる課題にもあきらめずに向き合えるような気がします」。
右 :重機を使った伐採。利益に即つながるものではないが、農地の維持には欠かせない


 今後は規模拡大を意識せずとも、あと10haくらいは預かっていかねばならないだろうと予測している。家族が基盤の少人数の組織経営の中で、集落を担う後継者をどう作っていくか。模索は続くが、集落の人々とも相談しながら、ひとつひとつ、歩を前に進めていく。(ライター 森千鶴子 令和2年2月13日取材 協力:大分県北部振興局生産流通部)
●月刊「技術と普及」令和2年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


農事組合法人 グリーンファーム畑
大分県豊後高田市草地4190-2
0978-25-4801


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