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2015年2月18日
齊藤千晴さん(右)と従業員のみなさん (群馬県中之条町 有限会社たけやま)
「田舎の味を手渡しで」をキャッチフレーズに、群馬県中之条町で営業する『農家のお店たけやま』。農作物の生産、加工販売を行っている有限会社たけやまの店舗だ。組織の前身である「五反田上組大豆加工施設組合」の発足から27年、消費者ニーズに対応しながら、自家生産の農産物、加工品の生産販売による地産地消の試みを続けている。
『たけやま』の店舗は、交通量の多い国道353号線沿いにある。直売店舗の開業は平成3年で、以来、年始を除いて年中無休で営業を続けている。平成13年には生産部門と加工販売部門を軸に、有限会社化した。年間売上は約6000万円、従業員は社長以下11名(農場3名、店舗4名、その他3名。うちパート5名を含む)。
右 :『農家のお店たけやま』外観
自社と地元に限定した品揃え
店内には、米、ソバ粉、小麦粉、豆類、季節の野菜、果物が多種並ぶ。冷蔵ケースに置かれているのは、自社の加工所でつくった味噌、豆腐、納豆の大豆加工品だ。看板商品の田舎まんじゅうは、レジ横のスチームケースで蒸し上げられている。地元業者のジュース、コンニャクなどもあって、地元と県内産限定だが、品揃えは多様である。現在100名を数える登録組合員がおり、約30名が農産物を常時出荷している。
左上 :弁当は毎日作って店頭に並べられる / 右下 :看板商品のまんじゅうコーナー
併設する工房で、店頭で販売する弁当、田舎まんじゅう、豆腐を手作りしている。原材料の米、小麦、大豆と野菜はもちろん、食材の大半は、自家生産したものと地元生産者の農産物である。市場で調達するのは、海産物など、ごく一部だという。
「開店した当初は品目が限られていて、地元の生産農家に呼びかけ、出荷品目をふやしてきた」と代表取締役の齊藤千晴さん(60)は話す。地域農家には、『たけやま』が農産物の安定した販売先となっている。
商品構成には中長期で変化もある。簡素な包装のかきもちは最近商品化された。齊藤さんは、「10年ほどで顧客の世代が変わり、甘味でいえば餡からクリームに売れ筋が変わっている。『たけやま』の商品もまんじゅう中心から、米を売るため、弁当、赤飯、おにぎり等のご飯ものへと幅を広げてきた」と話す。
物産展への出店で手応えつかむ
『たけやま』の前身は、昭和61年に発足した「五反田上組大豆加工施設組合」である。種子用の大豆の生産者7戸が集まり、規格外の大豆の有効利用を目的に大豆加工施設を建設した。「仲間で集まって地域で新しいことをしてみたいという機運もあった」と齊藤さんは振り返る。
右 :田舎まんじゅうは試食もできる
冬季の農閑期の味噌づくりは、自給用から地域の家庭向け委託製造へと広がった。平成元年に一般業者が出品する物産展へ初出店した。味噌は素材を生かした手作りの味だと好評で、一緒に出品した田舎まんじゅうは行列ができる人気になった。「どこにいけば買えるのか」「また欲しい」という問い合わせもあり、組合は加工販売への手応えとともに、新しい展開を考えるようになった。
農家手作りの付加価値を前面に、常設店舗を開設
平成3年には5戸の農家で新たに「五反田上組大豆加工組合」をつくり、常設店舗の『農家のお店たけやま』を設けて直売を本格的に開始した。「開店当時は、近隣の農家の加工品といえば漬物くらい。道の駅や直売所もなく、JAでの直売や地域のイベントで一時的に販売するという状況だった。農家が運営する常設店舗がまだほとんどなかったときで、条件が揃った場所でのスタートは好運だった」。
左上 :栽培方法はパネルで紹介 / 右下 :常連客とレジで会話が弾む
無添加や鮮度を求める時代の潮流に、生産者による直売はかなっていた。「手作りの価値が見直され、昔ながらのものが注目される時期を迎えていた。収益面は手探りだったけれど、メンバーも若くて、まずやってみようという勢いがあった。イベントなどで宣伝もしたが、直売所のハシリで、集客には物珍しさも手伝ったのでは」と齊藤さんは振り返る。
ちなみに、主要道路に面していることから、当初は店内で食事を提供する計画もあった。しかし条例が定める面積に条件が合わなかったため、手を広げず販売に限定した。来店客と収益効率からみると、それが結果的に経営リスクを避けることにつながったという。
群馬県吾妻農業事務所普及指導課では、昭和60年代から同地区を普及計画の重点指導地区と位置づけ、中之条町、JAあがつま等の関係機関と連携して継続的な支援を行ってきた。その時々の課題に応じて、初期には生産技術、経営、加工技術の向上、安定化にむけた研修会や視察を実施。さらに法人化への支援や特別栽培農産物認証取得の支援、補助事業の情報提供等をしてきた。
丁寧な生産で農産物の品質を維持
農産物の品質は、『たけやま』の加工品の評価、直売所の売り上げに直結する重要な要素だ。「素材の大豆の出来が、加工品の味噌や納豆、とくに豆腐の味を大きく左右する」と齊藤さんはいう。
右 :素材の持ち味を生かした味噌各種が並ぶ
農産物の栽培管理を担う生産部門では、水田営農活性化特別対策事業で機械装備を充実し、作業の効率化をはかった。平成25年度現在の耕地面積は、社有地1.1ha、借地10ha。主な作物と作付面積は、水稲3.7ha、ソバ3.7ha、大豆3.5ha、麦3.5ha、サツマイモとその他で合計15.3haの規模だ。ソバでは地域の中核となり、品種を統一して良質なものを生産。町営そば打ち体験施設へソバ全量を供給するほか、近隣の収穫、乾燥調製作業を一手に受託している。ソバは中之条町の新たな特産品となっている。
水稲、大豆、ソバ、小麦は農薬、化学肥料を通常の半分以下で栽培する群馬県の認証をうけ特別栽培を実施している。また、寒冷地である当地の気象条件をふまえた小麦、大豆、ソバの2年3作体系をとって、連作障害を抑制している(表)。
表 2年3作の輪作体系
こうした取り組みが評価され、平成20年に第14回環境保全型農業推進コンクールで農林水産大臣賞を受賞した。平成15年からは学校給食との連携が図られ、特別栽培米、特別栽培大豆100%の味噌、豆腐を提供し、もうひとつの地産地消の体制が構築されている。
後継者への引き継ぎ、若者の雇用など、農業と加工技術の次世代への継承は順調だ。今後の課題として、生産の安定を挙げる。また高齢化で増加する耕作放棄地も、近々の差し迫った問題だ。これからも地域農業の担い手として新たな課題に向き合っていく。
(君成田智子 平成25年9月30日取材 協力:群馬県吾妻県民局吾妻農業事務所普及指導課)
●月刊「技術と普及」平成25年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
農家のお店 たけやま ホームページ
群馬県吾妻郡中之条町青山337-1
0279-75-6988