MENU
2015年11月24日
「そばの里まぎの」がある栃木県茂木町の牧野地区は、里山ののどかな景観が残る畑作地帯だ。しかし、一時期は耕作放棄地が増え、地域が衰退したこともあった。そこで、そば畑のオーナー制度を導入。住民が一丸となって都市農村交流事業に取り組み、そば栽培が軌道に乗ると、農村レストランを開業した。
「こんな田舎なので、最初はもっても1年だろうという声もありましたが、おかげさまで、毎日お客様が絶えないんですよ」と、店長の石川修子さんはほほえむ。
さらに当店では、そば粉を使用したかりんとうやシフォンケーキなど、次々に新しいスイーツを生み出し、6次産業化の先端を走り続けている。レストラン開業までの道のりや、新商品の開発、そして今後の展望について、レストラン店長の石川修子さんに話を聞いた。
右 :「そばの里まぎの」外観
自然豊かな農村に手打ちのそば処を開店
農村レストラン「そばの里まぎの」は、関東の四万十川といわれる清流・那珂川と、栃木県境の八溝山系に囲まれた茂木町牧野にある。集落は60戸ほど。そばや野菜が栽培された畑が広がり、自然豊かな地帯だ。
牧野のそばは、那珂川の朝霧で風味がひきたつと定評があり、店では、自前でそばを製粉し、打ちたて、茹でたての状態で提供。そのおいしさを求めて、地元住民はもとより、遠方から訪れるリピーターも多く、平日でも50人以上、土曜・日曜日になると200人もの来客がある。また、そば茶やそばかりんとうなどの加工品も、店内や道の駅などで販売。まさに、村おこし事業が成功した事例と言えるだろう。だが、ここに至るまでには、さまざまな経緯があった。
「そばの里まぎの」 入口(左上)と、平日でも訪れる人が絶えない店内(右下)
耕作放棄地を解消したそば畑のオーナー制度
かつて牧野地区は、県内有数の葉タバコの産地だった。しかし、葉タバコが衰退するとともに耕作者が減少し、農地の荒廃が進んだ。「耕作放棄地にセイタカアワダチソウなどの雑草が生い茂り、手入れの行き届いた畑はわずかでした」と、レストラン店長の石川修子さんは、当時の様子を振り返る。「このままでは人の住めない集落になる」と、危機感を募らせた住民たちが、役場と連携し、耕作放棄地の有効活用について話し合いを重ねた。そこで着目したのが、以前から葉タバコの後作として栽培していた「そば」だった。
平成10年に「牧野むらづくり協議会」を組織し、そばの作付けと合わせて、そば畑のオーナー制度をスタートした。オーナーの会費は1万円で、種まき、刈取り、収穫祭、そば打ち体験と年4回のイベントを開催する。集まったオーナーは、当初の予想を上回り、150組を超えた。多くの都市住民が農業体験をするために牧野を訪れ、地域住民との交流も生まれた。また、耕地整理を進めることで、そばの栽培面積も拡大。現在は18haの規模で営農している。
左上 :鎌倉山とそば畑のコントラストが美しい牧野の風景
右下 :実際に作る楽しさが味わえるそば打ち体験(予約制)
確かな味とおもてなしを大切にした店づくり
そうした中、「地元産のおいしいそばを、多くの人に味わってもらいたい」「地域をより元気にしたい」という気運が、住民の間で高まってきた。そして、18戸の農家が出資し、2年の準備期間を経て、平成15年4月に、農村レストラン「そばの里まぎの」を開業。そば栽培から手打ちそばの提供まで一貫して行えるよう、農事組合法人も新設した。
ご主人が出資者の1人である石川さんは、出店計画が持ち上がった当初から、メニュー作成などに関わってきた。「これまで飲食店で働いた経験もなく、そばつゆのかえしをつくるところから試行錯誤でした。毎日、毎日、研究を重ねていると、業者の方やお客様からアドバイスをいただき、納得のいく味に仕上げていくことができました。せっかくおいしいそばを提供するのだから、つゆも確かなものにしたいですからね」。
最初は、土曜・日曜日だけの営業だったが、来客数が多く、3カ月後には平日も営業することになった。
「県や町が、店を積極的にPRしてくれたのが、大きかったですね。『まぎののそばはおいしい!』というお客様の声が、何よりも励みになりました」と、石川さんは話す。「私たちも明るく笑顔でお客様を出迎えるよう努めています。また、少しでも早く料理を提供するために、スタッフの連携を徹底しました」。こうして、レストランの評判は広がり、昼間のみの営業にも関わらず、売り上げは3700万円を超えるようになった。
右 :「毎日、挽きたて、打ちたて、茹でたてのそばを提供しています」と、代表理事の穀野一男さん
スタッフの数を増やし、6次産業化を進めていきたい
「そばの里まぎの」では、鮎天ぷらそば、ごぼう天ぷらそばといった季節限定のメニューも人気だ。最近は、はとむぎ入りそばに、栃木しゃもの唐揚げ、サラダ、デザートをつけたレディースセットもメニュー入りした。ちなみに鮎や野菜などの食材は、ほぼすべて地元産。石川さんには、「地域が協力して作ってきた店だから、地産地消にこだわりたい」という思いがある。それは同時に、新鮮で安心な素材が、良質な味を引き出すことにもつながっている。
左上 :平成26年3月にお目見えしたそばソフトクリーム
右下 :那珂川の鮎がいただける「鮎天ぷらそば」は、夏の人気メニュー
左上 :ハトムギ入りのそばに、栃木しゃもの唐揚げなどが付いたレディースセット
右下 :土日限定の、そば粉のシフォンケーキ
さらに石川さんは、そば粉を使ったシフォンケーキやソフトクリーム、そば湯のゼリーなど、オリジナルのスイーツを次々に開発。「お客様に、『店の土産品はないの?』と聞かれ、そばかりんとうを作ったのが始まりです。そば粉を使ったスイーツは、まだまだ開発の可能性がありますね」。現在は、黒豆そば茶と、そば焼酎の商品化にも取り組んでいる。「店を運営するだけでも手一杯なので、本当は新しいメニューや商品を考えるのは苦痛なんですよ」。そう言って笑う石川さんだが、「そのうち、そばの地ビールも作ってみたい」と、夢はふくらむ。
左上 :食べやすい一口サイズのそばかりんとう。茂木産のエゴマも使用
右下 :店のスタッフは17名。8~10人で、ローテーションを組んでいる
最後に、今後の「そばの里まぎの」の展望を聞いた。
「かりんとうなど、そばの加工品をインターネットや都市部で販売していきたいですね。けれども、今はとにかく人手が足りません。シフォンケーキも需要があるのですが、数を作り切れずに断る時もあり、それがもどかしい。製造スタッフが増えれば、6次産業化はもっと進むでしょう。そして、私も歳なので、後継者の育成にも力を入れなくてはなりません。お客様に喜んでいただいている味を守りながら、新しい事業にも取り組み、地域がますます活気付けばいいなと思います」。(北野知美 平成26年8月21日取材 協力:栃木県芳賀農業振興事務所・経営普及部)
●月刊「技術と普及」平成26年11月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
そばの里まぎの
○営業時間 平日11:00~14:00、土日祝11:00~15:00
○定休日 水曜日
農事組合法人 そばの里まぎの
栃木県芳賀郡茂木町大字牧野249
☎0285-62-0333