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2018年5月 7日
種なしデラウエアの産地だった多度津町をオリーブの町に変えようとしている人たちがいる。瀬戸内海式気候に加え傾斜地というブドウ栽培に適した条件と、県内小豆島のオリーブ栽培のノウハウに着目。オリーブを導入して栽培に取り組んだ。平成26年9月に農事組合法人たどつオリーブ生産組合を設立。28年2月には株式会社蒼のダイヤを創業し、オリーブの加工販売に本格的に取り組んでいる。
ブドウ畑をオリーブ畑に変え地域を守る
香川県の北西部、瀬戸内海沿いにある多度津町は、降水量が少なく日照に恵まれた温暖な気候で知られている。傾斜地を活用して栽培されるブドウの種なしデラウエアは西日本を中心に高い人気を誇った。ところが農業者の高齢化や後継者不足に加え、価格下落等によって生産額が減少し、樹園地の耕作放棄が目立つようになった。平成21年度には、多度津町の耕地面積約560haのうち約85haが耕作放棄地となっていた。
右 :瀬戸内海沿いの丘陵地に広がるオリーブ畑。中央の白い建物が加工場
「オリーブの栽培を始めたのは今から8年前(平成21年)。まったく経験がなかったので、小豆島のオリーブ農家をまわって勉強させてもらいました」と語る、(株)蒼のダイヤの取締役生産総括である細川勝さんは、鉄道会社を55歳で早期退職して地元に帰ってきたUターン組。メンバーは、元米農家や野菜農家、親の代までブドウを作っていたなどさまざまだ。皆、ふるさとの農業の衰退を止められないかと思っている人ばかりだ。
なぜオリーブだったのか。多度津町担い手育成総合支援協議会が、デラウエアに代わる作物として、同じ香川県小豆島で栽培されているオリーブに注目。オリーブオイルがわが国の生活文化に浸透してきたことを踏まえ、ブドウより手間がかからず競合が少なく、小豆島での栽培成功のノウハウが蓄積されていることから、「多度津オリーブプロジェクト」(オリーブによる地域活性化計画)を平成21年10月に立ち上げた。生産者が少しずつ増え、平成26年9月、地域の契約農家約45軒を核に、農事組合法人たどつオリーブ生産組合(以下、生産組合)を設立した。
現在オリーブの契約農家は50軒以上オリーブが根を下ろし始めている
地元企業との分業から共同出資の加工販売会社設立へ
当初、収穫したオリーブの搾油は、小豆島の加工施設に委託していた。完成したオリーブオイルは、町と地元企業の協力を得て、JAの産地直売所や近隣のスーパーマーケットで少量販売した。徐々にオリーブを栽培する農家が増えてきたことから、平成26年、地元企業の四変テック株式会社(電力部品製造業)が地域貢献のため、オリーブの加工・販売を担うことになった。「収穫は生産組合が行って、加工は外注、販売は四変テックという分業です。これが事業拡大の弾みになった」と細川さん。
同年、生産組合が生産した地場産オリーブを使ったオリーブオイル「蒼のダイヤ」が商品化され、県内と首都圏のスーパー等で販売が始まった。そして翌27年に開催された、日本で唯一の国際オリーブオイル品評会"OLIVE JAPAN2015"において、「蒼のダイヤ ミッション」と「蒼のダイヤ トンダ・イブレア」が金賞を受賞するという栄誉を得た。商品化から短い期間にもかかわらず、その高い品質が認められたのである。
平成28年2月には、生産組合と四変テックが共同出資し、オリーブの加工・販売を行うための新しい法人「株式会社蒼のダイヤ」を設立。役員3名、社員7名。男女比は7:3。農林漁業成長産業化ファンドを活用したもので、会社組織として新たな船出となった。「生産組合では栽培が中心でしたが、会社設立からは加工・販売にも重点を置いています。四変テックが2年間行った販売ノウハウを受け継ぎ、そこにプラスアルファして事業の拡大を目指しています」と細川さんは意気込む。
左 :オリーブオイルと「オリーブの新漬け」は人気商品
右 :地元JA産地直売所に並ぶ「蒼のダイヤ」の商品
金賞受賞が力に、栽培も加工販売も順調
オリーブの実を買い上げてもらうこれまでの体制では、売上総額が800万円程度であったが、商品化が加わったことで、平成28年度の売り上げは1500~1600万円が目標だと細川さん。「収量の問題ももちろんありますが、売り上げ5000万円を5年後に、いや、3年後に実現したい」と笑う。
会社設立後の販売初年度となった平成28年度は、ふるさと納税の"ふるさとチョイス"にオリーブオイルと新漬けオリーブが選ばれ、前年度比3倍以上の出荷量となっている。また、大手高級スーパーと、オリーブオイル1000本の契約を予定。通信販売ではJR四国、郵便局とも協力関係にあり、インターネットサイトからの販売も始まり、順調に売り上げが伸びている。
左 :多度津町の「ふるさと納税」のチョイス製品にも選ばれている
右 :「オリーブの新漬け」は毎年10、11月に収穫したオリーブだけを使用している
左 :収穫されたオリーブの搾油作業。ひとつずつていねいに検品
右 :平成28年から自前の搾油機が稼働
香川県中讃農業改良普及センターは、オリーブプロジェクト発足当初から実証圃の設置、栽培講習会の開催など、生産技術の習得に向けて積極的に支援するほか、県の農政担当部局と協力して、商品の販路拡大の指導と支援活動を行ってきた。
現在、オリーブ畑の栽培面積・植栽本数は、多度津町全体で8.8ha、5100本。そのうち生産組合は43aで、植栽本数は386本だ。平成29年は間伐を行うため、200本になる予定。オリーブの品種は、95%が「ミッション」。平成27年まではオリーブ植え付け希望者が多かったため、苗の購入と合わせて生産組合が育苗して希望者に供給していたが、現在は購入のみとなっている。
より高品質を目指し、若者を呼び込みたい
"蒼のダイヤ"の名称について細川さんはこう話す。「かつて多度津のデラウエアは、"赤いダイヤ"と呼ばれていた。私たちのオリーブは美しい緑色なので、ダイヤのように価値が高いといわれたデラウエアにあやかって"蒼のダイヤ"と名づけて、多くの人に知ってもらいたいと考えた」。先人が作ったブドウと同じように丹精込めてオリーブを育て、質の高いオリーブオイルや塩漬け商品を多くの家庭に届けたいという熱い思いがある。
細川さんたちはテイスティングの講習会にも積極的に参加し、上質のオリーブオイル作りに余念がない。「オリーブオイルの価値を広げて、より多くの人たちに味わっていただくのが私たちの夢」と語る。
右 :展示会、イベントにも積極的に参加している細川さん
蒼のダイヤ構成員の平均年齢は64~65歳。「地域企業としてしっかりと成り立ち、若い人を雇える会社にするためには、"蒼のダイヤ"が評価されることが何より大事なこと。都会より田舎がいいという若者が増えているので、私たちがその素地を作らなければいけない。あと10年はがんばります」と元気な声が返ってきた。(ライター 上野卓彦 29年1月5日取材 取材協力:香川県中讃農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」平成29年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
株式会社蒼のダイヤ ホームページ
香川県仲多度郡多度津町見立1856-3
TEL: 0877-89-2797