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国家戦略特区で高品質トマト栽培に挑戦

2020年2月27日


 兵庫県の北部に位置する養父(やぶ)市は、東部に円山川が流れ、西部には県下最高峰の氷ノ山(ひょうのせん)や鉢伏山、ハチ高原、若杉高原が、北部には妙見山がそびえる。氷ノ山・鉢伏山は国定公園に指定された、豊かな自然環境の宝庫である。また、鉢伏山中腹に広がる棚田は、日本の原風景を残している。


20200124_efarmyabu0106.jpg●国家戦略特区に参入
 人口減少と高齢化の進行、また、農業の担い手不足と耕作放棄地の増加が深刻な問題となっている養父市だが、2014(平成26)年に、中山間地農業の改革拠点として国家戦略特区に指定され、企業の参入が進んでいるところである。
 (株)東海近畿クボタは、2016(平成28)年に特区に参入、(株)クボタeファームやぶ(以下「eファームやぶ」)を立ち上げ、水稲、トマト、レタスなどの複合経営に取り組んでいる。


●地域のつながりが後押し
 eファームやぶを担当するのは、(株)東海近畿クボタの梶原理史さんと川濱大靖さん。川濱さんはこの地域の出身で、大学時代に宮崎県で農業を学び、卒業後に(株)東海近畿クボタに入社。eファームやぶの担当となって4年目になる。
 取材日は不在であったが、立ち上げから関わる梶原さんもこの地域で生まれ育った。営業を担当していたこともあり、幅広い人脈を持つ。労働力不足は農業現場でも深刻な問題となっているが、eファームやぶの立ち上げ時、すぐにスタッフを集めることができたのは、梶原さんの力が大きいという。
 その他、男性4名、女性10名の計14名のスタッフ(アルバイト)がおり、20代から70代の幅広い年代が一緒に汗を流している。「お互い協力し合わないと、日々の作業はスムーズに回りません。仕事のしやすい環境づくりを心がけています」と川濱さん。アルバイトのスタッフが率直に意見を出し合えるのも、このような環境づくりの賜物だろう。


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川濱大靖さん(左)と収穫時期を迎えたトマト(フルティカ)(右)


●大型無柱ハウスで高品質トマトをつくる
 事務所の脇にある無柱ハウス(10a×2棟)には、約7000本のトマトが植えられている。
 これまでの土耕や水耕とは異なる、無数のナノサイズの穴が開いた特殊なフィルムを使用した「アイメック栽培(※)」を採用、ヒートポンプ空調「ぐっぴーバズーカ」やCO2施肥機「ダッチジェット」などを導入することで、高糖度・高品質トマトの生産を可能にしている。冬期は夜間の冷え込みが厳しく、ヒートポンプだけでは熱量が足りないため、農業用ハウス保温フィルム「サニーコート」も4面に導入した。


アイメックとは:
「トマトは、水分供給量が少ない条件下で栽培すると糖度が増します。しかし、今までの土耕栽培や水耕栽培ではかん水や施肥の方法が難しく、安定的な生産ができませんでした。アイメック栽培は、無数のナノサイズの穴が開いた特殊なフイルム(ハイドロメンブラン)により、トマトの根が求める養液だけを供給し余分な水分や雑菌を通さない(適度なストレスを与える)ことで、農業未経験の素人の方でも、栽培初年度から高糖度・高品質で安全・安心なトマトの生産を可能にする画期的な新技術です」(株式会社クボタのサイトから引用)


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左 :アイメックフィルム内に張り巡らされたトマトの根
右 :ヒートポンプ空調「ぐっぴーバズーカ」(右上の黒い部分)


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左 :CO2施肥機「ダッチジェット」
右 :CO2濃度は目視で確認して調節している


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左 :農業用ハウス保温フイルム「サニーコート」。これにより、夜間の温度が保たれるようになった
右 :(株)クボタ アグリソリューション推進部(大野桃実さん(中)と森田敏雅技術顧問(右))も定期的に訪れる


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左 :トマトのへたの周りの緑色の部分は「グリーンベース」。低水分で栽培されたトマトは果実自体でも光合成を行おうとし、グリーンベースが出現する。これが現れたトマトは高糖度でおいしくなるという。ハウス内にはこのようなトマトが多く見られた
右 :収穫が済んだ列は、オレンジのプレートが「まだ」から「済み」に変わる


 eファームやぶの立ち上げに当たっては、梶原さんが、アイメック栽培をおこなっている(株)アグリ中九州で3カ月ほど研修を受けた。「最初はマニュアルもなかったので、関連書籍を読み、日々観察しながら知識を得て、失敗を繰り返しながら現在に至っています」と川濱さん。


 冬季は降雪等により日射量が少なく、冬春トマトにとっては不利な条件での栽培となるが、「3作目にしてようやく納得のいくものができた」というトマトは2品種。甘みが強く女性に人気の「フルティカ」が9、酸味と甘さのバランスがよい「小鈴」が1の割合。「野菜ソムリエサミット」(2019年6月開催)のトマトグランプリ(小玉部門)では、フルティカが2位を獲得。2017、2018年の「野菜ソムリエサミット」では金賞受賞の、プロお墨付きの品質だ。一方、「昔ながらのトマトが好きな人はこちらを選ぶ」という小鈴も人気が高く、今後は生産量を増やす方向で検討中だという。

 2018年8月には、青果物でASIAGAP Ver.2を取得した。
 「管理の徹底のため、より項目の細かいASIAGAPを選択しました」と川濱さん。確かな品質を作りだす要因はここにもある。


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ASIAGAP Ver.2を取得


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収穫されたトマト(左)と出荷作業をおこなうスタッフ(右)


 販売については、6割を(株)東海近畿クボタが引き受ける。担当する「6次産業推進課」がトマト持参で営業活動を行った結果、複数の百貨店での販売が決まり、カタログギフトなどにも掲載されている。その他、同社のホームページの販売でも顧客(リピーター)を増やしている。残りの4割は、道の駅などの直販に頼る。今年は暖冬で雪は見られなかったが、近くにはスキー場がいくつかあり、訪れた客が道の駅でトマトを買って帰る姿が見られる。近隣のレストラン等にも卸している。


●さまざまな取組にチャレンジ
 トマトのほかに、5.5haで「コシヒカリつくばSD1号」を栽培。短稈の多収品種で、10a当たり550kgほど収量があり、(株)東海近畿クボタが全量を買い上げている。米農家である川濱さんの実家が育苗に協力している。近隣地域には(株)東海近畿クボタの顧客が多く、困った時に気軽に声がけできるのも、地元出身のなせる業だろう。
 周年栽培の水耕レタス(3a)は流通コストが課題だが、地域で取りまとめがおこなわれ、特急バスを利用して1日2便、神戸や大阪に出荷されている。
 法面の植生管理対策としてイブキジャコウソウを作付けたり、(株)クボタの施設栽培の実証試験を受け入れるなど、数々の試験的な取組も行っている。


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左 :冬季は例年、雪に覆われたハウスの中でトマトがつくられる
右 :ハウス近くの田んぼは、すぐ近くまで山が迫る。暖冬の影響で今年は雪は見られない


 川濱さんに今後の展望を聞いてみた。
 「新しい品目や品種も取り入れたい。中山間地域で鳥獣害の問題はありますが、露地野菜にも取り組んでみたい。夏場のハウス内の撤去作業は重労働ですが、トウモロコシ収穫と組み合わせた農業体験を考えています。たくさんの人に来てもらいたい」
 条件不利地帯と言われる中山間地域で、(株)クボタeファームやぶのチャレンジは、まだまだ続いて行く。(みんなの農業広場事務局 令和2年1月24日取材)


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