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ものだけではなく、思い出も売る。若い世代が続けられる農業経営を

2020年2月 4日

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田口正幸さん (宮崎県延岡市 株式会社田口ファミリーファーム)


型枠大工を経て就農「俺のやり方でやらせてほしい」
 古くから工業都市として栄え、宮崎県北部の中心都市である延岡市。田口ファミリーファームは、市街地の西、平成の大合併で延岡市となった旧北方町にある。代表取締役の田口正幸さんは、農林業が中心の山間部で果樹等を栽培してきた田口家の3代目だ。「農家を継ぐ気はなかった」と正幸さんは話し始めた。

 4人兄妹の3番目に生まれ、男は正幸さん一人であったことから後継ぎだといわれ続けてきたが、農業にいいイメージを抱くことができず、都市部に出て、型枠大工として3年働いた。鉄筋の枠を組んでコンクリートを流し込み、橋やマンションをつくっていた。
 「それでも結局は俺が継ぐしかないのかなあ」と実家に戻り、俺がやるならば...と、父親に経営の計算書を見せてもらった。
 「ああ、これじゃあ俺の給料は出ないな」と思った。でも自分がやるからにはなんとかしたい。俺のやり方でやらせてくれるんだったら、あとを継いで本気でやるからと父親を説得した。就農したのは23歳のときだった。


それぞれの持ち味を生かし適材適所の家族経営を
 現在農場で生産しているのは、カキ、ブドウ、モモ、キンカン、イチゴ。そのほかに、ジャムやドライフルーツ、ソフトクリーム販売なども手がける。もともとはカキが主力だったが、時代の流れで人気が変わる。「とにかく、栽培経験がないものでも、できそうなものはどんどん作ってみた。果樹は実るまでに年数がかかる。1年でも先送りすると5年後、6年後になってしまう。土地に合うかどうかわからないけれど、作ってみないと始まらない。それに、人が作っていないものほど競争がなく、勝算もある」。


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左 :延岡市北方町に広がる田口ファミリーファームの農場。次郎柿がたわわに実っていた
右 :10月中旬は、次郎柿の最盛期。選別作業の様子


 半ば強引に新品種を導入する正幸さんに「そんなもの、誰がやるか」と文句をいいながらも、地道に栽培し、技術を確立してくれるのが、父親の秀希さんだ。「両親は栽培のプロ。やりながら考えてくれる。正直なところ、自分は生産者というより経営者。生産するより企画経営が向いている。お客さんに喜んでもらえる作物は何か、それをどう売ったらいいか、工夫するのが自分の仕事だと思う」。

 家族経営なので、姉や妹にも適材適所で働いてもらっている。両親は栽培担当。長女も農作業が好きなので、両親と現場へ。次女は何事にも動じず接客が好きなので、直売所のスイーツ販売を担当し、三女は通販担当と、仕事を割り振っている。「みんなが自分の適性に合わせた持ち場につけば幸せになれるのではないか。その上で健全な経営をすれば利益は上がるし、そうでなければ楽しく働けない」と正幸さんは言う。


農産加工は、もったいない精神から
 「次郎柿はA品が3~4割しか出ないんです。それではモチベーションが上がらない。自分たちで一生懸命作ったものをむだにするのが忍びないから、もったいない精神でジャムづくりから始めて、探っていきました」。

 今では、ジャムはカキ、モモ、ブドウ、キンカンなど。カキやブドウはドライフルーツも作っている。加工場を整備し、現在ジャムは、市内の福祉作業所との農福連携で生産、種取りや皮むきを作業所に委託している。
 生鮮品は、通信販売での産直が好評だ。市内の直売所や量販店の直売コーナーのほか、農協にも一部出荷する。農場にもっとも近い旧北方町の直売所「道の駅北方よっちみろ屋」では、生鮮品だけでなく、ソフトクリームやクレープの販売所を構えて展開している。


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左 :道の駅北方よっちみろ屋で販売中の次郎柿。カキのドライフルーツは売り切れだった
右 :青果のフルーツの傍らでジャムも販売している


 「ソフトクリームは5年目、クレープは2年目になります。人は にぎわっているところに行きたいもの。けれども、いろいろな種類のものが豊富になければにぎわいは生まれない。自分の商品が売れるだけでなく、自分の町ににぎわいを作りたいと思ったから、ここの軒先で販売させてくれと頼んで、敷地内に場所を借りてやっています。最初は屋根もなかったので、自分で作りました」。

 クレープとソフトクリームの店は次女の担当。カラフルなジャムや、酵素シロップを炭酸で割る「スカッシュジュース」も人目を引く。「スムージーより手間がかからないから、スカッシュを出して様子を見たのですが、やはりスムージーのほうが人気がある。近々スムージーも再開する予定です」と、ここでも試行錯誤を続けている。


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左 :道の駅北方よっちみろ屋にあるクレープ&ソフトクリームショップ。ソフトクリーム加工は都城市の専門業者に委託している
右 :流行のフルーツ酵素シロップを取り入れたスカッシュジュースも販売


オリジナルブランド「パリメール」が大成功
 インターネットで、『田口ファミリーファーム』を検索すると、いちばんにヒットするのが「パリメール」というブドウ。聞いたことのない品種だと思って尋ねると、実は「瀬戸ジャイアンツ」のことだという。岡山県の瀬戸町で品種改良、開発されたのでこの名称があるが、正幸さん曰く、「すごくおいしいのに、名前でおいしさを伝えにくく、売りにくい」。粒が大きく、シャボン玉が3つ重なったような形状、糖度が高いブドウで、皮ごと食べられる。これを農場の名物にしたいと正幸さんが考えたブランド名が「パリメール」だった。「皮がパリっと弾けて、ジューシーな果汁が拡がり、だれかにメールで教えたくなるからパリメール! です」。

 上質の「パリメール」を育てるには、摘果や剪定などにも手がかかるが、このブドウのヒットで、『田口ファミリーファーム』の名前は広く知られるようになった。


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左 :田口ファミリーファームのオリジナルブランド「パリメール」。品種は瀬戸ジャイアンツ
右 :延岡の菓子店とコラボレーションして、パリメールを使った洋菓子も販売


作りたいのは思い出を売る店。観光農園で延岡、北方を元気に
 よっちみろ屋のあと、正幸さんとともに、柿畑を訪れた。国の6次産業化の事業費と、JAの近代化資金を活用して整備中の観光いちご園も並ぶ。「観光いちご園は平成31年3月にオープンします。そして、ここ5年のうちに、果物とスイーツがテーマの複合型観光施設をつくりたい。姉、妹、それにパートさんも女性が多い。その人たちが安心して働けて、お客さんも安心して畑に入って、遊んだあとにおいしいものを食べて...。直売所兼託児所というか、保育園の中にレストランやカフェ、直売所があるイメージです。人々の思い出づくりのためのツールのひとつとしての農業をめざしています」。


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左 :この一帯を新たに造成し、これまでにないフルーツのテーマパークをつくりたいと語る田口さん
右 :栽培をはじめたばかりの観光イチゴ園のハウス


 山あいの美しい景観を生かし、延岡ににぎわいをつくり、内需が活性化して雇用も生まれる、そんないい循環をつくること。これからの若い人たちに、こんな農業をやりたいと思ってもらえる面白い会社にすること。正幸さんのチャレンジはまだまだ続きそうだ。(ライター 森千鶴子 平成30年10月17日取材 協力:宮崎県東臼杵農林振興局北部普及担当[東臼杵北部農業改良普及センター])
●月刊「技術と普及」平成31年2月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


○株式会社田口ファミリーファーム ホームページ facebook
宮崎県延岡市北方町蔵田辰816
TEL:0982-47-3166