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高品質で価値ある商品作りを-専業農家こだわりの挑戦

2017年7月21日

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矢野洋子さん(写真左) (愛媛県八幡浜市 3・Sunカンパニー株式会社)


 皮が薄く、濃厚な甘みとさわやかな酸味が特徴で、品質日本一と呼ばれる真穴のミカン。そのミカンを最もおいしい状態で手間ひまかけてていねいに加工するのが、3・Sunカンパニーのこだわりだ。「品質に自信があるからこそ安売りはしない」。その志を胸に加工販売を始めて早20年。現在はパート4名と矢野さんの5名で年商700万円に達する。はじめは試行錯誤の連続だったが、現在では海外のバイヤーも注目、最先端の流行発信基地である都内高級デパートの店頭に並ぶまでになった。手広い商売ではなく、自分のできる範囲で、妥協せずに品質の良い商品を作り続けていきたい」と代表取締役の矢野洋子さんは語る。


3つの太陽の恵み
201707_yokogao_3sun_1.jpg 愛媛県西端の佐田岬半島の付け根に位置する八幡浜市。リアス式海岸に面した山の斜面には、見渡す限りの段々畑が広がる。そこでは、太陽光、海からの照り返し、段々畑の石垣の反射熱の3つの太陽によって、うまみが凝縮されたカンキツ類が栽培される。3・Sunカンパニーの名前は、燦々(さんさん)と降り注ぐ、この3つの太陽に由来している。
 加工販売のスタートは1998年。きっかけは、オレンジ果汁自由化に伴うミカンの価格暴落だ。当時、JA女性部で活動していた矢野さんは、有志8名とともにグループを作り「付加価値をつけて収入を」と、ミカンの加工販売に取り組んだ。品目は、手絞りのジュース、マーマレード、シロップ漬けなど。当初の作業はJAの調理実習室を使用していたが、2000年には資金を出し合い、矢野さんの所有する土地に加工場を建設。売れる商品づくりを学ぶため、生活研究協議会にも加入する。
右 :太陽の光を遮るものがない地形、降雨量の少なさと水はけのよい段々畑


ターゲットは首都圏のデパート
 さまざまな講習会やセミナーにも積極的に参加した後、「南予地域密着型ビジネス創出支援事業」に採択される。そして、2008年、代表取締役として法人を立ち上げ、県の農産園芸課が設立した「あぐりすとクラブ(現ろくじすとクラブ)」に加入。八幡浜支局地域農業室の指導を受けながら活動を広げていった。
 設立当時から矢野さんは、ターゲットを首都圏のデパートに設定。なぜなら、良いものをそれに見合った価格で販売するにはデパートが最適だと考えたからだ。そして2011年秋、生活研究協議会の活動の一環として、松山・三越の地下食品売り場に、女性起業家たちの商品を販売するinショップを設ける。さらに、同年、女性起業家3名がコラボした商品を提案(いちじくジャム、佃煮、矢野さんのみかんジュースの詰め合わせ)。みごと同デパートの歳暮商品に採用される。
 翌年にはアグリフード東京・大阪にも出展。確実に販路を広げていく。


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 :3・Sunカンパニーの商品ラインナップ
 :ていねいな手作業がミカンのうまみを引き出す


デザインへのこだわり
 デパートなどの取引が増える中、「統一性がありインパクトのあるパッケージにしたい」という思いが大きくなる。そこで、東京のデザイナーを起用し、すべての商品のラベルを一新した。
 かわいらしさの中にも洗練されたセンスを感じさせるデザインは大好評。ふるさと納税のお礼の品にも採用され、受け取った人からは「箱を開けたとたん、うれしくなりました!」というハガキが届くほどだ。
 ラベルはシンプルで多くを語らないため、「セールスポイントが分からない」と意見されることもあるが、デザイン性を重視。「うちの商品は食べる前に、目で見て楽しんでもらえる」と胸を張る。


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 :720mlの「SUNSUN」は、特にいいミカンを1個1個手でむいてしぼる最高品質
 :マーマレードはそのまま食べるのはもちろん、味がしっかりしているのでお菓子に混ぜても引き立つ。業務用として冷凍の出荷が可能


憧れのデパート・商売の厳しさ
 加工を始めた時から目標としていたデパートでの販売。しかし、現実は厳しいと矢野さんは語る。デパートは生産者と直接契約をしないため、中間業者の手数料が発生する。そしてデパートの取り分。さらに、カタログに掲載されれば広告費もかかり、それらが売り上げから差し引かれる。大まかにいえば収入は販売価格の半額程度。本当は7割ぐらいに引き上げたいが、それではなかなか取引に応じてもらえない。
 とはいえ、老舗百貨店との取引は、大きなブランド力があるため、さまざまなリスクを抱えつつも、ご縁を大切にしたい相手なのである。


こだわりの商品・ラインナップ
 現在のラインナップは、みかんジュース、みかんのシロップ漬、マーマレード(みかん、甘夏、レモン)、みかんゼリー、さらに、2月から発売となったハチミツレモン。最近、高級スーパーやスイーツショップで注目の、レモンカードがある。そして、今年3月に新宿・伊勢丹で初顔見せとなったのが、ブラッドオレンジのジュース「タロッコ」だ。ワイン感覚でおしゃれに飲めるこのジュースは、百戦錬磨のバイヤーを「うまい」とうならせた逸品である。


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 :老舗デパートのバイヤーをうならせた、ブラッドオレンジのジュース「タロッコ」
 :お嬢さんとともにミカンの収穫をする矢野さん


 これらの素材はすべて、矢野さんのご主人が手塩にかけて育てたもの。
 「あなたが良いものを作ってくれないと、私の会社はなりたたないんだからね、ってお尻を叩いてるんです」と、矢野さんはほがらかに笑う。


事業拡大より、矢野さんが目指すもの
201707_yokogao_3sun_6.jpg 3月に幕張メッセで開催された、フーデックスジャパンは4日間でのべ6万7000人もの来場者があり、海外からのバイヤーも数多く参加。その中でも、3・Sunカンパニーの商品は、中国や台湾のバイヤーから、「ぜひ取り扱いたい!」という熱烈なラブコールを受けた。商品の良さを評価してもらえたことは光栄だとしたうえで、「生産できる量には限りがある。自分のところでとれたものを自分で加工販売することにこだわりがあるので、他で仕入れてまで事業を拡大しようとは思わない」と矢野さんは語る。それは決して消極的な姿勢ではなく、「自分の目で、自分の手で厳しいチェックをした高品質のものだけを販売したい」という矢野さんのプライドの表れなのだ。
右 :アジア最大級の食品・飲料専門展示会、フーデックスジャパンにて


 そんな矢野さんに今後の展望を伺うと、「これからも、納得のいく良いものを作り続けたい。それと、地域の人が気軽に集まれるサロンが作れたら、と思います。もう少し時間がとれるようになったらですけど」と、温かな笑顔を見せてくれた。(ライター 松島恵利子 28年3月17日取材 協力:愛媛県八幡浜支局地域農業指導室)
●月刊「技術と普及」平成28年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


3・Sunカンパニー(株) ホームページ
愛媛県八幡浜市真網代丙587-1
TEL 0894-28-0355

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