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2014年6月 4日
耕地面積が狭い香川県では、限られた広さで効率よく生産できるメリットなどから施設園芸が盛んである。その中でイチゴは、近年、独自の高設式養液栽培システムが開発されて普及が進み、全国でも先進的な施設園芸へと発展している。
県都高松市で「顔の見える関係」にこだわり、朝採りの新鮮なイチゴを直売するのが、(株)スカイファームだ。高松市内3カ所のイチゴハウス(7000㎡)でイチゴとブルーベリーを中心に生産する。代表取締役の川西裕幸さん(42)は、「農業を通じて心豊かに」と明確なビジョンを掲げ、栽培や販売だけでなく、スイーツ店経営や食育イベントの開催など多角的に事業を展開する。異業種とも積極的に連携し、「夢のある農業」を提案している。小規模家族経営でありながら6次産業化を順調に進めるには、「情報発信力」がカギを握るという。
手渡す紙に新鮮への熱い思い
「これを見てください」川西さんは、真っ先に、イチゴの購入者に渡すという一枚の紙を差し出した。そこには、「収穫日 ○月○日○時」と書かれ、川西さんの顔写真、メッセージとともにイチゴ栽培へのこだわりが詰まっていた。「新鮮であることを分かってほしいので、時間まで記入してお客様に渡すんです」。
左上 :贈答用イチゴ
右下 :購入者に渡す1枚の紙にはイチゴづくりへのこだわりが書かれている
スカイファームでは毎朝、一番ツヤとハリのある新鮮なイチゴを柄付きで収穫する。主力品目は「さちのか」だ。その日のうちに「朝採りイチゴ」の名で栽培ハウスの横で直売するほか、地元のスーパーマーケットなどの店頭に並ぶ。
直売所には次から次へと車が停まり、イチゴのパックを購入していく。「スカイファームのイチゴが食べたい」という固定ファンだ。直売所はイチゴの甘い香りがただようスイーツショップでもある。ソフトクリームやクレープ、パフェなどを販売。夏場には、かき氷も登場する。「直接顔を見て、お客様に新鮮なイチゴを販売したい」という熱い思いから、この販売スタイルを貫いている。
左上 :素材そのものを生かしたイチゴパフェ
右下 :まるごとつぶつぶイチゴの無添加カキ氷。発売時にはマスコミに大きく取り上げられた
農学を専攻し、イチゴ農家に
川西さんは、高松市出身。両親は会社員だが、祖父母が柑橘専業農家であった。「収穫のころ、親戚じゅうが祖父母のところに集まってくる。お天道様の下でゴザを敷いて、楽しく和気あいあいとご飯を食べた」。幼いころの思い出が、いつしか将来の夢に変わり、高校・大学は農学を専攻。卒業後は地元の農業法人に入社し、水耕栽培の栽培管理に従事した。
左上 :「イチゴ栽培が基本」と話す川西さん。イチゴの管理作業に余念がない
右下 :緑色光照射(みどり色LED)による環境に優しいイチゴ栽培。(株)四国総合研究所と連携し、栽培試験に協力、実用化した。果実の肥大促進や糖酸比の向上がはかられる
入社して5年が経ち、独立して自分の力を試したいと思うように。施設園芸を考える中、香川県が高設式養液栽培システムを普及するなど、イチゴ栽培に力を入れていることを知った。子どものころの思い出が再び頭をめぐった。「祖父母の家の庭にイチゴが植えてあって、成った実を見つけては、兄弟で先を争って食べるのが楽しみだった」。好きなイチゴなら一生続けられる。1998年、22aで栽培を始めた。
異業種勉強会を転機に多角化
栽培の経験がなかったため最初は苦戦を強いられたが、周りのイチゴ農家や普及指導員の助言もあり、次第に品質が安定した。5年後には47aに規模を拡大したものの、収量が飛躍的に伸びることはなく、全国的にイチゴの市場価格が下がる状況が続き、将来への不安が消えなかった。
現状を打破しようと、川西さんは、県内の中小企業の経営者が集まる勉強会に参加した。異業種の経営者と交流する中で、「何のために農業をするのか」「存在意義は何か」を徹底的に考え、これまでを見つめ直した。半年かけて「農業で地域を明るく元気に」を主軸とした経営指針書を完成。明確なビジョンが「(それまでは)農作業して、出荷するだけで、モチベーションが上がらなかった」という川西さんの気持ちを変えた。ビジョンが決まれば、今やらなければならないことがおのずと見えてくる。2006年にハウスの横に直売所をオープン。規格外のイチゴを使ってソフトクリームやパフェを作り、一緒に販売した。また、県内のパティスリーやデパートなどに直接出向き、販路を拡大した。
左上 :直売所には、多くのスカイファームファンがイチゴを買いに訪れる
右下 :イチゴだけで作ったソフトクリーム
営業のノウハウやPR方法は、異業種の経営者からアドバイスをもらった。「イチゴを店に並べるだけでは、お客様はわざわざ買いに来てくれない。固定ファンを作らなければ、イチゴを栽培する意味が生まれない」。
いかにスカイファームのイチゴを知ってもらうか。川西さんは、イチゴを知ってもらうきっかけ作りとして、ソフトクリームを完成させた後、プレスリリースを作成した。マスコミ各社に配布したところ、テレビ局や新聞社が取材に訪れた。報道されたことにより、スカイファームの認知度は一気に広まった。
「情報発信力」がカギ
「一生懸命、いいものを作るのは当たり前。それをどうお客様に伝えるか。情報発信力が大切」。6次産業化を進める中での重要なキーワードとして、川西さんは「情報発信力」を挙げる。常に「情報発信」することを頭に置き、経営に活かしている。
左上 :住宅街に位置するスカイファーム 県道からも一目で分かる大きな看板。案内板も設置されている
右下 :イチゴを通じて笑顔を届けるスカイファームの従業員
車の多い県道から見えるハウスには、大きな立て看板を設置。新鮮なイチゴの写真を大きく掲げた。イチゴへのこだわりや栽培方法はホームページでPRする。専門用語を極力避け、具体的に安心・安全な理由をきちんと説明する。高松市内の住宅街にある地の利を生かしイチゴ狩りを始めたのも、知ってほしいという思いから。ハウス内には、イチゴ栽培を写真付きで説明し掲示する。地元の幼稚園・小学校・中学校の職場体験や高校生・大学生のインターン研修も積極的に受け入れ、「地元の農業の良さを知ってもらう機会をつくりたい」という。
事業の核は「生のイチゴ」
多角的に事業を拡大していく中で「イチゴの品質を安定・向上させることを忘れてはいけない」と話す。「基本はイチゴ栽培である」と肝に銘じている。また、地元の企業等と共同で新たなイチゴの開発に取り組んだり、新たな減農薬栽培の方法を研究したりするなど、イチゴの品質向上に日々努めている。
川西さんの元には、6次産業化を考えている農家がしばしば相談に訪れるという。その際も、川西さんは「生のイチゴを直売だけで売りきるぐらい固定ファンを作らないと、加工品を作っても良い結果につながらない。まずは、地元のお客様に喜んでもらうことが大事」と自身の経験を伝えている。
左 :朝採りにこだわったハウス内にはイチゴの甘い香りがただよう
イチゴにとどまらず、地元の生産者、異業種企業とともに新たなプロジェクトも生まれている。昨年立ち上げた、さぬきの産地直売予約サイト「さぬきファームプロジェクト」だ。売り手と買い手のミスマッチをなくし、安定した品質、価格、数量を実現していくのが目標だ。「イチゴを生産・販売しながら地元の人たちと一緒に元気になりたい」。イチゴから始まる笑顔の輪は、イチゴがじっくりと時間をかけて熟すように、少しずつゆっくりと広がり始めている。
(杉本実季 平成25年2月5日取材 協力:香川県農政水産部農業経営課)
●月刊「技術と普及」平成25年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
(株)スカイファーム ホームページ
香川県高松市飯田町656-1
電話087-881-5256