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野菜

千葉県における促成きゅうりIPM実証調査 (千葉県 平成28年度)

背景と取組のねらい

 千葉県のきゅうり栽培では、微小害虫により媒介されるウイルス病の拡大や害虫の薬剤抵抗性発達が問題化しており、化学合成農薬だけに頼らない総合防除体系の確立が急務となっている。一方で褐斑病の多発生も問題となっており、殺菌剤の使用に制限がかかる生物農薬の防除体系への組み込みについては、農家が慎重になっている現状がある。
 そこで、千葉県内の促成きゅうり栽培に適した天敵、生物農薬利用技術並びに物理的・耕種的防除法に関する調査を行い、地域の栽培環境にあったIPM技術を実証する。

地域の概要

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(クリックで拡大します)

 海匝地域は、千葉県の北東部に位置し、銚子市、旭市、匝瑳市で構成される。経営耕地面積は14,210haで、海岸に接する砂地地帯と、干潟耕地を含む平坦地帯および北総東部台地地帯からなる。
 実証ほを設置した旭市の海岸砂地地帯では、きゅうり、ミニトマト、いちごなどの施設野菜生産が盛んに行われている。きゅうりの栽培面積は約70haで、栽培戸数は約200戸。作型は促成が主体で、仕立て方はつる下ろし栽培が多い。

前年度までの試験結果より

 前年度までの試験で、促成きゅうり栽培においてスワルスキーの秋放飼をすることで、アザミウマ類、コナジラミ類とともにそれらが媒介するウイルス病を抑えることができた。また病害については、べと病、うどんこ病は天敵に影響のない農薬で、危惧されていた褐斑病はさらに耐病性品種を用いることで、大きな被害にならない程度に抑えることができた。その結果、病害虫の直接的な被害の低減に加えて作期の延長が図られ、収量のアップにつながった。
 しかし、薬剤散布回数の削減や作期の延長に伴い、天敵導入前には問題となっていなかったハダニ類やアブラムシ類の発生が見られた。

実証ほの内容

ハウス構造 :鉄骨屋根型6連棟ハウス(2,448㎡、間口8m、奥行き51m)
物理的防除 :防虫ネット...サイド、天窓 0.4mm目合い
       光反射シート ...タイベック(400WP、1.5m幅)、ハウス外周に敷設
       粘着板(ホリバー)...黄色450枚、青色450枚(黄、青各180枚/10a)、設置10月30日
天 敵   :・スワルスキーカブリダニ(スワルスキー) 
        放飼日:10月23日 追加放飼日:4月2日(2本/10aで全株に放飼)
       ・ミヤコカブリダニ(スパイカルプラス)
        放飼日:11月13日(80パック/10a)
       ・コレマンアブラバチ(アフィパール)
        放飼日:5月20日(2本/10a)
耕種概要  :品種:千秀1号 台木:ゆうゆう一輝黒
定植日   :10月14日  補植日:4月2日
栽植密度  :3.2株/坪(960株/10a)

調査内容および方法

(1)スワルスキーカブリダニ(およびミヤコカブリダニ)、アザミウマ類、コナジラミ類の発生状況調査
●中位葉120枚について、10日おきに目視による調査を行い、成・幼虫数を調査した。
●ハウス内の2か所(2棟目、5棟目)に黄色および青色の粘着板(ホリバー)を各2枚(計4枚)を設置し、10日おきに誘殺数を調査した。
(2)ハダニ類、アブラムシ類の発生状況調査
●中位葉120枚について10日おきに目視による調査を行い、発生が見られた株を記録した。
(3)病害の発生状況調査
●うどんこ病、べと病、褐斑病について、48株の中位葉(4葉/株)計192葉の発病葉数を調査し、さらに発病葉は3段階(大:葉の3分の2以上に病斑が認められるもの、中:葉の3分の1以上3分の2未満に病斑が認められるもの、小:葉の3分の1未満に病斑が認められるもの)で発病度も調査した。
●ウイルス病(退緑黄化病、黄化えそ病)については、目視で発病株を調査した。
(4)農薬使用状況調査
●実証農家の記帳により調査した。

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調査結果

(1)スワルスキーカブリダニとアザミウマ類、コナジラミ類の発生推移
●スワルスキーは放飼後から年内までは比較的多数の個体が確認されたが、その後は徐々に確認個体数が減少した。温度が低くなると、調査している中位葉から暖かい芯の中へ移動していると考えられ、実際に確認することもできた。その後、2月下旬からやや数を増やしたが、3月下旬の調査でアザミウマ類に葉上の個体数が逆転されたため、4月2日に追加放飼を行った。追加放飼後は、順調に数を増やし、6月下旬にピークをむかえた。
●コナジラミ類については、作を通してほぼ発生は見られなかった。また、アザミウマ類はスワルスキー放飼前の調査時(10月10日、10月19日)には、発生は認められず、その後も非常に低密度で推移した。
 一方、スワルスキーの密度は前述したとおり2月末から数を増やし、厳寒期明けは害虫類より早く増殖した。しかし、3月になるとアザミウマ類の増殖がスワルスキーを追い越し、スワルスキーに影響のない農薬で対応した。その後、スワルスキーより少ない密度ではあるが数を増やし、6月下旬にはスワルスキーの密度を追い越してピークとなった。

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図1 スワルスキーカブリダニおよびアザミウマ類、コナジラミ類の発生推移

●5月下旬と6月下旬に増殖したスワルスキーおよびアザミウマ類の数が急激に減少したのは、アザミウマ類を農薬だけでは抑えきれなくなり、ハウス内を閉め切って一時的に温度を上昇させるヒートショック処理(5月27日、6月27日)を行ったためである。その結果、アザミウマ類は一時的には数を減らすことができるが、処理時に卵や蛹のステージだったものには効果がなかったのか、すぐに数が回復した。また、スワルスキーにも影響を与え、同様に数を減らすこととなった。その他、達観であるが、アブラムシ類とうどんこ病については高い効果があるようだった。(図1)
●モニタートラップによる害虫類の発生消長は、植物体上調査と同様で、コナジラミ類はほぼ捕殺されず、アザミウマ類は定植から4月下旬までは低い密度を示した。5月以降は、一時ヒートショックのため捕殺数の増加はおさまるものの、栽培終了まで急激に増加した。

(2)ハダニ類、アブラムシ類の発生消長
●昨年問題となったハダニ類、アブラムシ類については、調査時の目視および農家への聞き取りによる発生調査を行った。ハダニ類については、11月13日にスパイカルプラスを設置して防除を行ったが、ほぼ発生が見られなかった。
●アブラムシ類については、ハウス内にバンカープランツとして2月23日にムギをは種し、その後3月27日にムギクビレアブラムシを接種し、ムギクビレアブラムシが十分に増えた5月20日にコレマンアブラバチを放飼した。しかし、天敵放飼のタイミングがうまくいかず、スポット的に発生が見られたので、スワルスキーに影響のない農薬での防除やヒートショック処理により発生はおさまった。
●コレマンアブラバチの放飼は、害虫が増え始める3月頃の予定であったが、ムギの成長とムギクビレアブラムシの増殖に時間がかかり遅れてしまった。

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ムギが茂ったらムギクビレアブラムシを接種し(左)、枯れたら終了(右)

(3)病害の発生推移
●うどんこ病は初期に発生し、その後5月以降に再び発生した。褐斑病については耐病性品種を用いたため、発生はほぼ見られなかった。
●べと病については、年内と春先に多く発生したため、スワルスキーに影響のない農薬を散布して対応した。
●昆虫媒介性ウイルス病については、本年度は黄化えそウイルス病が初期から蔓延し、定植株の40%近くが感染した。その対応として、途中で入口側の一部の植え替えを行ったが、植え替えた株も春先には黄化えそウイルス病に感染した。天窓の防虫ネットが十分に張られておらず、初期の飛び込みを許した結果、最後まで病気を引きずることとなった。

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図2 病害の発生推移(発病葉率)

(4)防除コストの比較
 総経費は10aあたり、実証区が約29万円、慣行区が約23万円と約6万円の差となった。前年に比べて、ハダニ類、アブラムシ類の天敵も導入したことと、前述したとおりアザミウマ類の防除のための農薬散布量が増えたため、コスト差が大きくなった。

表1 防除コストの比較
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地域への波及効果と今後の方針

 前年秋定植の平成28年産の作では、秋放飼5戸(スワルスキー2戸、リモニカ3戸)、春放飼35戸(すべてスワルスキー)で天敵が導入された。本年秋定植の平成29年産の作では、秋放飼6戸(すべてリモニカ)が導入されており、春放飼は前作以上のスワルスキーの導入が見込まれる。また、促成作以外の夏作、抑制作へのスワルスキーの導入も進んでいる。海匝農業事務所では、関係機関等と連携し、天敵導入の経験の浅い農家を中心に定期的に合同巡回を行い、技術導入支援を行っている。

 4年間のIPM技術実証試験の結果から、今後きゅうりの促成作での天敵導入において以下の4メニューを提案する予定である。
①リモニカ秋放飼(年内放飼はリモニカに統一)
②リモニカ1月下旬放飼(2月下旬の害虫の飛び込みに備えるため本年度試験予定)
③スワルスキープラス2月下旬設置(現在一番増えている方法)
④スワルスキー3月中旬放飼(一般的な春放飼)
 上記についての導入マニュアルを用意し、促成作における天敵導入農家が選択できるようにしていく。

(平成28年度 千葉県海匝農業事務所改良普及課、千葉県農林水産部担い手支援課)