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あくまで「米」にこだわって。本場イタリアの生パスタを米粉で作って食卓に届けたい!

2016年12月12日

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小川陽平さん、クラウディアさん (兵庫県姫路市 農業生産法人小川農園株式会社)


 姫路市の郊外、のどかな里山の風景が広がる地に瀟洒な木造建築が建っている。本場イタリアの味にこだわり、米粉で作った生パスタがおいしいと評判のレストラン「パスタソリーゾ」だ。ソリーゾとはイタリア語で笑顔。そしてリゾは米。大きなガラス戸を開けて中に入ると、あふれんばかりの笑顔が迎えてくれた。小川農園株式会社専務取締役の小川陽平さんと、クラウディアさん夫妻だ。

 小川農園は、平成26年3月に6次産業化の総合化事業計画が採択され、その後半年あまりで工房とレストランが完成。平成27年5月にオープンしたばかりだ。


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 :「パスタソリーゾ」の外観。姫路産の富栖杉(とみすすぎ)を使った美しい建物は、イタリア風の雰囲気にあふれている
 :店内からは、小川さんたちが地域の人たちと手植えした芝生が見渡せる


イタリアで農業の魅力を感じて
 京都の大学で環境デザインの地域コースを専攻した小川さんは、当時から故郷の姫路で地域活性化に役立つ何かをしたいという思いがあった。たとえば、「かやぶきの家があるので、かまど炊きのご飯やおにぎりを出す店でもやろうか」と考えていたという。大学院生の時、和太鼓集団の一員としてイタリアに招かれ、そこで妻となるクラウディアさんに出会う。この出会いが小川さんの運命を大きく変えた。付き合いが始まり、二人で貿易の仕事などをして、平成20年に結婚。


201611_yokogao_ogawanoen11.jpg イタリア暮らしのある日、クラウディアさんが「米粉を使った生パスタがある」と教えてくれた。面白いと思った小川さんだったが、イタリアの農業を知るにつれ、食の魅力、生産者のすばらしさを知る。「日本ではなく、イタリアで農業のおもしろさを実感しました。僕は米が大好きだし、彼女が教えてくれた米粉パスタのこともあって、かやぶきの家でおにぎりを提供するより、米粉のパスタを作る方がいいかもしれないと。でも、まだその時は考えるだけでした」。

 そんな折、実家の会社が、高齢化する地域農業を後継するため水稲栽培に取り組むことに。話を聞いて二人は帰国し、農業生産法人小川農園株式会社で働きだす。まわりの環境が、小川さんを米作りへと引っ張っていった。
右 :愛の女神ビーナスが好んだというトルテリーニの生パスタ


6次産業化塾を受講し夢が膨らむ
 帰国して就農した小川さんは米作りと並行して、地域おこしに取り組んだ。姫路駅前で毎月開催される「御結び市」に参加し、若い農業の担い手と連携して盛り上げた。
 だが、自分の夢はまだ実現していないと感じていた小川さんは、姫路農業改良普及センターが主催する6次産業化塾を受講する。「米を作っていれば悠々と暮らせるという軽い気持ちがあり、塾には好奇心で入りました。米を原料に和菓子屋でもやろうとか。でも、受講して1から10まで6次産業化を学び、それが、何かやりたい! という気持ちを後押ししてくれました」。だが、この時点でも米粉のパスタ構想はなかったという。

 秋祭りの際、クラウディアさんの父、エンゾ・チェッキーニさんが来日、米で作ったコロッケを試しに出品したところ評判を呼ぶ。そこで、米粉を使ってパスタを作ることを発想する。また、クラウディアさんに、日本で食べた生パスタのことを、「これ、うどん?」と言われたことも背景にあった。小川さんは自分が作る米を粉にして、本格的な生パスタを作れないかと真剣に考え始めた。


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 :シーフードを使ったタリアテッレはボリュームたっぷり
 :リコッタチーズと季節の野菜を包んだ人気のラビオリ


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 :地産の野菜がうれしい価格で販売されている
 :晴れた日には、野外テーブル席で食事を楽しむ人も多い


1年あまりですべてを立ち上げる
 平成26年の年明けに次男が誕生。農閑期でもあり子育てに専念しようという矢先、補正予算が組まれ、プランナーと普及センターから6次産業化を勧められる。申請期日は3月末で時間がなかったが、小川さんはチャレンジした。

 申請書は小川さんが自力で作成した。「もちろんプランナーの先生、普及指導員の方の力添えがあってのことですが、分からないところがあるのはイヤだった」と忙しい仕事の合間をぬって書類を書いた。結果、フィレンツェ×姫路のコラボレーションをテーマに、米粉を使った新たな事業計画書は見事採択された。


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 :食事を楽しみながら、なつかしい里山の風景を眺めることができる
 :農繁期には店を休業にして社員全員で農作業


 「それからが大変。1年以内に立ち上げないといけない。苦労したのは土地の取得と融資でした」と小川さんは振り返る。10月にパスタ製造工房とレストランの建築が始まる。「大学時代の友人の建築士に依頼しました。建物も大事ですが、何より本場の味を再現するための米粉パスタをどうするか・・・」小川さんの胸のうちには、本場イタリアで通用する米粉パスタを作る! という思いが燃えていた。決して手抜きはしたくない。フィレンツェのパスタ機械メーカーに米粉パスタ製造を発注するが、技術者はあきれ顔で「米粉とセモリナ粉を混ぜたパスタなど聞いたこともない」と言う。そこで活躍したのがエンゾさんだった。エンゾさんは機械メーカーに弟子入りし、娘夫婦のために米粉パスタ作りに尽力する。その結果、機械技術者も驚くほどのパスタが完成した。


工房とレストランがオープン!
 四季があるとはいえ、イタリアと日本の気候は微妙に違う。パスタ製造の機械は1mm単位で調整が必要だし、湿気の問題などがある。小川さんはイタリアとテレビ電話でやり取りしながら建物の構造を技術者に伝えた。平成27年3月、イタリアから技術者が来日してパスタ製造機械を設置、米粉パスタの試作が始まる。「イタリア人技術者が、米粉だと粉臭さが消えて、米の甘味があり、食感がいいと言ってくれたのがうれしかった」と小川さん。そして5月2日、「パスタソリーゾ」がオープンする。6次産業化の採択から1年余り、走り続ける日々だったが、満足のいく米粉パスタができ上がった。「まさかこんな店ができるとは、1年前には思ってもいませんでした」。


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 :イタリア中のメーカーから選びぬいた機械を自社用に調整して製造している
 :イタリアのパスタ専門家と開発した米粉とディラム小麦調合の生パスタ


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 :使用方法やソースによって生パスタを使い分けるのがイタリア式
 :ホウレンソウとリコッタチーズを詰め込んだラビオリは人気商品


 8月には東京の百貨店のマルシェで米粉生パスタを販売した。日本ではショートパスタはまだ一般的ではないが、ラビオリやトルテリーニ、タリアテッレなどのイタリア伝統のパスタに人気が集中した。「リピーターも多くて、評判は上々」とクラウディアさん。イタリアンレストランへの生パスタの卸売りも増加した。

 これからも丹精込めて米作りをしながら、日本全国に米粉の生パスタを販売していくことが大きな課題だという小川さん。同時に、米を通して若者が農業に参入できる環境づくりが夢だと語る。姫路発の6次産業化の大いなる展開に期待したい。(上野卓彦 平成27年9月11日取材 協力:兵庫県姫路農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」平成27年11月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


農家イタリアレストラン パスタソリーゾ ホームページ
生パスタ工房(製造・販売)
農家イタリアン(レストラン・喫茶)
営業時間:11時~16時 
定休日 :火曜日・農繁期
住所  :兵庫県姫路市山田町南山田105-3


農業生産法人 小川農園株式会社
兵庫県姫路市山田町南山田105-3
℡ 079‐263‐3755

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