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2016年3月25日
鈴木雄一さんと研究会のみなさん (山形県白鷹町 (株)白鷹農産加工研究会)
地方の一農村で生きる農業青年たちが、首都圏の消費者をターゲットに有機農法で作った野菜や米の加工品を販売した。これが「白鷹(しらたか)農産加工研究会」の始まりである。6次産業化という言葉が生まれていない昭和50年代から「加工」に特化し、地方農家が生き残る道を模索してきた。安心・安全な製品は、原材料にこだわる首都圏の消費者から支持を受け、安定した経営を実現。近年は、県内からも注目を集めるようになり、地産地消の一翼を担っている。
●地方農家の生き残りをかける
冬になると、あたり一面雪に覆われる山形県西置賜郡白鷹町。県中部に位置し、町の中央には南北に最上川が流れ、東西は朝日連峰に囲まれた風光明媚な町である。
研究会は昭和56年、地元の農業青年有志が集まり、地方農家の将来について話し合いをくり返す中で生まれた。「家族単位での経営には限界があった。将来、地方で農業を続けていくためには、支えあうことのできる『組織』が必要だと感じた」と話すのは、発起人の一人であり現在、代表取締役を務める鈴木雄一さん。
地方農家の生き残る道を探る中、たどりついた結論が「首都圏をターゲットにして、有機栽培で作った野菜や米で加工品を作り販売する」というものだった。研究会が生まれた当時、食にこだわりを持つ消費者によって「有機栽培」という言葉が首都圏で注目を集めていたことが大きなヒントとなった。
右 :風光明媚な白鷹町
●首都圏消費者のニーズとマッチ
研究会としてめざす方向性は固まったが、慣れない有機栽培にメンバーは苦戦した。理想はあっても技術が追いつかない。安定した生産までに2年を費やした。
また、メンバーには加工する工場がなかった。母校の調理場などを借りて、ダイコンやキュウリの漬物の製造から始めた。すると、思惑通り、首都圏の生協や消費者から次々と注文が舞い込んだ。
餅、みそ、ジャム、甘酒...。消費者からの支持を受けながら、次々と新商品を開発。「地方の農村を変えてみなさい」と消費者や個人農家からの支援もあり、研究会の設立から5年後には、加工場も完成した。「世の中にある食品だったらすべて作ることができる、という気概で新商品を開発してきた」と鈴木さん。時には、失敗することもあったが、「失敗からの方が学ぶことが多い」と、積極的に新商品を生み出した。「支えてくれる消費者」の存在がすべてを後押しした。
左から上から 人気の漬物、米、タカキビを使った甘酒、首都圏消費者の支持を集める玄米餅
●紆余曲折の中で株式会社化果たす
首都圏の消費者からの支持を受けながら、平成18年に株式会社化。会社化するにあたっては、個人の農業経営に重きを置きたいというメンバーから、反対の声も上がった。話し合いは平行線をたどり、会社経営を強化したいというメンバーだけが残る形で、新たなスタートを切った。現在は、役員4人、正社員4人ほか臨時雇用など15人で操業している。生産面積は、米50a、大豆や麦、野菜などで3ha。そのほかに個人農家7軒と契約を結び、原材料を確保している。
取引先が首都圏や関西圏に広がる一方、県内でも徐々に研究会の存在が知られるように。そのかけ橋のひとつとなったのが、普及指導員の存在だ。「有機栽培して、加工品を首都圏に販売して...と町内でも変わり者だった私たちに声をかけてくれたのは、普及指導員の方でした」と当時を振り返る。栽培技術面や経営面、県内の情報など「相談役」として研究会の発展に大きく関わったという。
●だんごカフェを開店
県内での認知度が高まる中、2013年4月には、山形市内に直営店「だんごcafe しらたか団子」をオープンした。「しらたか」の名が県内外に広まるきっかけとなった。
店先には、香ばしいしょうゆの香りが広がる。きりたんぽのような棒状が特徴の焼き団子、「しらたか団子」が焼ける香りだ。みたらし、ぬた(ずんだ)など、1本100円で販売している。多いときには、1日500本を売り上げ、福島・新庄間を結ぶ新幹線初のリゾート列車「とれいゆ つばさ」の車内では限定販売するほどの人気商品である。
左上 :「しらたか団子」はきりたんぽのような棒状である
右下 :「だんごcafe しらたか団子」の店内にはカフェスペースも
また、店内には、毎朝採れたての新鮮野菜が白鷹町から届けられ、販売されている。餅や漬物、ジャムなど、研究会の主力商品も並ぶ。店の奥にはカフェスペースもあり、玄米や煮魚など、こだわったランチも提供されている。キッズスペースも設けてあり、子連れママからも人気を集めている。白鷹町内から通い、店を切り盛りする専務取締役の奥山順子さんは「地域の人に気軽に集まってほしい」と語る。
●「時代を先読みする力」で将来をみつめる
漬物200種類以上、スイーツ50種類以上など、これまでたくさんの商品を生み出してきた。その中で「研究会の未来を担うであろう商品を絞ることが現在の課題」と鈴木さんは指摘する。輸送や製造のコストの高騰が頭を悩ませている。そうしたコストを加味したうえで今後は、「1000万円以上売り上げることのできる商品」にねらいを定める。
そのひとつとして注目しているのが、アレルギー対応のスイーツだ。玄米を主原料に、ムギ・牛乳・タマゴを含まないパウンドケーキ、自家生産の大豆と水稲玄米をベースにした「SOY BAR」など、通常の製品ではアレルギーによって食すことのできないスイーツを販売している。
そして、経営を継続していくうえで「時代を先読みする力が大切」と鈴木さんは分析する。時代を読み取り、消費者のニーズを把握し、販売戦略を組み立てる。それこそが、研究会の経営基盤の強化へのキーワードとなっている。
(杉本実季 平成26年11月27日取材 協力 :山形県農林水産部農業技術環境課、山形県置賜総合支庁西置賜農業技術普及課)
●月刊「技術と普及」平成27年3月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
だんごcafe しらたか団子
住 所/山形県山形市緑町4丁目3-5
TEL/023-664-1855
営業時間/10時~18時
定休日/日曜日
(株)白鷹農産加工研究会 ホームページ
山形県西置賜郡白鷹町横田尻3560−2
TEL 0238-85-1210