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クラスター事業も交え、特産品「木頭ゆず」の販路拡大を目指す

2021年3月 3日

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榊野瑞恵さん (徳島県那賀町 有限会社柚冬庵)


 徳島県那賀町木頭は、高知県との県境に近い山間地。古くから盛んであった林業が衰退してからは、自生していたゆずの栽培を手がけるようになった。徳島県産ゆずは全国第2位の生産量。なかでも「木頭ゆず」は実が大きく風味がよく、ポン酢、ゆず味噌、ジャム、マーマレード、ジュースなどに加工されている。
 昭和57年に加工組合が設立され、その後、有限会社柚冬庵(ゆとうあん)となった法人の経営を、平成18年に榊野瑞恵さんが引き継いだ。


子育てが終わった女性の活躍の場として
202102_yokogao_yutouan2.jpg 榊野さんはこの地へ嫁いできて、3人の子どもを育てながら家の仕事を手伝っていた。「家仕事ばかりだとお金にもならんし、社会とのつながりもなくて」。義母が参加していた柚冬庵でアルバイトを始めたのが平成7年のこと。「もう働くのが楽しくて。しかも手当てももらえるし、うれしかったですね」と当時を振り返る。

 働き始めて、榊野さんはいくつか疑問を抱くようになった。「例えば、商品に一般家庭には大きすぎる900mL入りの濃縮ゆずジュースがあったり、配達先で『どこにこだわっているの?』と質問されても、全然答えられなかった」。
 それから約10年の歳月が流れ、平成18年8月、社員の高齢化により榊野さんが代表を引き受けることになった。ところが前任の役員に出資金を戻すと、会社の金庫はほぼ空っぽの状態。「これは大変だ、売り上げを伸ばさなくては。まず必要なのは運転資金!」と銀行へかけ合うものの、「売り上げがない会社に銀行は貸してくれないんですよ!」と榊野さんは大笑いする。ここから彼女の奮闘が始まる。
右 :四国山地に抱かれた柚冬庵の木頭ゆず圃場


とにかく「木頭ゆず」を知ってもらうことが一番!
 売上向上のためには、「とにかく『木頭ゆず』を知ってもらうことだ」と決意したまではいいが、どうすれば広報宣伝できるのかは五里霧中。「もともと、商品は役場が売ってくれるって頭があったから、さっぱりわからなくて」。

 商工会に相談すると、県の特産品展示会やイベントへの出店を勧められる。補助も出ると聞いた榊野さんは、いきなり東京へ向かう。「当時、娘が東京の大学に通っていたので、宿泊場所は確保できる」というのが理由で、「今から思えば無謀も無謀でした」と、また大笑い。出した商品は、以前からあった900mL容器の濃縮ゆずジュースなどで、やはり一般家庭向きではないと、反応は芳しくなかった。そこで榊野さんは「新商品を作らなければ」と決意。次の展示会が冬開催であったことから、青果のゆずを大量に持ち込んで派手にデコレーションしたところ「大きなゆずだなぁ」「香りはどうなの?」「どうやって使うの?」と注目を集めた。「関東では木頭ゆずの大きさが珍しかったようで、商品のことより『剪定はどうするの?』とか『肥料は何?』とか聞かれてね」。榊野さんは、展示会の会場をくまなく回り、他店のパッケージデザインや価格、販売方法などをしっかりと勉強した。


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左 :木頭ゆずは果実が大玉で外観が美しく、香り・味ともに優れる高品質なゆずだ
右 :柚冬庵の加工場外観


 新商品の開発にあたってヒントになったのが「卵かけごはん醤油」の大ヒットだった。榊野さんはこの商品から着想を得て、木頭ゆずを使った「豆腐料理にかけるだけ」「野菜いためにまぜるだけ」「鍋ものにかけるだけ」など、料理に特化した商品を開発し、容量も120mLと少量化。それらをセットにしたギフト商品は、買いやすさもあって好評を博し、女性目線の発想も大いに注目された。


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左 :木頭ゆずを絞った100%果汁
右 :柚冬庵のバラエティに富んだ商品ラインナップ。ボトルやパッケージにもセンスが光る


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左 :「ぽん酢のマコちゃん」と、ゆずの万能だれ「お山の大将」
右 :木頭ゆずゼリー各種


共存共栄の精神で、クラスター事業に取り組む
 商品の認知度が高まり売り上げも徐々に伸びると、農業以外の異業種や、行政、大学との連携により経営も少しずつ上向いた。そうしたなか、木頭ゆずを生産する企業や生産団体、行政が一体となって「木頭ゆずクラスター協議会」を設立し、榊野さんが初代会長に就いた。「ゆずの畑はあるけれど、加工して商品を作る工場を持たない会社や、有機栽培にこだわった会社、お菓子メーカー、JAアグリあなん海川加工場などがクラスター、つまり集団となって協力し合うことで、木頭ゆずを広めていく活動をしています。クラスターで展示会に出店すると、みんな商品知識はあるし、売場には1~2人いればいいからコストが削減できていいでしょう?」。競合するより共存共栄を目標にしたこのクラスター事業には、地域活性化を集団で行う利点があり、今後の農業経営発展のヒントがありそうだ。


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左 :木頭ゆずの収穫風景
右 :榊野さんと加工場のスタッフたち


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左 :加工場では女性スタッフが奮闘中
右 :瓶詰めもすべて手作業で行う


 こうした活動により、柚冬庵は平成21年の食アメニティコンテストで農林水産省農村振興局長賞を、平成27年度農山漁村女性・シニア活動表彰では農林水産大臣賞を受賞した。現在は役員2名と正社員2名にパートが5人の計9名で、全員女性による経営だ。「30代の女性が2人いて、現在子育て中。だけど家でできる仕事があるんです。そう、ホームページの更新です。今はスマホで何でも注文できる時代だから、とにかくホームページはまめに更新することが大事。何か動きがあれば、写真を撮ってすぐにアップする。こういう仕事は若い人でなければできんですから」と、新しい時代のビジネスにも積極的に取り組んでいる。


地域の交流拠点の「くるく」でおいしい料理を食べてもらいたい
 平成25年、空き家になっていた古民家を借り、県の補助金を活用してカフェ「くるく」をオープンさせた。この地方の言葉で「来る家」の意味で、多くの人々が集まる場所であってほしいとの願いを込めた。営業は今のところ毎週金曜日だけだが、将来的には土曜日曜もオープンしたいという。


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左 :カフェ「くるく」のエントランス。日替わりのランチは500円
右 :木のぬくもりが伝わる「くるく」の内観


 「週末に訪れる県外の行楽客に、木頭ならではの食材を使った料理を提供したいですね。それに、地域の高齢者にコーヒーを飲みにきてもらったり。今考えているメニューはカレー。木頭ゆずを混ぜ込んだカレーは絶対おいしいと思うんですよ。商工会でも、いろいろなカレーが味わえる『カレーロード』という街道構想があるようです。それから『かきまぜ』という郷土料理で、ゆずを使った五目寿司も味わってもらいたい」。
 農家の女性たちの多くは、社会とのつながり、いくらかの手当て、仲間意識などを求めていることを榊野さんは自分自身の経験で知っている。柚冬庵がその場となることを望み、着実に事業を進めてきた榊野さん。柚冬庵が農家女性のための活躍の場となっていることを、確かに感じることができた。(ライター 上野卓彦 令和元年11月6日取材 協力:徳島県阿南農業支援センター)
●月刊「技術と普及」令和2年2月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


有限会社柚冬庵 ホームページ
徳島県那賀郡那賀町木頭南宇字ナカバン26
TEL 0884-68-2072

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