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2018年10月 4日
秋田県鹿角市の「農事組合法人八幡平養豚組合」は、農場を十和田八幡平国立公園に囲まれた自然の中に有し、澄んだ空気とミネラル豊富な天然水に恵まれた豊かな環境の下、豚の健康を第一に考えた繁殖・肥育を行なっている。
年間出荷頭数は八幡平養豚組合3農場で約2万2500頭、別法人(農事組合法人あけぼの養豚農場)2農場を含めた5農場で約3万7000頭。「八幡平ポーク」の愛称で親しまれている豚肉は、赤身のきめが細かく、柔らかい食感で、肉質にばらつきがないのが特徴だ。全国の銘柄肉が一堂に会し、外観と食味を競う食肉産業展「銘柄ポーク好感度コンテスト」では、2008年に優良賞、2014年に優秀賞、2015年には最優秀賞を獲得するなど、味の良さは折り紙つきだ。
直売所は鹿角市内に2店舗、大館市に1店舗、青森県八戸市に1店舗、関連会社が運営する八幡平ポーク専門店が秋田市内に3店舗ある。
右 :おいしさと安全性を兼ね備えた八幡平ポーク
健康な豚を育てることが基本。設立以来、変わらないポリシー
八幡平養豚組合が設立されたのは、1969年(昭和44年)10月。その後、数年をかけながら農場を1カ所ずつ増やしていき、1990年までに鹿角地区内に八幡平養豚組合3農場、別法人2農場、計5農場を設けた。組合設立当時、養豚経営では母豚数約300頭が効率的と考えていたことから、5農場を同規模にして、飼養成績を比較し切磋琢磨できる環境をつくった。
各農場には、農場長を筆頭に交配担当、分娩担当、肥育担当を一名ずつ配置。「一人一担当が基本。たとえ新人であっても、その部門の責任者です。月に1回行われる全体会議では、自分の1カ月の数字を報告し、問題点があれば解決策を出し合います。そうやって技術レベルを揃え、向上させてきました」と組合長の阿部さんは説明する。そのほか場長会議や担当者会議も毎月開き、情報共有を図っている。
左上 :本社事務所のある谷内農場
右下 :豚舎の換気・温度調整、塵埃の排除を徹底し、適正な飼育環境を保っている
種豚は組合内のGP農場で育成したハイブリットポーク「ハイポー豚」を利用。ハイポー豚とは、養豚先進国オランダで計画的に交配、作出された四元交雑種で、保水性が高く、柔らかで、きめの細かい肉質は日本人好みの食味といわれている。
そして、最大のこだわりは「健康な豚を育てること」。豚舎内の温度管理や餌の配合を工夫し、豚にストレスを与えないようにしているのはもちろんのこと、自社内に家畜診療所を設け、専属獣医師による適切な健康管理・衛生管理が常時、すみやかに行われている。農場内には関係者以外の立ち入りを禁止し、豚舎への入退室時には入浴、着替えをし、持ち込むものすべてを殺菌灯で滅菌。雑菌を持ち込まないよう、細心の注意を払っている。
また、繁殖から肥育豚の出荷まで同一の施設内で行うので、出荷されるまで外部と接触することがなく、病気の侵入を防いでいる。このような徹底した飼養管理により、母豚はたくさんの子豚を産み、子豚は元気にすくすくと成長し、結果として生産性や食味の向上につながっている。
地元の人においしさを届けたい。販売部門立ち上げと、イベント開催
1999年には販売部を創設し、直売を始めた。「知り合いから『どこに行けば八幡平ポークが買えるのか』と聞かれることが多くなり、みなさんにそんなに興味を持っていただけるのなら、自分で販売もしてみたいと思ったのがきっかけです」と阿部さん。当初は無店舗販売だったが、14年前に第1号の店舗「とことんとん八 八幡平本店」をオープンさせた。
さらに、それまで半分以上を占めていた首都圏への出荷の割合を徐々に減らし、秋田県内を中心とした市場にシフト。消費者からは「おいしい」「柔らかい」という声のほか、「鮮度がいい」という感想も寄せられ、地元ファンを着実に増やしている。職員にとっても、地元の消費者からの評価を直接受け取ることは大きな刺激であり、励みになっている。
左上 :平成28年12月に新しく建てられた直売店「とことんとん八 八幡平本店」。加工施設も併設している
右下 :売り場には新鮮な肉が並ぶ
左上 :新鮮な精肉や肉加工品、惣菜類などを買うことができる
右下 :自社で製造した煮込みホルモンなど加工品も販売
左上 :ハム・ソーセージの加工品は委託加工
右下 :産直まつりの焼肉試食コーナーにできた行列
店舗を構えた年から、イベントも開催している。5月末と11月中旬の年2回、「とことんとん八 八幡平本店」の敷地内で産直まつりを開催。隣接の野菜直売所と農協、市役所農林課の後援を得て、焼肉の試食や豚汁のふるまいなどを行っている。毎回、用意した約600食の豚汁が、2時間ほどでなくなる盛況ぶり。告知のチラシは店頭での手渡しに加え、前日に新聞に折り込んでいるが、このチラシの裏はぬり絵になっていて、色をぬって持ってきた人には子供たちが喜ぶお土産などを進呈している。「地元に還元するイベントですから、みなさんに喜んでいただきたい」と阿部さんは話し、日頃の感謝を込めて、楽しい企画で来場者をもてなしている。
新しい加工施設と設備を導入し、新商品を開発・販売
海外からは安価な豚肉が輸入され、国内の競争も今後ますます激化するとみられる養豚業界。八幡平養豚組合では新たな販路を開拓することを目的に、平成28年12月、国の6次産業化ネットワーク活動交付金を活用して加工施設兼店舗と高性能冷蔵庫を整備した。これまでは食肉処理場に出荷した自社豚を部分肉で買い戻し、精肉にスライスして販売していたが、大型の枝肉を処理できる加工施設を整備したことにより、バックリブ等の新しいカット規格の精肉の製造や、自社産の副産物(豚骨、豚脂)の確保が可能となった。
左上 :枝肉を自社で脱骨、カットしている
右下 :高性能冷蔵庫内で保管され、熟成を待つ肉
左上 :自社で枝肉処理を行うことにより、副産物も商品化。商品アイテムが拡大した
右下 :熟成肉「時のゆめ」。しっとりと柔らかく、かめばかむほど旨味が感じられる。
また、長期の鮮度保持が可能な高性能冷蔵庫で豚肉をマイナス1℃~マイナス2℃で氷温保存し、45日間以上寝かせると、熟成肉ができあがる。時間とともに肉のタンパク質が分解され、旨味成分の一つであるグルタミン酸などのアミノ酸が増加し、さらに肉を柔らかくする効果もある。阿部組合長は「加熱すると、熟成肉特有の風味が広がります。脂の口どけもいいですよ」と説明し、高付加価値化を実現した熟成肉に期待を込める。「八幡平ポーク 時のゆめ」と名付けられた新商品は、平成9年3月中旬から販売を開始し、すでにリピーターもいる。牛肉の熟成肉は多く出回っているが、豚肉の熟成肉は全国的にも珍しく、県内外の飲食店や食肉卸業者からも問い合わせが相次いでいるという。「今は私どもの店舗と一部飲食店向けの数量しか仕込んでいませんが、商談が決まれば、それに応じてどんどん仕込みをふやしていきます」。これらの取り組みにともない3名を新規雇用し、職員は36名となった。経営の安定と発展をめざして、阿部さんは販路拡大に意欲を燃やす。(ライター 橋本佑子 29年6月7日取材 協力 :秋田県鹿角地域振興局農林部農業振興普及課)
●月刊「技術と普及」平成29年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
農事組合法人八幡平養豚組合 ホームページ
秋田県鹿角市八幡平字中川60-3
TEL 0186-34-2204