農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

トマトを使ったユニークなオリジナル商品で 市場開拓をめざす!

2019年12月 4日

201911_yokogao_nichinan_1.jpg
内田章久さん (鳥取県日野郡日南町 日南トマト加工株式会社)


 鳥取県南西部、中国山地の中央に位置する日南町は、清流日野川が流れ、山々に囲まれる町。夏は蛍が舞い、冬には豪雪地帯となる。1年を通じて昼夜の寒暖差が大きく、農作物の生育に適した環境だ。日南町のトマト栽培の歴史は古く、昭和46年にトマトの露地栽培試験が、本格的なハウス栽培は昭和53年から始まった。
 日南トマト加工株式会社社長の内田章久さんは、標高550mの畑で、甘みが強く深い味わいトマトを生産している。内田さんはトマトを作るだけではなく、トマトを使った多彩なオリジナル商品を開発し、幅広い年齢層から好評を得ている。


6人の仲間で加工会社を設立
201911_yokogao_nichinan_3.jpg 内田さんはUターンしてトマト作りを始めた。「トマトといえば熊本や北海道ですが、日南町は標高が高く、寒暖差が大きいことから、いいトマトが育ちます。トマト農家は50軒ほどで、平均10a程度とそれほど大きくはありませんが、どの農家のトマトも良質です。農業を続けるうちに、自分で価格を決めたい、と強く思うようになり、いまから12年前、58歳のときに仲間6人と加工中心の組織を起ち上げました」。
 トマトを加工する原点は「もったいない」だと言う。
 当時、全収量16tのうち2割が規格外で出荷できなかった。
 「規格外品を加工に利用して、少しでも生産者の所得向上や産地のPRにつなげようと、日野農業改良普及所の田中所長の働きかけもあり、事業をスタートさせました。空いていた中学校寄宿舎の調理室を活用して、生産部として加工に取り組むことにしたのですが、最終的にはフィニッシャー、殺菌器、ボイラーなど合計260万円の必要機材を半額補助で購入して、生産者の有志6人で始めたのが今の会社です」と内田さん。


201911_yokogao_nichinan_4.jpg  201911_yokogao_nichinan_2.jpg
トマトは毎日ハウス内でしっかりと栽培管理され、品質の高いトマトとなる


モーツァルトを聴かせてトマトを栽培
 「トマトジュースを中心に製品化を始めたのですが、ほかにはない商品を売り出しました。モーツァルトの音楽を聴かせるとトマトはおいしく熟成するというので、モーツァルトをトマトに聴かせてジュースにしました」と笑う内田さん。その「音楽熟成トマトジュース」は評判の商品だ。


201911_yokogao_nichinan_5.jpg  201911_yokogao_nichinan_9.jpg
「音楽熟成トマトジュース」(左)と極純(右)


10がキーワードのプレミアム商品「アイシャーラ」を限定販売
 「トマトジュースといえば、果肉が口の中に残る感触がありますよね」それはそれでおいしいのだが、果肉などの固形物が口に残らない、さらっとしたタイプのトマトジュースを作ろうと、内田さんが研鑽を重ねて作り出したのが、プレミアムトマトジュース「アイシャーラ」。「アイシャーラ」とはアラビア語の「10(アシャラ)」からの造語で「10」にちなんで名づけられた。日中の寒暖差が10度以上になる10月に収穫したトマトを使い、糖度10度のトマトジュース。通常の2倍量であるトマト12~13個をぜいたくに使ってジュース状にし、「裏ごし」という独自製法を加えて果肉感を抑え、瓶詰めしてから約半年間土蔵で寝かせる。寝かせることで、使用している藻塩の角が取れてまろやかに。コクがあり、のど越しがよく、飲み終えたときに果肉が残らないトマトジュースができあがる。
 「母の日、父の日、お中元のギフトなどに、都心部の百貨店で販売する、わが社のスペシャル商品です」。


201911_yokogao_nichinan_14.jpg  201911_yokogao_nichinan_8.jpg
左 :売れ筋ナンバー1の商品「まるごととまと」は、「ふるさとチョイス」にも出品
右 :「トマトケチャップ」や「焼き肉のたれ」など調味料やドレッシングも生産。食品添加物、防腐剤を一切使用せず自然のうま味を生かしている


201911_yokogao_nichinan_6.jpg  201911_yokogao_nichinan_7.jpg
左 :泡立つ「クリア・トマトスプリッツアー」も自信作
右 :「完熟とまとたっぷりカレー&ハヤシ」。トマトの深い風味が特徴


 このほかの売れ筋商品には、「まるごととまと」「王様トマトジュース」「音楽熟成トマトジュース」トマトと米と米麹だけを使った子供たちに人気の「トマト甘酒」などがある。今年(平成30年)6月に発売した発泡する透明なトマトジュース「クリア・トマトスプリッツアー」も好評とのこと。多彩な商品ラインアップは、すべて内田さんのアイデアから生まれた。


トマトソフトクリームで集客。加工品の売り上げ伸ばす
 平成28年4月にオープンした「道の駅日野川の郷」に加工場と直売店を兼ねた「ショップまるごととまと」を新設移転した。トマトを使ったソフトクリームの提供が集客につながっていると内田さんは話す。
 「日南町は、夏の時期がいちばん多くのお客さんでにぎわいます。その時期に特に人気なのが、トマトソフトクリームで、子供から大人まで大好評です」。


201911_yokogao_nichinan_11.jpg  201911_yokogao_nichinan_12.jpg  
左 :「道の駅 日野川の郷」は比較的交通量の多い、日本海側から広島方面へ抜ける道の途中にある。日野川はホタルの里として有名で、夏から秋にかけての時期は観光バスが連なる
右 :「ショップまるごととまと」は、道の駅の一角にある、明るい雰囲気の直売店


201911_yokogao_nichinan_13.jpg 取材中も、ソフトクリームを買い求めるお客さんが後を絶たなかった。来店者はソフトクリームだけでなく、トマトジュース、ケチャップやジャム、ドレッシング、レトルトカレーなど、さまざまな商品を手にする。集客力ある商品がさまざまな商品へと購買をつなげる。ヒット商品が店全体によい影響をおよぼす好例だ。
右 :トマトソフトは大ヒット商品


 そして今、内田さんは食品衛生管理基準HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に重点的に取り組んで、平成30年度内の鳥取県版HACCPの認証をめざしている。
 「みなさんに『おいしい』と言っていただけるのは当社の製品がすべて手作りだからではないかと思っています。だからこそ、慎重に慎重を重ねた衛生管理が必要です。県内を中心に三重、兵庫、大阪、島根県などから数多く委託加工を請け負っていることもあり、食の安全には入念に取り組んでいます」。


201911_yokogao_nichinan_10.jpg ユニークなアイデアに挑むだけではなく、お客さんの望む必須条件を満たし、着実に先を見すえていく内田さんに「今、懸念していることは?」と聞いたところ、「後継者問題です」と答えが返ってきた。
 会社設立の仲間6人は高齢化などにより引退。生産5人、加工6人、販売4人の計15人はパートスタッフ。正社員は内田さんだけだ。社内だけでなく、住民の高齢化、人口減少など地域の課題も大きく影響する。
左 :加工場では、6人のスタッフが働き、朝収穫されたトマトがすぐに加工され、製品化される

 内田さんに見通しを尋ねると、「Iターンの若者たちが農業研修生として日南町に暮らし始めています。彼らといい形で結びつけばと思っています」と、明るい声が返ってきた。(ライター 上野卓彦 平成30年8月17日取材 協力:鳥取県西部総合事務所・農林局 西部農業改良普及所)
●月刊「技術と普及」平成30年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


日南トマト加工株式会社 ホームページ
鳥取県日野郡日南町生山386番地
電話 0859-82-0413

「農業経営者の横顔」一覧に戻る

ソーシャルメディア