農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

ビジネスとは顧客への満足の提供。行列ができる超人気の農園カフェ

2020年8月 3日

202007_yokogao_nakajimaen1.jpg
中嶌正子さん (有限会社なかじま園 静岡市葵区)


 JR静岡駅から車で30分。周囲に目ぼしい商業施設や学校もない国道沿いの田園風景の中に、行列ができる超人気の農園カフェがある。それが「なかじま園」だ。「信頼を裏切らない」をスローガンに手間暇かけて栽培されたイチゴは、こだわり抜いた素材や調理法によってカフェで提供される。
 通年営業のカフェでは、イチゴのない時期でも客足が途絶えず、年間8万人の集客を達成。毎年約1000万円の売上増加を実現している。生産を夫の章嘉さんが、販売・カフェ営業を正子さんが担当する二人三脚で、カフェ開店から8年目に入り、総売上額7400万円を1億7000円までに成長させた。


202007_yokogao_nakajimaen5.jpg  202007_yokogao_nakajimaen10.jpg 
左 :国道沿いの田園風景の中にあるなかじま園の農園カフェ
右 :カフェの窓からはイチゴのハウスを見下ろすことができる


きっかけは自動販売機の設置
 1978年にイチゴの生産を開始し、95年に直売所の開設、翌96年法人化に踏み切ったが、そのきっかけは国道沿いに設置した2台の自動販売機だった。はじめは小粒で不ぞろいのイチゴを300円で提供。「少しでも売れればいい」と思っていたが、予想に反して日に1万円前後の売上があった。そこで、もう少し品質の良いものを出したところ、その売上も好調。しかし、この販売方法は、全量出荷を基本とする農協との契約には反する。熟考の末、独立の道を選択。その後、税金対策として法人化を決意した。


202007_yokogao_nakajimaen2.jpg  202007_yokogao_nakajimaen3.jpg
左 :イチゴ畑にて。左から中嶌章嘉さん、杉山有希さん、杉山彩さん、中嶌正子さん
右 :なかじま園では静岡県が育成した「きらぴ香」をメインに「章姫」も栽培


試行錯誤を重ねて6次化にチャレンジ
 2008年、全国担い手表彰で農林水産大臣賞を受賞。大抜擢を受け、当時の皇太子殿下の前で夫婦そろって事例発表を行い、新聞にも取り上げられた。
202007_yokogao_nakajimaen11.jpg 当時、なかじま園では冷凍イチゴでジャムを製造していたが、使い切れない分があり、それを何とかできないかと悩んでいた。そんな折「冷凍イチゴを削って練乳をかけるメニューが人気」という情報を聞き、「うちのイチゴでもやってみよう!」と試作品を作ったところ好評を得る。ちょうどその頃、農林水産省の農業主導型6次産業化整備事業の受付が開始され、周囲の勧めもありチャレンジすることを決めた。膨大な資料作成や慣れないヒアリングなどに大苦戦しつつも2011年、農園カフェをオープンさせる。
右 :冷凍イチゴを100%使った「食べる!かき氷」にはお好みで手作りの練乳と苺ジャムソースを


多彩なメニューにリピーター続出
 白と赤を基調とした清潔感あふれるカフェは、テーブルとカウンター合わせて19席。平日でも時間を問わずに、老若男女、さまざまな人が訪れる。テレビの人気番組で取り上げられた際には、1日でなんと430人、3時間待ちの行列ができたほどだ。清潔なオープンキッチンで作られるメニューは季節によって異なるが、とくに贅沢イチゴパフェや手作りワッフル、イチゴ100%のかき氷は高い人気を誇る。イチゴのない時期は冷凍イチゴを用いたメニューを提供。生のイチゴの有無に来客数が左右されないのは驚きだ。
 また、パフェやワッフルにも使われるソース「いちごのしずく」、冷凍イチゴが65%も入った苺アイスモナカは、贈答品としても人気が高い。
 中嶌さんは商品開発のためにアグリビジネススクールなどを受講し、専門家のアドバイスや協力を仰いだ。それでも、完成までの道のりは試行錯誤の繰り返しだったという。


202007_yokogao_nakajimaen6.jpg  202007_yokogao_nakajimaen12.jpg  202007_yokogao_nakajimaen9.jpg
左 :清潔感あふれるカフェには文字通り老若男女が訪れる
中 :注文を受けてから1枚ずつ焼き上げる「苺畑のワッフル」
右 :「苺のミルクスムージー」を調理中


202007_yokogao_nakajimaen18.jpg  202007_yokogao_nakajimaen19.jpg  202007_yokogao_nakajimaen16.jpg
左 :旬のイチゴをそのまま凍らせた「ひんやりイチゴ」
中 :イチゴの果汁をふんだんに使った「苺アイスモナカ」
右 :無添加で仕上げた「いちごのしずく」はヨーグルトやアイスクリームなどにかけて


「なかじま園」のブランド化
 高級百貨店・静岡伊勢丹ともギフト商品の取引があり、さらに伊勢丹の声がけで「なかじま園のいちごを使用」と銘打ったケーキ、大福、タルトといった期間限定のコラボ商品も生まれている。
 ここ数年は、インスタグラムやツイッターに代表されるSNSに、お客様の写真がたくさん投稿されることで、さらに来客が増えている点も見逃せない。インターネットで「なかじま園」を検索すれば、イチゴやスイーツの色鮮やかな写真がずらりと並ぶ。つまり「なかじま園」がブランド化に成功しているのだ。


202007_yokogao_nakajimaen20.jpg  202007_yokogao_nakajimaen13.jpg  202007_yokogao_nakajimaen14.jpg
左 :「贅沢ストロベリーパフェ」は生イチゴがある時期の期間限定メニュー
中 :大きなイチゴを真ん中に入れ、生クリームにもこだわった「苺のロールケーキ」
右 :メロンを使ったスイーツも人気。写真は「メロン メロン パフェ」


新しいことに挑戦する力
 現在、従業員は22名(役員3名、正社員4名、パート15名。繁忙期には増加)。カフェの開設により、年間雇用が可能になった。娘さんがカフェの中心的な戦力として活躍してくれるのも心強い。
 作付面積はイチゴ85a(うち、メロン20a)。品種は静岡県が育成した「きらぴ香」を全体の7割にし(3割は「章姫」)、病害虫対策のための紫外線照射装置や環境モニタリングシステムなどを導入。積極的に新品種・新技術を取り入れている。
 また、外国人技能実習生の受け入れにも前向きに取り組んできた。普及指導員からは補助金や助成金、勉強会の情報をもらい活用している。


202007_yokogao_nakajimaen8.jpg  202007_yokogao_nakajimaen4.jpg
左 :収穫の様子。新鮮なイチゴはもちろんカフェでも味わえる
右 :イチゴのパック詰めの様子


202007_yokogao_nakajimaen15.jpg  202007_yokogao_nakajimaen17.jpg
左 :なかじま園の主力品種「きらぴ香」は通販でも購入可能
右 :「いちごのしずく」と「手作りいちごジャム」のセット。贈答・ご進物用として大人気


大切なのはお客様の信頼
 今後の目標は、日もちのするイチゴプラスワンのスイーツ、常温保存が可能なスイーツの開発、さらなる高品質のイチゴ栽培だ。
 有効期限のないポイントカード、代引き手数料の自社負担など「自分がされてうれしいと思うサービス」を積極的に取り入れる正子さんは「一番大切なのはお客様の信頼なので、品質を落とさないことを常に心がけています」と笑顔で語る。
 なかじま園の経営理念は「ビジネスとは顧客への満足の提供。感謝の気持ちを忘れずに」。ぬくもりと、自身への厳しさと、地に足のついた姿勢は、よりいっそうの飛躍を大いに予感させてくれた。(ライター 松島恵利子 令和元年5月13日取材 協力:静岡県中部農林事務所地域振興課)
●月刊「技術と普及」令和元年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


有限会社なかじま園 ホームページ
静岡市葵区羽鳥本町11-21
054-277-2322

「農業経営者の横顔」一覧に戻る

ソーシャルメディア