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山のお茶の良さを活かし、土地柄を活かして生産から販売、食堂経営や体験ツアーまで

2014年7月22日

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中満房夫さん(熊本県山鹿市 有限会社岳間製茶) 


 「1芯4葉の茶葉で約30本の新芽が必要です。私たちは、お茶から新芽の生命力をいただいているんです。だからこそ健康になれて、元気が出ると伝えたい」

 茶摘み間近の茶畑に立ってそう語るのは、有限会社岳間製茶 代表取締役社長の中満房夫さん。山のお茶の良さにこだわり、岳間の風土を活かす、その経営理念やこれまでの歩みを聞いた。


古くは肥後五十四万石、細川忠利公献上茶の産地
 熊本県北部、福岡県八女市との県境の山里、山鹿市鹿北町岳間地区は、380年の歴史を持つ良質なお茶の産地として知られる。

201407yokogao_kumamoto_7723.jpg 「大正12年に、雑木林だったこの土地に初代が30a茶種を植えたんです。平成16年に今のような形で1haの圃場を整備しましたが、それまではここは、もっともっと急勾配の茶園でした」

 摘み取りまであと2週間という茶園には、お茶の新芽が青々と芽吹いている(右)。岳間地区は、標高648mの西岳を望むすり鉢状の地形。谷々に小さな集落が点在する。細い集落道沿いには、たくさんの茶畑が広がる。
 岳間茶の歴史は1634年ころから記されており、代々細川藩主の御前茶になっていた。明治時代には紅茶づくりも盛んで、ヨーロッパへ輸出もしていたという。

 昭和42年、先代は地元の2名の茶加工者と共同出資し、屋号を(有)岳間製茶として茶工場を新設した。一度に60kg(5t/日)処理できる規模だった。しかし販売実績が伴わず、昭和48年に一度解散。その後、先代が工場を買い取り、有限会社岳間製茶となった。

 現在は、地区の生産農家10名に出資してもらい、会社組織を作り直した。28戸、22haの契約農家の茶葉を買い取り、製茶、販売を行っている。


山のお茶の良さを活かす生産体制
 「山のお茶は香りが命」と、中満さんは言う。岳間の茶畑や水田の標高はおよそ300~350mほど。昼夜の寒暖の差が大きく、夏も冷涼で冬には雪が積もる。さらには茶畑のある斜面には、朝日が早く当たり、西日があたらない。だからこそ葉肉が厚く、薫り高い茶葉が育つ。

 平成14年に120kgの煎茶ラインを整備し、自動精揉機も2台導入。平成20年に現在の新社屋と新工場を落成し、翌年には、CCDカメラ搭載の色彩選別機を導入した。この選別機は、熊本県下でも、1、2カ所しか導入されていない先進的な機器で、仕上げ時の異物混入を防ぎ、茶葉の選別を細分化、効率化する。朝摘んだ茶葉が6時間で製品になる。茶葉の酸化による劣化を極力抑えた即日加工ができることも強みだ。


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 :岳間地区の茶園。急勾配の中山間地にある茶園での作業は手間ひまかかるが、山の気候に育まれて、香り高いお茶ができる
 :お茶の種類、サイズも多種多様


 岳間製茶では、旨みの強い「深蒸し茶」にこだわっている。「西日のあたらないお茶は、葉っぱもしっかりしている。茎も軸も大きい。だから深蒸しにしても崩れない」
 それでも機械まかせではいけない。要所要所で、茶葉の状態をチェックし、時には湯を注いで水色を見、細心の注意を払って仕上げていく。同じ機械を入れても使い手の個性が出るのだという。

 「うちのお茶は、鮮度が違う。それは香りにも現れる。栽培から仕上げまで一貫して即日加工で行うことで、高い品質を維持しています。荒茶にして出荷して、市場から問屋へ行き、再仕上げされたお茶とはそこが違う」と中満さん。茶葉が湿気に弱いことを考えて、除湿管理された屋内のパッケージ室、加工したお茶を即座に保存できる大型冷蔵庫なども備えている。


茶どころ岳間を豊かに、にぎやかに
201407yokogao_kumamoto_0762.jpg 岳間製茶でできるお茶は年間20t。そのすべてを直売で売り切る。といっても、百貨店の催事などの外販には頼らない。「出て行けないんですよ。地元の団体の役もたくさん受けているし、直売所も、食堂もありますから」それでもお得意様への配達の手間はいとわない。だからこそ慶弔時の引出物なども、クチコミで入ってくるという。通販の顧客の要望に応えて、コンビニ決済の仕組みも導入。のし紙の文字は、社長自らしたためる。
右 :「社長、のしお願いします」と声がかかると、社長自ら、のし紙を書く

 「わざわざここまで足を運んでくれる、また通販で頼んでくれるお客様のために、ありとあらゆる商品ば揃えんと!」と、商品開発にも余念がない。「こっちはいいお茶を持っている。組んでくれる企業はたくさんありますよ」と胸を張る。


 生産の現場を知ってもらうこと、そして、岳間に足を運んでくれる人が増え、地域に活気が満ちることが大切だと、岳間製茶では、春にはお茶摘みツアー、秋には「新そば採れたて祭り」を開催。中満さん自らガイド役も買って出る。一度でも岳間を訪れてくれたお客さんは、「ああ、この環境で育ったお茶が飲みたい」と言ってくれる。
 売店に併設した食堂「山におまかせ」では、その名の通り、季節ごとに岳間で採れる野菜を使った、ふるさとの家庭料理を提供している。春には、タケノコづくしのお膳が大人気だ。調理、接客のスタッフは地元の女性たちである。


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 :「山におまかせ」の春の御膳。これで1050円
 :お茶製品の横には、地元の農家の新鮮野菜が買える直売スペースも。たくさんの野菜も午後には品薄になる


 売店にも、社長自ら朝掘ったタケノコが並ぶ。岳間製茶では、茶や茶商品だけではなく、地元野菜の直売所も併設している。近所の農家の野菜の売り先にもなっており、店先では、地元の農家とお客さんがお茶を飲みながら歓談する姿もみられる。


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 :喫茶スペースもゆったりと取ってある売店
 :直売所で売られている朝採り野菜


 「今年の秋の新そば祭りでは、お茶農家がみんなで種まきし、収穫したそばをふるまうだけでなく、新そば祭りマルシェということで、地元の野菜の販売もしようと思っています。岳間の収穫祭ですね」
 規模を拡大し、大きな売り先を獲得する方向ではなく、地域の気候風土にあったお茶の品質向上のために設備投資し、地元に根ざした事業を展開する。それが中満さんのやり方なのだ。(森千鶴子 平成25年4月11日取材 協力:熊本県鹿本地域振興局農林部農業普及・振興課)
●月刊「技術と普及」平成25年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


【追記】
 「山におまかせ」の昼時は、平日にもかかわらずお客さんでにぎわっていた。今年(平成26年)の一番茶をいただき、初夏のメニューを味わった。


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 :「山におまかせ」の初夏のメニュー /  :緑茶のアイスクリーム


 今年の新茶(一番茶)は去年のような霜害にもあわず、全体として品質・内容ともに良い年になっている。「(昨年の取材後)新しい紅茶が出たのでぜひ飲んで見て」と中満社長。


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 :中満社長自らお茶を入れてごちそうしてくださった
 :ギャバロン紅茶。香り良く日本茶に近い味わい。色もきれい


 岳間製茶では平成25年7月からギャバロン紅茶を売り出した。地域の茶農家3戸で開発したもの。
 ギャバ(※)には(独)野菜茶業研究所で効能を確認された機能性があり、血圧を下げる、中性脂肪を抑える、肝臓・腎臓の働きを高める、神経を鎮めるなどの効能があると言われ、注目が集まっている。

ギャバの正式名称は、「ガンマアミノ酪酸」で、茶葉を嫌気発酵させたもの。熱を加えて発酵を途中で止める。独特の臭いがあり緑茶には向かないが、紅茶にすると気にならず、日本茶に近いといわれる味を楽しめる。ギャバロンの「ロン」は、半発酵の意味。


 岳間製茶のある岳間渓谷は、福岡県の茶どころ・八女と県境をはさんでひとまたぎ。福岡や久留米方面からたくさんの人が渓谷に水を汲みにやってくる。「お茶が作られたまさにその場所で、お茶を味わって飲んでもらいたい。ぜひ来てください」と中満さんは語ってくれた。(水越園子 平成26年5月15日取材 協力:熊本県鹿本地域振興局農林部農業普及・振興課)


(有)岳間製茶 ホームページ /食事処「山におまかせ」
熊本県山鹿市鹿北町多久1377-3
電話 0968-32-2526

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