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2016年4月22日
羽山勤さん (和歌山県古座川町 農事組合法人古座川ゆず平井の里)
紀伊半島の東南部、清流古座川上流の山間地に位置する古座川町平井地区は、総戸数77戸、人口134人の集落。和歌山市まで180km、大阪や名古屋まで4時間程度かかる辺境地だ。森林が9割以上を占め、住民の大半が林業を生業としてきたが、昭和40年頃に木材輸入の自由化で林業が衰退し、新たな事業を模索し始める。その時、紀伊名物の「サンマ寿司」に欠かせないユズを自家用に栽培していたことから、ユズの量産化に取り組むことになった。「ユズ産地の四国に何度も出かけて、栽培の仕方や搾り方などノウハウを勉強してきた人がいて、生産組合を作り、個人販売で始めたのですが、よく売れて生産が追いつかなくなったんです」と語るのは、農事組合法人「古座川ゆず平井の里」代表理事の羽山勤さん。
「もったいない」から広がったユズの物語
昭和40年代以降、平井地区では多くの農家がユズ栽培を始め、昭和51年には「古座川柚子生産組合」を結成、集落内に搾汁加工場を建設した。たちまち"古座川のユズ"は評判となり、経営は順調だった。
左上 :加工場(中央右)と店(中央左)の遠景 / 中 :ユズの花。開花シーズンは5月頃 / 右下 :ユズ
しかし、ユズ栽培が全国規模で広がり、昭和62年には大豊作となって青果価格が半値以下に暴落。栽培農家は大きな打撃を受けた。こうした状況に集落の女性たちは、自分たちでユズを使った商品開発ができないかと考えた。きっかけとなったのが、加工場付近の田畑に積まれた"ユズの搾りかす"だ。「もったいないね。何とか再利用できないか」と話すうち、農協に出荷したユズの果汁とユズ皮を購入して2次加工する体制を組むことになった。
その中心になったのが、昭和60年に東牟婁農業改良普及所(現東牟婁振興局地域振興部農業振興課)の協力を得て女性20人で結成された「古座川ゆず平井婦人部」で、商品開発、販路開拓、財務・労働管理などの勉強会を開いた。「設立時には、女性普及員が各地のユズ商品を買い集めて売れ筋を検討。ジャムやマーマレードなど、今も人気の商品がこの時に作られました」と羽山代表。「もったいない」から始まったユズの物語のスタートだ。
62人の出資者による法人化
平成10年前後から不作による販売不振が拡大し、問題解決のため生産者、町、普及センター(現農業振興課)、農協などによって「ゆず対策協議会」が結成され、加工品の販売促進支援強化策が打ち出された。また、集落の過疎化に歯止めをかける「柚子産業振興と過疎を考える会」を立ち上げた。平成14年には、これまで農協に委託していた搾汁・販売事業を「古座川柚子生産組合」で行い、経費削減、雇用機会の創出に対応。ユズを核とした組織を作ることとし、どのような形態がよいのか検討した。
左上 :加工作業にたずさわる女性たち / 右下 :ラベル貼り付け作業
株式会社では多く出資した人の発言権が強くなることが懸念される。1人1議決制で出資者の人数に制限がないことから、農事組合法人に決めた。「行政職員、特に普及員さんには大変お世話になりました。集落在住の62人が1口3万円を出資して978万円を集め、現在の組織が作られました」と羽山代表は振り返る。
従来の生産組合、婦人会、協議会、過疎を考える会などを統合し、平成16年4月、農事組合法人「古座川ゆず平井の里」が設立された。翌年には国の助成金を受けて事務棟と加工場が建設され、平成23年には、廃校跡を利用した「体験交流施設・ゆずの学校」を開設。ユズ加工品の直売、訪問者と地元の人々との交流、マーマレードやコンニャク作りの体験教室、郷土料理などが楽しめるレストランとして営業している。
現在組合員数は95名。作業者は21名、そのうち17人が女性で、組織運営、生産、加工、広報宣伝などがきめ細やかに行われている。
左上 :「古座川ゆず平井の里」のみなさん / 右下 :「ゆずの学校」外観
左上 :「ゆずの学校」の内部。板書されているのは農事組合法人「古座川ゆず平井の里」の組織図
右下 :レストランで出される定食
ユズと並ぶ、もう1本の柱を
現在の加工品は、ジャム、飲料、ゆず味噌、ぽん酢、ゆず茶など15種類以上の商品ラインナップで、約8000人の顧客へ直販するルートと、一般小売店、量販店、生協などへの卸売りルートで販売されている。中でも全体売上げの15%を占める(株)モスフードサービスへの「柚子ドリンク」販売事業は、法人化以前の平成13年度から南大阪エリア49店舗で実施され、現在は近畿地区約140店舗、関東エリア5店舗で販売し、安定した収入を得ている。
平成25年度の売上げは1億4500万円で、発足の平成16年から右肩上がりで伸びているが、ユズの生産量は毎年減少傾向にあるという。「柑橘特有の隔年結果なのか、肥料不足、あるいは老木化なのか、平成21年に200tあった収量が、昨年度は70tにまで落ちてしまった。現在、農業振興課で土壌などを調べてもらっています」と羽山代表。総括責任者の倉岡有美営業部長は、今度の展望についてこう語る。「もちろんユズが主力ですが、もう1つの柱を作りたいです。この地域では古くから日本ミツバチの養蜂が盛んで、おいしい蜂蜜をユズと組み合わせる、あるいはこの地区に適しているショウガ、サトイモを生産し、よい加工品を作っていきたいです」。現在も、東牟婁振興局農業振興課の協力を得て、新しい作物生産を模索中だ。
左上 :「古座川ゆず平井の里」の商品ラインナップ
右下 :ユズの収穫作業
北海道大学とのコラボレーション
平井地区には、90年の歴史を持つ北海道大学和歌山研究林の施設があり、学生たちが実習を行っている。学生からの企画提案で商品づくりを始めていて、本年7月にユズ飲料「柚香ちゃん」が北大の生協で販売される予定だ。「毎月1回、生協の理事や教授も参加して北海道とテレビ会議をするんですよ。若い学生たち、特に女子学生たちはパワーがあります」と倉岡さんは笑う。「常に新しいことに目を向け、可能性の扉をたたきながら、チャレンジしていきたい。農家所得が上がり、暮らしやすくて、幸せを感じる里にするにはどうすればよいか。それを考え、実現させるのが、平井の里の役割だと思います」と羽山代表。
「ゆずの学校」に隣接する廃校の教室を宿泊施設に改装し、訪れる人にユズの収穫や剪定など農林業体験をしてもらい、農業を通じて自然環境を守る活動につなげていければ。「古座川ゆず平井の里」の将来ビジョンは拡がり続けていく。
(上野卓彦 平成27年1月27日取材 協力:和歌山県東牟婁振興局地域振興部 農業振興課)
●月刊「技術と普及」平成27年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
農事組合法人 古座川ゆず平井の里 ホームページ
和歌山県東牟婁郡古座川町平井469
TEL:0735-77-0123