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農業と観光を結び、宮古島の新たな産業を作る

2020年7月 6日

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上地 登さん (沖縄県宮古島市 農業生産法人有限会社大嶺ファーム)


 沖縄県宮古島。平坦な台地に葉タバコやサトウキビの広大な畑が続く農業地帯の一角に、観光バスが止まるスポットがある。マンゴーのソフトクリームやお土産の袋を抱えて、笑顔で行き交う観光客と大きなビニールハウス。小さな看板の向こうには苦労を重ねて作り上げられた、果樹と花のユートピアが広がっていた。


マンゴー栽培への挑戦
202006_yokogao_oomine2.jpg 沖縄本島と石垣島の間に浮かぶ宮古島は総面積226k㎡、人口約5万5000人。近年はリゾート開発に沸き観光産業が活発だが、温暖な気候と平坦な台地を生かし、農家戸数は4700戸、耕地率は52%という農業の島でもある。一方で台風や干ばつによる被害や、島特有の保水力のない琉球石灰岩地層は灌がいが難しく、平成8年に大規模な地下ダムが完成するまでは、サトウキビを中心に肉用牛と葉タバコとの複合経営が多かった。離島であるため、農産物を消費地へ運ぶ輸送面での不利もあったためだ。
右 :宮古島は高い山のない平坦な地形。今もサトウキビや葉タバコの畑が多く広がる


 大嶺ファームの上地登さんも、子どもの頃から過酷な自然とつき合いつつ、水に苦労してきた両親を見て育った。両親と祖父母、長男夫婦を含む10人家族の中で育った上地さんは、家族で話し合いながら力を合わせ、目標に向かって汗を流し、時には涙を流しながら全力でぶつかっていく「農業」という仕事を、いつか生業にしたいと考えていたという。
 「まわりは『農業では飯は食えない。農業は頭の悪い者がやる仕事』と言って反対しました」と笑う上地さんは、農林高校、園芸専門学校へと進み、20歳で就農。サトウキビ中心の島では珍しいスイカの早出し栽培に取り組む中で、灌水作業に半日を費やすこともあった。「それでもスイカが大好きだったんです。これ以上おいしいものはないと思っていたんだけど、ある日同級生が作ったマンゴーを持ってきてくれた。食べたらあまりのおいしさに『なんじゃこりゃー』って」。

 マンゴーに心を奪われ、平成4年に30aの土地で栽培を始めた上地さんだったが、そこで大きな壁にぶち当たる。植え付けたマンゴーが思うように生長しない。「島尻マージ」と呼ばれる宮古島特有の赤土の土壌は珊瑚石灰岩を含んだ弱アルカリ性で、マンゴー栽培には向かないことが判明した。「鉄分が不足することもわかったので、とにかくいい肥料を入れて土質を改良しようとさまざまな方法を調べ、試しました。最終的には弱酸性の土を客土して、何度も試行錯誤を繰り返しながら自家製のぼかし肥料を作り、なんとか栽培できるようになったんです。今でも品質の高いマンゴーを生産するため、土作りにも力を入れて取り組んでいます」。


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左 :「好きなものを一生懸命育てるのが自分の原動力」と語る
右 :たわわに実ったアップルマンゴー


 平成7年にはマンゴーハウスの規模を75aまで広げ、堆肥舎と集荷場を建設。栽培を始めて3年目のこの年はようやく完熟のマンゴーが実り、糖度も14度前後ととてもよくできたが、売り先がないことに気づいた。今でこそ沖縄県のマンゴーの約4割が宮古島で栽培されているが、当時はまだ珍しい作物だった。農園の直売から始め、地元のスーパーやJAでも販売したが、売上げは伸びなかった。「営業なんかしたこともないのに、背広を着て大阪の百貨店や関西の生協にセールスに行きました。そして少しずつ宮古島のマンゴーが知られるようになってきたんです」。


喜ぶお客さんの顔を見て観光農園を思いつく
 補助事業を活用し、平成13年には直売所とパーラーを併設した「観光農園ユートピアファーム宮古島」をオープン。平成15年には大型の台風で農園が半壊する被害にも見舞われたが、その教訓が、防風林の整備や暴風ネットの二重張りなどの設備改善につながった。

 生産に営業にと仕事は多忙を極めたが、観光バスで農園見学に来たお客さんにマンゴージュースを振る舞ったところ、それが大好評。「一生の思い出になりました」と喜ばれた。「お客さんは、ここでしかできない体験、ここでしか味わえない味を求めている」と感じたという。


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左 :農園に続く道は広くはないが、平日にも関わらず次々と観光バスが訪れる
右 :実際に収穫もしている果樹園の一部が見学コース。園内の案内や果樹の説明板を設置し、生産の現場や南国フルーツ、花のことがよくわかる作りだ


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左 :熱帯果樹の見学コースは花の回廊でもある
右 :併設のフルーツパーラーでは、農園内で収穫された新鮮なトロピカルフルーツや自慢のスイーツ、軽食等が味わえる


 「この島の一番の産業は農業。当時の観光客は年間約30万人でしたが、その1割でも島の一次産業に触れてほしいという気持ちがあった。マンゴーを通じて、一次産業と観光をつなぐ新しい取り組みができないかと考え始めたんです」。そこで思いついたのが、子どもの頃からスイカと同じくらい好きだったブーゲンビリアをハウスに植えることだった。
 「これが一番の自慢だよ」と上地さんが農場を案内してくれた。4月下旬、マンゴーの実は小さいが、ハウス内にはブーゲンビリアやハイビスカスをはじめ、色とりどりの南国の花々が咲き乱れている。上地さんの農園では、マンゴーのほかにもパッションフルーツやパパイヤ、バナナやドラゴンフルーツなど年間を通じて多彩な熱帯果樹を栽培しているが、これらの果樹に加えて南国の花々も訪れる人々を迎えてくれるのだ。


お客さんが食べたいと求める加工品をつくる
 「まだまだ満足のいくマンゴーはできていない。生産に力を入れなければと思っていても、お客さんが求めているわけですよ。マンゴーのソフトクリームが食べたい、ケーキが食べたいって。それに応える形で加工商品が増えていったんです」と上地さん。パーラーでは旬のフルーツやジュースがその場で味わえ、マンゴーをはじめとする南国フルーツを使った多彩なスイーツが並ぶ。
 オープン以来、一番の人気はマンゴーソフトクリーム。果汁と冷凍しておいたマンゴーの果肉をたっぷり入れて、クリームベースとブレンドする。「マンゴーのスイーツをめざしてここに来てくれる人も多いから、品切れというわけにはいかない。加工は委託せず、すべて手作り。量産はしないでできる範囲でと決めていますが、大型の冷蔵庫を買い足して、フルーツをどんどんストックできる体制は作りました。昨日新たにオーブンが導入されたので、現在マンゴーのカステラや焼き菓子をどんどん試作しています」。


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左 :パーラーの一番人気は旬のトロピカルフルーツの果汁と果肉を使った「フルーツソフト」。冷凍保存しておいた果実をソフトクリームベースにふんだんに加えて作る
右 :とれたてのフルーツで作るジュースも人気。左からパパイヤ、マンゴー、三尺バナナのジュース


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左 :生マンゴーをふんだんに使った「夏期限定マンゴーロール」も大人気のスイーツ
右 :「ユートピアマンゴーパフェ」は、6月〜9月頃までの期間限定スイーツ。マンゴーの収穫時期だけしか食べられない人気商品


 加工品の販売を始めてからマンゴーが足りなくなり、徐々に栽培面積を増やした結果、現在の200aになったという。「マンゴーだけで1億円規模の農業をめざしています。簡単にはできないけれど、加工や観光農園と組み合わせることで、昨年の売上は9500万円までになりました。観光農業には、生産だけをやっていた時とは違う広がりがある。次の世代の農業を担う若手の育成も大事なことだから、うちでは研修生もたくさん学んでいます。彼らには技術だけではなくて、時代をつかんで自分なりの経営を見つけることも学んでもらいたいと思っています」。
 上地さんは現在、島の生産者や沖縄県宮古農林水産振興センター農業改良普及課と連携しながら、新たな県の推奨品種「夏小紅」の栽培にも取り組んでいる。「夏小紅」は丸くて黄色い。冷凍しても風味が変わらない上、とても甘い品種で加工にも向く。


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左 :観光農園としての工夫もいっぱい。SNS映えする写真を撮るスポットが農園のあちこちに設けられ、記念撮影グッズなども置かれている
右 :マンゴーが好き、ブーゲンビリアが好きな上地さん


 フルーツトマトのように水と肥料を極端に控えた独自の栽培方法で、小ぶりでも甘みが濃縮された果肉に仕上げ、ケーキやタルトなどに加工したいと上地さんは考えている。「まだまだやりたいことや作りたいものがたくさんあります。いくつになっても夢を持って、この島の農業の新しい形を、島のみんなで知恵を出し合って作っていきたいですね」。
(ライター 森千鶴子 平成31年4月27日取材 協力:沖縄県宮古農林水産振興センター農業改良普及課)
●月刊「技術と普及」令和元年7月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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沖縄県宮古島市上野字宮国1714-2
0980-76-2949