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自家生産の牧草と稲わらで牛を肥育。質の良い安全な精肉とドイツ仕込みの加工品を販売

2020年1月 7日

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村田勝己さん (富山県富山市 有限会社池多ファーム)


 富山市古沢ののどかな田園地帯に、有限会社池多ファームが経営する店「メツゲライ・イケダ」がある。"メツゲライ"とは、ドイツ語で食肉店を意味する。この店では、自家生産の飼料でていねいに育てた牛の精肉と、ドイツの伝統製法で作ったソーセージやハムなどの加工品を販売している。どちらも「味が良い」「素材が安心」と評判が高く、足しげく通う固定ファンも多い。


就農後、東京とドイツで肉の加工品作りを学ぶ
201912_yokogao_ikedaF_1.jpg 「メツゲライ・イケダ」は、池多ファームの代表、村田勝己さんが店主を務め、食肉加工、販売を一手に担っている。
 「父の代から肉用牛の肥育経営をしていて、父もいずれは自分の育てた牛を販売する構想をもっていたようです。私は県の畜産研究所に勤め、牛や豚の研究をしていましたが、30歳を機に就農して、そこから具体的に話が進んでいきました。肉だけを販売しても厳しいご時世であり、ハムやソーセージなどの加工品も取り扱うことにしました」。

 村田さんは約2年間、父親の信雄さんのもとで、牛の飼養管理や牧草の栽培など、農作業を一通り体験。その後、東京の食肉店で加工品製造を学び、そこの店主の勧めもあって、最後はドイツで1年弱の修業を重ねた。帰国後は、日中は実家の仕事、夜は加工品を試作する日々を送る。

 「ドイツとは水の質や塩、加工機械も違うので、売り物の味に至るまでは試行錯誤の繰り返しでした。試作のために肉を廃棄することが、一番つらかったですね」。
 そして2005年6月に法人を設立。同年11月、メツゲライ・イケダを開業した。
右 :ヨーロッパのお店のような佇まい。店名の「メツゲライ」もドイツ語で表記


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左 :ドイツの伝統製法で、一つひとつをていねいに手作り
右 :肉本来のうまみを引き出したソーセージ


ヨーロッパの食肉店を見習い、精肉と多品種の加工品を販売
 村田さんは開店当初から、ヨーロッパの食肉店を参考に、加工品を多品種で展開してきた。
 「日本では、焼き肉やすき焼きなど、素材そのものを使った料理が多いですが、ヨーロッパには食肉の加工品が何千種類とあって、さまざまな食べ方があります。それを提案するのも、生産者の役割です。また、富山県にはこういうタイプの店はあまりなかったので、喜んでもらえるのではないかと考えました。それに加えて当店は、畜産農家ならではの強みも併せ持っています。普通の食肉店であれば、必要な部位だけを問屋から仕入れて販売しますが、うちは牛1頭を丸ごと引き取り、加工品も作ることで、余さずに使い切ります。部分肉で買うよりも単価が抑えられますし、ひと手間かければ、ひき肉にするよりも付加価値をつけて販売することができます」。


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左 :乳飲み仔の時から、手塩にかけて牛を育成
右 :飼料にこだわって育てた牛の精肉(ロース)


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店では商品の販売とともに、おいしい食べ方を提案


 村田さんが手がける加工品は、ドイツの伝統製法を採用。岩塩やスパイス、ハーブもドイツから輸入し、じっくりとていねいに時間をかけて作っている。
 「素材に逆らわず、最小限の添加物で、自然な味わいと、肉本来のうま味を引き出すように、心がけています」。
 村田さんの技術力は本場ドイツでも認められている。食肉加工の世界最高峰の国際コンテスト「SUFFA(ズーファ)」(ドイツ食肉協会主催)に、2005年、2006年と2年連続で計10品を出品し、金賞6、銀賞1、銅賞2の計9個のメダルを獲得。そのニュースは、富山県の地方紙でも大きく報じられた。


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左 :塩や香辛料など最小限の添加物のみで加工品を製造
右 :ドイツの国際コンテストでは、金賞をはじめ数々の賞を受賞


循環型農業に取り組み安心安全な肉牛を生産
 メツゲライ・イケダの加工品は、スーパーなどに比べると価格が高いものの、顧客のターゲットを絞る戦略で、売上を伸ばしてきた。
 「つなぎや調味料までこだわって、良いものを作っている。そのことをわかってくれるお客様が来店し、そのお客様が同じような価値観をもつ人を紹介してくれます。広告は打っていませんが、口コミで広がっていきました。牛肉はすぐ近くの自家農場で生産、加工する豚肉も富山県産のものを使っているので、安心感があることもお客様に響いたのだと思います」。
 2007年9月には、百貨店「大和・富山店」に2号店も出店した。


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左 :牛肉をベースにした粗びきのソーセージ
右 :ハムと野菜をゼリーで固めた加工品はオードブルに最適


 肉用牛の肥育は、父の信雄さんと弟の信也さんが携わり、飼料作物や水稲生産も一緒に行っている。
 「100%自家生産の牧草と、仕上げの時期にはコシヒカリの稲わらを与えて、ていねいに牛を育てています。また、牛からの排泄物は、ファーム内で堆肥化し、有機肥料として牧草地や水田に還元。そこで作られた牧草や稲わらがまた、牛の飼料になる。このような循環型農業に取り組み、安心と安全性を図っています」と、信也さん。
 2018年現在、池多ファームの肉用牛飼養頭数は274頭(交雑種245頭、黒毛和種29頭)、作付面積26ha(飼料作物16ha、水稲10ha)、稲わら収集面積30haの規模で経営を行い、売上は直売店を含め年間約2億円。会社は役員4名、従業員9人の体制である。


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左 :家族経営の法人。写真中央が父の村田信雄さん
右 :「体力、免疫力のある健康な牛を育てています」と弟の信也さん


地元のシェフと勉強会を開き肉の美味しい食べ方を提案
 メツゲライ・イケダが好調なのは、品質、味にこだわっていることに加え、接客にも理由がある。
201912_yokogao_ikedaF_12.jpg 「おいしい肉の食べ方や、肉と相性のよいワインの提案など、お客様とのコミュニケーションを大切にしています」と村田さん。「いかにおいしく肉を食べてもらえるかが店のコンセプトなので、お客様に聞かれたらすぐに答えられるよう、肉の調理法や酒類の勉強もしています。フレンチ、イタリアン、和食のシェフとも、定期的に勉強会を開いています。そこで得た知識をお客様に伝え、後日、『教えてもらったように料理をしたらおいしかった』『ステーキと○○のワインがよく合った』などの反応が返ってくると、こちらもうれしいですし、仕事のモチベーションも上がります。それは、農場で牛を育てている父や弟も同じですね」。


 今後の展望について村田さんは、「今までどおり良いものを作り、お客様に喜んでもらうことを大切にしたい」と話す。「東京とドイツで修業していた時に、『ハムやソーセージは、ちょっと勉強すれば、だれでも作ることができる。店をやるなら、ファンを作りなさい』と、それぞれの師匠に同じことを言われました。この店のファンになってもらう第一歩は、食べ方を提案すること。肉のおいしい食べ方を提案したり、お客さんとコミュニケーションしていきたいです。あとは、地元の飲食関係の人と、肉を使ってコラボレーションをしてみたいですね」。
 肉のおいしい食べ方への探求は、まだまだ続きそうだ。(ライター 北野知美 平成30年9月26日取材 協力:富山県農林水産部農業技術課 広域普及指導センター)
●月刊「技術と普及」平成31年1月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


○メツゲライ・イケダ ホームページ
TEL:076-427-0666
<本店> 富山市古沢651-1
<大和富山店> 富山市総曲輪3-8-6 大和富山店B1

○有限会社 池多ファーム ホームページ
富山県富山市北押川881-1
TEL&FAX 076-432-0565

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