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2015年7月21日
藤室明生さん (三重県伊賀市才良 農事組合法人あぐりぴあ伊賀 代表理事 )
大阪と名古屋の中間点にある三重県伊賀市は、古くから交通の要所として栄えた地域だ。周囲を山に囲まれた盆地では良質米で知られる伊賀米コシヒカリが作られ、3年連続で食味評価「特A」を獲得している。
平成2年の圃場整備事業完了と同時に、前身である「才良営農組合」が設立され、ブロックローテーションによる集団転作を15年間実施してきたが、品目横断的経営安定対策への移行にともない、集落で討議を重ねた結果、平成21年2月に「農業組合法人あぐりぴあ伊賀」として法人化した。同年7月から土日営業の直売所「ちょっくら市場」で野菜や加工品を販売している。
地域との関係を大切にする
あぐりぴあ伊賀の生産部門は、水稲20ha、小麦大豆6ha、ほかにタマネギやナタネなどで計31haの作付面積。うち約8割を地域から預かっている。農地は隣接し、団地形式のため集積率が高く、効率的な作業がおこなえる。
「この地域には休耕田がありません」と言う代表理事の藤室明生さんは、地域密着型の"住民が元気になるムラづくり"をめざしている。田植えと収穫は地域の人たちに手伝ってもらい、水の管理などは高齢者に依頼している。タマネギの栽培は、夏場の現金収入の確保や女性、高齢者の雇用が目的で、近隣の学校と連携して農業体験の場としても地域に貢献している。
右 :あぐりぴあ伊賀の外観
平成25年度の売上げは米2900万円、加工900万円、直売が1000万円、小麦や野菜の販売を合わせ総額5000万円を計上。26年度は米が3100万円、加工と直売で3100万円、その他を合わせ総額6600万円の売上げを目標にしている。平成30年度には1億3000万円の目標額を掲げているが、達成には加工品の販路拡大がポイントだという。
「現在、生産は私を含めて4人、加工に4人。直売所は土日営業で、交代で回しています。今後は加工・販売の拡大を目標に、直売所は毎日営業し、レストラン開業を計画しています」と、藤室さんの目は輝く。
生産から加工、販売へ展開
あぐりぴあ伊賀の米は、農薬・化学肥料を5割低減する特別栽培米コシヒカリで、3年連続「特A」の評価を受けている「伊賀米コシヒカリ」として販売している。このほか約10haで「みえのゆめ」やもち米、酒米を作り、JAへ出荷している。だが、米の生産だけでは限界がある。「米価が下がってきているので、米を売るだけではなく、加工・販売もするのが、これからの農業のやり方。おそらく1俵が1万円に届かなくなると予想しているので、特別栽培米コシヒカリをブランドとして育て、生き残り策を練っています」 と藤室さんは言う。
左上 :商品ラインナップ。アルコールなどを一切添加せずに酒米・山田錦の麹を使った「いなほ味噌」は根強い人気。餅(左上)は冬場だけでなく、最近はオールシーズン人気を集め、直売所以外に市内の店舗にも出荷されている
右下 :春に開催される伊賀市の「菜の花プロジェクト」に合わせて作られる「菜の花ぶたまん」は、一般的なぶたまんとはひと味ちがう、自然の食感が好評だ
左上 :手間ひまをかけて作られ、イベントなどに30個程度を出品すると即売する人気商品の「カップ寿司」
右下 :地元産ヨモギを生のまま使った季節限定の「草餅」は人気の一品
これまでに米や大豆、タマネギを使った味噌、餅、巻き寿司、いなり寿司などの商品を開発し、直売所「ちょっくら市場」を中心に、道の駅やJA直売所などに卸してきた。
中でもタマネギを使った「シャキシャキいなり」は独特の食感で人気がある。みじん切りにしたタマネギをコシヒカリに混ぜ込んだもので、タマネギ独特のツーンとした感じがない、手間ひまかけて作られた商品だ。加工部門担当の理事である井川文人さんは、「シャキシャキいなり」の知名度アップをめざして、地域のイベントへ積極的に参加している。「広告宣伝費はないし、口コミで広がることが一番の信用になります」。
「商品アイテムは少ないですが、ごまかしのないものを作り口コミで広がれば、大阪や名古屋の人たちにも、伊賀にうまいものあり! と認知される」と井川さんは話す。その展開の主軸となるのが、直売所「ちょっくら市場」の拡大計画だ。
直売所の拡大で、魅力ある拠点を作る
現在、「ちょっくら市場」は土・日曜だけの営業で、平均集客は1日約100名。近在農家から野菜や花が持ち込まれ、基本ワンコイン(100円)で販売している。買い物客からは「新鮮さはもちろんだけど、お手頃価格だし、地元産という安心感もあり、もっと品数を増してほしい」という声が多い。
左上 :直売所「ちょっくら市場」は、住民の生活道路沿いにあり、近在農家が持ち
寄る野菜や花であふれ返っていて、ひっきりなしに車のお客さんが訪れる
右下 :地域で作られる豆腐や茶葉、醤油などの商品が並んでいる
立地は国道422号線沿いにあり、大阪などからの行楽客で賑わう。今後店舗を拡大して平日も営業し、駐車場を備えたレストランを併設し、行楽客も呼び込む計画だ。だが、井川さんには少々不安もある。「直売所は野菜が中心。それに対して、百貨店やスーパーは今日の買い物をすべてその場で完結できる。直売所は新鮮さや顔の見える野菜が売りだが、野菜は肉や魚のようにメイン主菜にはならない。それでもなぜ直売所にお客さんが来るのか。お客さんにとってスーパーとの違いは、価格だろうか、安心だろうか。そこを考えて加工品を売っていかなければ」。
そのためにも、あの店で惣菜を買いたい、あのレストランで食べたいと思われる店づくりが大事だと井川さんは考えている。「たとえば兵庫県で大人気の巻き寿司があって、神戸や大阪からわざわざ車で買いに来る。すごいなぁと思います。口コミからはじまった人気商品は本当に強い。ぼくたちもこうした加工品を作っていかないといけない」
大阪で小売業の仕事をしていた井川さんは、ものづくりと販売の違いを痛感しているという。仕入れと売上げの差を計算する小売業に対し、ものづくりは原価を計算し、売価をつけてどこでどのように売るか、1から10まで想定しなければならない。販路・商圏の拡大までを見通した経営戦略が必要だ。「レストランにしてもマーケティングが必要だし、他の施設などがやっているバイキング形式がいいのか、高級感のある店作りがいいのか......難しいですが、やりがいがありますよ」と井川さんは夢をつむぐ。
左 :伊賀肉をたっぷり使ったコロッケ。この日は週末ということで大量に作られていた
三重県伊賀地域農業改良普及センターは、同組織が法人化する頃から水田の効率的な活用に向けた栽培技術の支援を行い、伊賀管内初めてとなる営農組合の法人化、6次産業化事業導入への計画作成にも支援活動を行ってきた。そして商品開発の際には全国各地の情報を提供し、伊賀独自のユニークな商品が開発された。今後も、水田農業担当、経営管理担当と連携し、6次産業化も含めた法人の支援に取り組んで行くと、普及センターの冨澤代志子主幹は語る。
私たちが夢を追いかけないと、若者もついてこない
これからは若い後継者が必要だと痛感している。
「組合員の平均年齢がそれなりに高いので、若い人に入ってほしい。けれども20代の若者の場合、夢だけではダメ。福利厚生も整い収入も安定していないと続かない。生きがいを感じられる、魅力あるものを用意しておかないと」そのための基盤造りに、井川さんたちは取り組んでいる。
右 :組合員がローテーションを組んで店に出る
「常に夢を追いかけています。6次産業化も、規模拡大もそうです。若者が夢を追いかけていけるようにしないとね。小さな組織だからこそ、そこを大切にしていく。それが地域に対する貢献だと思うし、6次産業化の魅力だと思っています」。(上野卓彦 平成26年4月26日取材 協力:三重県伊賀地域農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」平成26年7月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載