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地域資源を活かして、ムダからチャンスを見出す ~農業生産法人(有)柏崎青果の加工品開発と販売~

2013年5月28日

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柏崎進一さん(青森県おいらせ町 (有)柏崎青果)


おいらせ町はニンニクの町
 「おいらせ町には夢がある。それを上手に使わない手はない」と語るのは、青森県おいらせ町でニンニクやナガイモを生産する一方で、加工品の商品開発・販売を手がける農業生産法人(有)柏崎青果代表取締役の柏崎進一さんだ。

 健康食品として全国的にも有名となった「黒にんにく(※1)」をはじめ、ナガイモやゴボウ、ダイコンなどを扱い、「スライスゴボウ」「切り干し大根」など、乾燥技術を中心にさまざまな商品を開発。その販売は国内だけでなく、海外への輸出にも積極的に取り組んでいる。

 おいらせ町には、十和田湖を源流とする奥入瀬川が流れている。訪れた観光客からは「『十和田湖からおいらせ町を旅して、とてもよかったよ』と声をかけられる」と語る柏崎さんは、おいらせ町の魅力に自信を持つ。


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 :おいらせ町には、十和田湖を源流にした奥入瀬川が流れる
 :(有)柏崎青果


 また、おいらせ町には、青森県特産のナガイモをはじめ、ニンニクがある。全国のニンニク生産量の7割(22年度統計)が青森県で生産されており、「ニンニクを青果や原料としてだけでなく、豊かな地域資源を活用した商品として販売すれば、おいらせ町のPRにもなり、地域も潤う」と柏崎さん。

yokogao201305_1.jpg 地元産原料にこだわった商品をチャレンジ精神で開発し続け、商品数は70種類を超える(写真右※)。第59回全国農業コンクールでは農林水産大臣賞を受賞された柏崎さんに、加工品開発や販売のポイントを訪ねた。


※1 黒にんにくとは...ニンニクを発酵熟成させたもの。ニンニク臭さは消え、甘酸っぱさがある。黒い色が特徴


その1「ムダを追及する」
 柏崎さんが加工に取り組むうえで特に強調するのが、「ムダを追及すること」だ。
 柏崎さんは、ナガイモなどを栽培する一方で、販売面でも農協への系統出荷から直売へと、販路拡大に積極的に取り組んできた。そのような中、ナガイモの加工原料の販売に着手。ナガイモを180gの規格で真空パックし出荷する。しかし、その端材を捨てていた。もともと捨てるしかない皮も含めると、全体の3割は廃棄だった。その端材をなんとかできないかと考え、乾燥粉末に加工したことから、ムダからチャンスを見出すチャレンジがはじまった。


yokogao201305_524.jpg  人気商品のひとつ「スライスごぼう」。商品開発のきっかけは、担当者の作業ミスで作りすぎてしまった〝ささがき〞だった。余ったささがきをなんとかしようと乾燥したら、そのまま食べてもおいしいパリッとした商品ができた。味付けはしていない。今では、カットゴボウの端材を利用し、「スライスごぼう」だけでなく、香ばしい香りとほのかな甘みが特徴の「ごぼう茶」を販売する。さらには、「黒にんにく」の技術を応用した「黒ごぼう」も開発中だ。また、加工の段階で品質のムラなどによるロスを極力減らすため、乾燥技術の改善を常に行っている。
右 :焙煎したゴボウの端材


 柏崎さんのムダの徹底は原料だけではない。生産現場では、トラクターなどの作業機械を圃場で使用後、必ずていねいに洗浄し倉庫にしまう。機械は大切に扱えば長持ちする。修理も自分たちで行う。


yokogao201305_647.jpg 加工場でみられる工夫が作業台の調整だ。従業員の身長はさまざま。市販の作業台ではのけぞったりかがんだり、作業者に負担が生じる。そこで、作業者の腰に合わせて台の高さを調整。さらにキャスターを付けることで利便性が増し、作業の効率化が図られている。「規模を拡大すれば人も機械も増える。どうすれば効率が上がるか。自分たちでできることは自分たちで行い、工夫することが必要」と指摘する。
左 :作業者の腰の高さに合わせて調整された作業台(奥)とキャスターがつけられた荷台(手前)


その2「パッケージは『色』まで気を配る」
 商品開発で、品質のほか力を注ぐのがパッケージのデザインだ。デザインはすべて柏崎さんら役員と社員で行うという。そのデザインには、奥入瀬川の流れや八甲田山といった地元を象徴するイラスト、(柏崎さんの祖母をモデルにした)フデばあさんといった温かみのあるイラストが目に留まる。


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 :人気商品 左から「スライスにんにく」「スライスごぼう」「ごぼう茶」
 :緑と黒が鮮やかな「おいらせ黒にんにく」のパッケージ


 さらに、販売場所も考慮されている。お土産としても人気の「黒にんにく」は、ホテルや道の駅、JR八戸駅などの土産物店でも販売。競争の激しい店頭でも目立つよう、他の商品と競合しない「色」に気を配っている。「店頭には、青森県といえばリンゴの〝赤〞のほか、茶系の素朴な色が多い。『黒にんにく』パッケージの鮮やか〝緑と黒〞は目を引く」と柏崎さんはねらいを語る。


その3「PRはあらゆる機会で」
 今でこそ有名になった「黒にんにく」だが、販売開始当初3年ほどは、なかなか売れなかった。辛抱強く展示会への出品や見本商品の発送、おみやげとして配布するなど、ことあるごとにPRを続けて、現在の人気が生まれた。海外の展示会へも積極的に参加しており、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、台湾へも輸出する。さらには中国、アフリカの国からも問い合わせが来ているという。


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 :輸出向けには英語表記のラベルを貼る
 :展示会等イベントに積極的に参加してPR※


 最近では、商品のPRに「料理」を掲げている。「海外からは料理の材料としての問い合わせが多い。国内でも、『黒にんにくのてんぷら』など、一工夫加えた提案をしたい」と柏崎さんのアイデアは尽きない。

 また、「黒にんにく」の生産・販売が増加する中、青森県黒にんにく協会会長である柏崎さんの声がけにより、2012年には青森県で「黒にんにくセミナー」が開催された。日本一の生産量と品質を誇る青森県、特産品としての「黒にんにく」の品質向上およびブランド化を促進するため、生産・加工・流通に携わる関係者が一堂に会し、今後の方向性について広く探求するとともに、意識の統一を図る。


その4「柱となる商品を」
 「商品を販売する上で『柱』が重要。弊社では『黒にんにく』だ」と柏崎さんは強調する。例えば「スライスごぼう」で新規の取引を行う場合でも、「黒にんにく」も勧める。「黒にんにく」は、ラー油、醤油、アイスなどさまざまな関連商品を生んでおり、宣伝効果が大きい。他の商品を引っ張る効果があるからだ。


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 :試行錯誤の末、絶妙に醗酵・熟成された「黒にんにく」
 :にんにく圃場で。右はじは、専務取締役の次男瑞貴さん。加工部門のほか、主に生産現場を担当する※


その5「自社だけの強みを」
  「黒にんにく」をはじめ、ニンニクの乾燥商品は各地で取り組まれており、競争が激しい。「他の商品と差別化できる強みが必要」と柏崎さんは指摘する。柏崎青果は、切り干し大根だと約600kgを一度に加工できる大型乾燥機械を4台所有する。この機械の能力が、生産効率だけでなく、他では出せない味も生み出すという。さらに、柏崎青果では無添加で加工する技術を開発し、取引先からも注目を集めている。

 「良い原料に付加価値を付けるのは難しい。加工のポイントは、いかに端材(ムダ)を磨き、価値を見出すかだ」と語る柏崎さん。さまざまなアイデアとチャレンジで、今では廃棄を5%以内に抑えている。ムダをチャンスととらえ、アイデアを出し続ける柏崎さんは、これからも「おいらせ町の黒にんにく」を中心に世界を駆ける。(松本一成 平成24年3月26日取材 協力:青森県上北地域県民局地域農林水産部農業普及振興室三沢分室)
●月刊「技術と普及」平成24年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
※は(有)柏崎青果提供写真


(有)柏崎青果 ホームページ
青森県上北郡おいらせ町木崎158
TEL 0178-56-5030
FAX 0178-56-5432

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