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レンコンを知り尽くした農家が作る、おふくろの味

2018年6月11日

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渡辺みさ子さん (愛知県愛西市 有限会社はす工房)


 はす工房は、道の駅「立田ふれあいの里」にある、レンコンを使った惣菜や菓子、アイスクリームなどを提供する農家レストランで、設立から13年目を迎えた。
 ハウス栽培や複数の品種の組み合わせによって通年で出荷しているレンコンだが、正月料理の食材という印象が強い。そんなイメージを払拭し、一年を通じてレンコンを多くの人に食べてほしいという思いから、はす工房は生まれた。
 「レンコン畑の真ん中でレンコン料理を作って、誰が買いに来るものか」。設立当初は厳しい声が多かったが、現在では、年商6000万円をあげるまでに成長した。


レンコンの生産は全国第4位
 愛知県西部に位置し、平成17年に海部郡佐屋町、立田村、八開村、佐織町の合併によって生まれた愛西市は、全国第4位の生産量を誇るレンコンの特産地で、県内の95%を生産している。清流木曽川のほか数多くの河川があり、沖積層から形成される肥沃な土壌を持つ。
 道の駅「立田ふれあいの里」は、愛知、岐阜、三重県境が交錯する県道沿いにあり、観光スポットとして人気の高い国営木曽三川公園への通り道でもある。道の駅内には、はす工房のほかに、直売所、飲食施設、パン工房などが併設され、平日でも多くの来場者があるが、とくにイベント開催日や週末には人があふれ、施設に入るための車で県道が大渋滞を起こすほどである。


立田ふれあいの里・はす工房の誕生
 平成9年、村おこしのため、旧立田村で地域特産品の販売拠点の設置が検討され、11年に「立田ふれあいの里運営協議会」が設立された。渡辺みさ子さん(現代表取締役)は役員として参加し、レンコン料理をPRできる加工場の建設を働きかけた。しかし、すぐに施設建設に向けて動き出したわけではなく、まずは簡素な小屋を建て、野菜の直売を行う朝市を開催。土日の午前中営業を5年間続け、確かな手ごたえを得て本格的に始動した。


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左 :冷凍品や加工品を一切使わない手作り惣菜の店「はす工房」
右 :道の駅・立田ふれあいの里。連日多くの観光客でにぎわう


 平成16年12月に立田ふれあいの里がオープン。同時に、実演厨房を持つレストランとして、グループ活動で長年レンコン料理を研究していた生活改善部会5名が中心となり、はす工房が産声を上げた。「本当にお客が来るのか」という周囲の心配をよそに、オープンと同時にお歳暮の進物用のレンコン等、新鮮な農産物を買い求める人がどっと押し寄せ大盛況。その後も順調に客足が伸びたため、平成17年8月に国土交通省の道の駅として認定を受け、平成18年には法人化している。


レンコン農家のこだわりの味
 はす工房では、レンコンを使ったかば焼き、コロッケ、煮和え、はさみ揚げをはじめとする数多くの惣菜や、郷土料理の箱ずし等を販売している。新たなメニューの開発には、歴代の普及指導員が協力してきた。料理ごとに品種や部位を選んで調理しており、レンコンを知りつくした農家ならではの味を実現。また、レンコン以外の野菜や米も地産地消だ。冷凍食品や加工品は使わないことをポリシーとしている。また、添加物を使用しないため、作ったものは当日に売り切り、翌日に持ち越さないようにしている。


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左 :ボリュームたっぷりのレンコンライスバーガー
右 :レンコンかば焼き。すりおろしを海苔にのせて揚げている


 1カ月の材料費はレンコンだけで40~50万円。ハウスレンコンとなる夏場は150~160万円にもなるが、素材へのこだわりはゆずらない。その一方で、規格外のレンコンはすり下ろして有効活用、容器のコストダウンを図るなどにより、財布にやさしい価格を可能にしている。
 そうした地道な努力のおかげで、休日にはレジに大行列ができ、店からあふれそうになることもある。また、節分に合わせてレンコンを具材に使った恵方巻を販売するが、年々高まる人気に、最近では予約が取れないほどだ。今年2月も、休日返上で230本もの恵方巻を販売した。
 「レンコンってこんなにおいしいの?」「いつも食べるレンコンと、味が全然違う!」という声がスタッフの励みになっている。


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左 :オープンキッチンなので、安心して購入できると好評
右 :「レンコンの味が全然違う!」とリピーターも多い


食品メーカーとの共同開発で生まれた人気商品
 夏場には1日に500個売り上げる人気商品『レンコンソフト』は、ソフトクリームの老舗・日世株式会社の最高級のソフトクリームにレンコンパウダーをかけ、スプーン代わりにも使えるレンコンチップを添えている。おいしさと見た目のユニークさはとくに若者に人気で、インスタグラムやTwitterなどのSNSへの投稿も多く、反響が大きい商品である。レンコンパウダーは中国産のものが以前からあったが、はす工房は地産地消にこだわって、地元の加工会社に頼んで特別に作ってもらっている。
 同じく人気の『レンコン入りみたらし団子』は、豊橋にある和菓子店に渡辺さんが直接かけ合い、共同開発により生まれた商品である。


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レンコンチップス(左)とレンコンソフト(右)。レンコンチップをスプーン代わりにして食べるのが人気


一人一人が経営者の気持ちで
 従業員は11名(社長、正社員1名、パート9名)で、60代が最も多く全体の6割を占めている。スタッフは全員どの持ち場もできるオールラウンダー。誰が欠けても補い合える体制だ。
 待遇面では、年2回の賞与もあり、納税するだけの年収に達している。収支を透明化し利益をきちんと還元しているので、従業員のモチベーションが高い。


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 売り上げは天候に左右されるが、全員が天気予報をチェックし、「今日はお客さんがたくさん来そうだから、ご飯を多めに炊いておこう」「寒くて客足が伸びないので、早めに値下げして売り切ろう」などの判断を、渡辺さんが不在の場合でも行うことができる。がんばればがんばっただけ給与に反映されるため、一人一人が経営者の気持ちを持てるのだ。


後継者育成が今後の課題
201805_yokogao_hasukobo_1.jpg「作れば作っただけ売れるのだけれど、厨房の大きさを考えると今が限界。今後の課題は後継者を育てること」。
 専業農家の渡辺さんは、家の仕事であるレンコン栽培と店の経営の両立のため、睡眠時間を削りつつ12年間走り続けてきた。家族の理解や支えがあってこそ続けられたが、今年で65歳を迎えること、内孫ができたこともあり、引き継いでくれる人がいればゆずりたいと語る。

 お孫さんに「今日は敬老の日だからいたわって」と言ったところ、「それならもっとばあちゃんっぽくしてよ」と言われるほど、渡辺さんは若々しくエネルギッシュだ。地域の雇用を作り出し、女性起業の先導役として地域をけん引していく存在として、まだまだ活躍を求められるだろう。(ライター 松島恵利子 平成29年2月7日取材 取材協力:愛知県海部農林水産事務所農業改良普及課)
●月刊「技術と普及」平成29年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


有限会社はす工房
愛知県愛西市森川町井桁西27番地
TEL 0567‐25‐8001

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