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2013年7月 1日
鹿児島県本土の北東部に位置する霧島市牧園町は、標高200m~500mの中山間地域。日中の寒暖の差や、比較的冷涼な気候条件を活かして、良い品質のお茶が生産されている。
また、日本第1号の国立公園である霧島連山や霧島温泉郷を有する観光地でもある。この地で、先代から現在に至るまで45年間、茶業にいそしんできたヘンタ製茶(有)代表取締役の邉田孝一さん(50歳)は、高品質の「霧島茶」を生産。多様な商品に加工して販売している。
左上 :霧島連山の麓、寒暖の差が、味と香りの良い霧島茶を生む
右下 :霧島茶は、味や香りが豊かなことに加え、水色がよく、二煎目、三煎目も持続するのが特長
山林は、条件不利地でなく宝の山
「今でこそ茶園は18haになりましたが、45年前、親父は10aからはじめたんですよ」と語る孝一さんは、新しいことに果敢に挑戦する父親の背中に学んできた。
鹿児島県内の茶業は、県内一の産地として知られる知覧町等に代表されるように、平坦な土地条件を基盤とした大規模経営でなりたっている。しかし、牧園町は中山間地であり、小さな圃場が多かった。それでも先代は「これから先は機械化の時代が来る」と土地を買い、基盤整備に取り組んだ。
昭和57年代には、茶園の面積が2haを越え、地元製茶工場への委託加工では追いつかなくなったため、茶工場を整備。県内でもまだ普及していなかった防霜ファンもいち早く導入し、県下の農家がこれに追随する形になった。設備投資が重なり、地域の借金王と呼ばれた時代もあったが、土作りにこだわり、加工では初期乾燥を重視して高品質の荒茶を製造し、経営を軌道に乗せた。
右 :現在では1ha超の茶園団地が7カ所。うねの長さを100m~150mと長くして、茶園管理機械の作業効率を上げている
孝一さん夫妻が就農し、さらなる規模拡大を目指した時、注目したのが山林だった。霧島連山は岩石が少なく、頂上までは傾斜が続くが、頂上部は比較的平坦だ。これなら、乗用型茶園管理機械の入る茶園の整備ができると、平成2年に2haの山林を購入した。
「この山の茶園が、畑地から転換した茶園よりはるかに土が良かったんですよ。まさに宝の山でした」。
山林は土地の値段が安かったのもよかった。平成6年には法人化し、平成9年には、地域内の3つの茶工場を再編。新工場を設立した。自社加工の他、平成22年からは生葉を買いあげて製造している。工場は、120kg1ライン(処理能力は、生葉500kg/時)で、約17haの生葉を処理加工。効率化することで製造コストも押さえられている。現在の工場を担当しているのは、長男の辰典さん(23歳)だ。
左 :工場で働く長男の辰典さん。日本茶インストラクターの資格も持つ
「先代の時代と比べるとお茶の相場は、2分の1~3分の1になり、さらに、重油代が高騰しています。それでもここ霧島の地で茶を作り続けるにはどうしたらいいのか考えました」と孝一さんは語る。
ニーズがわかると、作り方、売り方もわかる
平成3年からは、土作りをさらに探求し、自家配合堆肥作りに挑戦。より品質の良いお茶ができるようになった。「売り先がなければ、いいお茶を大量に製造しても意味がない」と、その頃から自社製品の直売をはじめる。工場での直売を皮切りに、鹿児島空港の売店に。その後、霧島温泉郷のホテルや市内の直売所などに販路を広げていった。
「普及センターに間に入ってもらい、地元の観光協会や、特産品協会に加入しました。そこで、商工業者や地元のホテル旅館などとつながりができ、さらには、あちこちの物産展や商談会、イベントにいくようになったんです」。
これまで話したことのなかったさまざまな業種の人々と出会い、販路が広がっていく。「おいしいからぜひ取引したい」と、イベント先で商談が舞い込む。「リーフ茶離れなんて言われますが、緑茶そのものの人気は落ちてはいない。いいお茶は必要とされています。必要とされるものを作れば売れるんです」。
左上 :「待っていてもダメ」観光協会や特産品協会に加入し、イベントには積極的に出かけて売る。イベントで使う「霧島茶」ののぼりも自信作。商材はとても大事だという
右下 :味も製法も玉露に近い霧島本かぶせ茶。ヘンタ製茶のお茶は、かごしまの農林水産物認証「K-GAP」も取得している
イベントでは、消費者と直接ふれあい、試飲を通じて、顧客のニーズを肌で感じ、消費者に選んでもらえる多様な商品を揃えた。まろやかで甘みとコクがあると女性に人気の「さえみどり」(鹿児島県優良品種)などの新たな品種を積極的に導入したり、「かぶせ茶」づくりにも挑戦。荒茶の相場が低迷していることや、県内では遅場産地であることから、付加価値をつけた一番茶をつくることも必要だったのだ。
今では大手企業や百貨店など、全国規模で取引する。「バイヤーとは、農業者としての顔ではなく、原材料の生産から販売まで一貫して行っている会社として取引をしています。いいものをよりリーズナブルに提供できるメリットを強調し、値段を叩かれるところとは取引しない。再生産価格は守らなくては」。
志を同じくする人との出会いから生まれた新商品
目下売り出し中の新しい商品が「SHAKE-IT!(シェイクイット)霧島緑茶」。キャップ部分に粉末茶を密閉し、キャップをひねると同時に、粉末茶が開封される。ボトルを縦にシェイクすることで、淹れたての緑茶ができあがる。このボトルの構造は、世界特許を取得しているというから驚きだ。
左上 :「SHAKE-IT!(シェイクイット)霧島緑茶」は、2年連続でモンドセレクションの金賞を受賞した
右下 :このキャップの構造で世界特許を取得している
開発のきっかけは、あるイベントで、霧島の名水「始元水」を販売する(株)唐津屋と出会ったことから。地元を愛する者同士、「霧島の水とお茶で、世界でも唯一無二の新しい商品を作ろう」と盛り上がった。その後キャップ開発メーカーの(株)佐々木との出会いもあって共同開発に。九州新幹線全線開通に合わせて販売を開始し、発売から1年で約4万本を出荷した。現在では鹿児島を拠点とする百貨店、山形屋やJR九州の駅・車内などでも販売するヒット商品となっている。
左上 :工場横の事務所兼直売所では、社長自ら、お茶を振る舞う
右下 :大茶樹公園にて、邉田夫妻。霧島のお茶の栽培の歴史は古く、天然記念物に指定された大茶樹の二代目が今も健在。孝一さんは、保存会の会長を務める
「霧島茶は、その昔、坂本龍馬と妻おりょうも新婚旅行で飲んだと言われています。霧島茶のルーツである大茶樹の保存会もつくり、公園を整備しました。ふるさとの気候風土、歴史や物語を、霧島茶にのせて世界へ発信し、地元の発展につなげたい」。
それが、地域の1、2、3次産業が手をつないで仕事をおこす、真の意味での6次産業なのではと、孝一さんは考えている。
(森 千鶴子 平成24年6月14日取材 協力:鹿児島県姶良・伊佐地域振興局 農林水産部 農政普及課)
●月刊「技術と普及」平成24年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
▼ヘンタ製茶(有) ホームページ
鹿児島県霧島市牧園町下中津川149-7
電話 0995‒77‒2777
FAX 0995‒77‒2880