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てん茶栽培に特化した、歴史ある西尾の茶栽培

2017年9月 6日

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稲垣拓康さん(愛知県西尾市上町)(写真右)


 愛知県西尾市は、生産量・品質ともに全国トップクラスを誇る「てん茶(碾茶)」産地である。面積は決して大きくないが、てん茶に特化している特徴がある。
 西尾市茶業組合(組合員数112人)の組合長である稲垣拓康さんは、てん茶4haを作る専業農家だ。


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 :稲荷山茶園公園からの眺め。被覆用の柱が茶畑全体に見られる
 :稲荷山茶園公園にある記念碑


 てん茶は抹茶の原料となる茶葉で、西尾では棚下被覆が標準だ。あらかじめ棚が組まれており、時期が来ると茶畑全体が黒い被覆資材で覆われる。ほかの産地とは異なった茶畑の風景が広がっている。
 この方法により直射日光を避けることで、葉に旨みを閉じこめ、鮮やかな色となる。乾燥も煎茶等とは異なった方法で行われる。

 一番茶は5月の連休明け、5月10日頃から6月初旬にかけて摘み取りが行われる。組合員のうち2割は加工場も自家で持っているが、稲垣さん自身は「荒茶までで、仕上げは問屋さんまかせ」とのこと。


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圃場では二番茶が成育中だ


 西尾のてん茶は問屋で抹茶に加工されるが、海外に輸出され高い評価を受けていることでも有名だ。複数の問屋が輸出をとりまとめ、生産者に農薬の使い方等を指導している。「輸出は、販路を広げるための一方策。(輸出用は)農薬の使用制限等がよりきびしいこともあり、産地には減農薬(無農薬)のために交信攪乱剤が導入されています。私の茶畑でもフェロモントラップで交信攪乱剤の効果をみています」と稲垣さんは言う。


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 :フェロモントラップを確認する、稲垣拓康さんと西三河農業改良普及課西尾駐在室の大水主任専門員
 :抹茶色のポロシャツの背中に大きくプリントされた「西尾の抹茶」の文字


 ブランド化、他産地との差別化にも熱心だ。「西尾の抹茶」(西尾市と周辺地域で生産)として、2009年に地域団体商標(特許庁)に認定され、茶の中でも抹茶に限定した指定は初めてと話題を呼んだ。また、今年(2017年)3月には、西尾の抹茶(西尾市、安城市)が農水省の地理的表示保護制度(GI)に登録された。被覆期間が定められていて、一番茶では25日間以上、二番茶は12日間以上の被覆が必要だ。GIへの登録は、茶では全国初となる。


 産地を維持していく中で今問題なのは、高齢化等でやめていく農家の圃場を残った農家が引き受け、個々の栽培面積が増えていること。稲垣さんからは、「栽培を始めて30年間で、面積が2倍になった。管理作業、とくに収穫がたいへん。加工能力も限界に近い」と聞いた。どのような産地でも課題はつきものだが、知恵を集めて、歴史ある産地を発展、維持してほしいものだ。(水越園子 平成29年6月26日取材 協力:愛知県西三河農林水産事務所農業改良普及課)

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