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野菜

施設メロンのIPM実証調査(高知県 平成26年度)

背景と取組みのねらい

 高知県内のウリ科の産地では、難防除害虫のミナミキイロアザミウマが媒介する黄化えそ病やタバココナジラミが媒介する退緑黄化病が多発し、収量や品質の低下をまねき大きな問題となっている。これまで従来の化学農薬散布に加え、近紫外線除去フィルムや防虫ネットなどの物理的防除を実施してきたが、十分な防除効果は得られず、また従来の化学農薬の効果が低下してきて、防除がますます困難となっている。

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左・中 :黄化えそ病(ミナミキイロアザミウマ媒介)
右 :退緑黄化病(タバココナジラミ媒介)


 そこでメロンにおいて、天敵(スワルスキーカブリダニ)を活用することを主な手段とした、総合的病害虫管理(IPM)による防除効果の確認と、各作型での防除体系の組み立てを目的に現地実証調査を行った。

地域の概要

ipmH26_kouchi_6.jpg 香南市は高知市の東部に位置し、年間の平均気温は17.0℃、降水量はおよそ2,500mm、日照時間はおよそ2,100時間で、温暖な気候である。この気候を活かして、キュウリやナス、花卉の施設栽培、ニラや柑橘類の露地栽培が行われている。
 香南市夜須町のアールスメロンは生産者15戸、施設面積6.8ha、年間で3作栽培されており、盛夏期を除いて「夜須のエメラルドメロン」の商標で、高知県内をはじめ、関西・名古屋・関東などに出荷されている。

取組内容

●前年までの結果
化学農薬+物理的防除(防虫ネット、粘着板、循環扇の設置)+天敵(スワルスキーカブリダニ)により防除効果があることを確認した。
(1)天敵の利用
・交配前、標準量の1回放飼で防除効果があることを確認した。
・天敵の増殖は雄花の確保により促進されることが観察された。(花粉がエサ、ガクの毛じが産卵場所となる)
・放飼時に害虫が見られると、その後天敵による防除が難しく、他の品目同様ゼロ放飼(※)を基本とすることが望ましいと思われた。
 ゼロ放飼:害虫がいないか、ごく少ない状況で放飼すること
(2)物理的防除
・防虫ネットの有無(天窓)、目合いの大きさの違いでは、きちんとした比較はできていないが、ネット有り、目合いが細かい方が害虫の発生数を少なく抑えられた。
・ほ場周りへのタイベックの設置は、効果が判然としなかった。また、2年目には汚れや破損が発生し、耐久性に問題があった。
(3)その他
・ハモグリバエやウリノメイガは、天敵への影響を考慮して薬剤防除をする必要があった。新規登録のプレバソンフロアブル5の防除効果があることを確認した。

●今年度の取り組み内容
(1)天敵の定着・増殖の促進方法の検討
 1作毎にリセットして栽培するため、その都度短期間に天敵のスムーズな定着、増殖を図る必要がある。増殖には一定時間を要し、特に冬期に増殖しにくい問題があることから、天敵のエサとなる花粉の供給により天敵の増殖が促進されないかを検討した。
(2)防虫ネットの種類の検討
 害虫の侵入防止には、できるだけ目合いの細かいものが有効だが、細かいほど通気性が悪く、特に高温時期に生育や作業性に問題があった。
 そこで、害虫の侵入抑制効果があり通気性に優れるスリムホワイトを展張して、昇温抑制および害虫侵入防止効果を確認した。

調査内容および方法

アールスメロンの作型と栽培時期
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●26年度 後作
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●26年度 抑制作
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・放飼量については、標準量、標準の1.5倍量、2倍量を比較する。
・雄花を結果枝付近(3節程度)のみ残す区、結果枝付近と上位節(3節程度)に残す区の比較。

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雄花を残す位置。上位節(左)と結果枝付近(右)

・天敵放飼後、定期的に(2週間毎)市販の花粉(ガマの花粉)を供給する区、しない区の比較。
・花粉の供給は天敵放飼から2週間後の10月29日から開始し、おおむね2週間毎に試験ほAは4回(1~3回目:1g/1a、4回目2g/1a)、試験ほBは3回(各1g/1a)天敵散布機を使用して葉上に散布。

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使用花粉

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散布機と散布の様子

・南北妻面、東西サイド面にスリムホワイトを展張したハウスでの害虫侵入率、ハウス内環境などを調査

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スリムホワイトの内面、外面に粘着板(黄・青)を設置

調査項目

・天敵と害虫の発生数推移:葉上のミナミキイロアザミウマ、タバココナジラミ(ともに成・幼虫)、その他害虫及びスワルスキーカブリダニの頭数を目視でカウント
・栽培終了時の聞き取り調査
 防除履歴
 黄化えそ病、退緑黄化病の発病株数
・データロガーによりハウス内の温度、相対湿度を測定
・防虫ネット内・外面に設置した粘着板に捕捉された害虫数により害虫侵入率を算出

結果および考察

(1)天敵の定着・増殖の促進方法の検討
①放飼量
・試験ほBで放飼量が多い程増加が早まった。標準の1.5倍、2倍量で最終標準量と比べて1.5倍程多くなった(図1)

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図1 26年度後作 試験ほBでのスワルスキーカブリダニの推移

・試験ほAではコナジラミの発生が多く、天敵に多少影響のある薬剤を散布したため結果が判然としなかった。
・黄化えそ病、退緑黄化病の発病、害虫の被害については、天敵放飼量の違いによる差は無かった。
・防除効果と経費を考慮すると、放飼量は標準量が適当と思われる。

②雄花を残す程度・花粉の供給
・試験ほAでは、上位節と結果枝付近に雄花を残した区で天敵が多かった。結果枝付近に雄花を残し、花粉を供給した区ではミナミキイロアザミウマの方が多い時期があり、終盤には天敵と害虫が同程度となった(図2)

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図2 26年度抑制作 試験ほAでの天敵と害虫の推移

・試験ほBでの天敵の数は、以下の順となった。
上位節と結果枝付近に雄花を残した区 >結果枝付近に雄花を残し花粉を供給した区 >結果枝付近のみに雄花を残した区

しかし、上位節と結果枝付近に雄花を残した区ではミナミキイロアザミウマ※も多かったため、天敵数が増加した可能性もある。花粉を供給した区では害虫が少なかった(図3)

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図3 26年度抑制作 試験ほBでの天敵と害虫の推移

※雄花の中にはヒラズハナアザミウマが多く確認できた。ミナミキイロアザミウマの幼虫とヒラズハナアザミウマの幼虫は目視では区別がつかず、葉上の害虫数調査では全てミナミキイロアザミウマとしてカウントしたが、ヒラズハナアザミウマの幼虫も含まれていた可能性もある。

・上位節と結果枝付近に雄花を残した区で天敵が多かったことから、雄花をできるだけ多く残すことが天敵増殖促進に効果があると思われる。
・花粉の供給による天敵の増殖促進効果は、試験ほBではやや見られたが、試験ほAでは見られず、判然としなかった。今回は供給時期が天敵放飼2週間後からで、供給量が1回あたり1~2g/2週間おきとしたが、供給時期を天敵放飼前からとし、量を増やして26年度促成作で効果を再確認している。

(2)防虫ネットの種類の検討
・コナジラミのスリムホワイトからの侵入率は15%であった。ミナミキイロアザミウマは捕捉数が少なすぎて判然としないが57%であった。コナジラミは試験ほ付近の野外での発生が非常に多かったため、多数侵入した(表3)。
・野外での害虫の発生が多い場合には、スリムホワイトでは侵入を抑えることが難しいと思われる。

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表3 スリムホワイト展張ハウスにおける害虫の侵入率(26年度後作 試験ほA)

※調査期間は5月8日~5月22日。期間中粘着版を1週間ごとに交換
※ミナミキイロアザミウマは青色、タバココナジラミは黄色の粘着版を使用
※捕捉数:東西サイド各1カ所、計2カ所の期間中の合計数
(ハウス外)再度防虫ネットの外側外向きの期間中の合計数
(ハウス内)内側外向きの面
※侵入率=ハウス内捕捉数/ハウス外捕捉数×100

・相対湿度の差は小さかった。
・日中の気温はサイド・妻面にスリムホワイトを展張した試験ほAの方が低かった。昇温抑制効果はある程度はあると思われた。しかし、試験ほAでは天窓の防虫ネットを張っておらず、その影響も大きいと考えられる。

農家の評価及び残された課題

(1)天敵の定着・増殖の促進方法の検討
・天敵の放飼量は、増やすとさらにコストがかかる。防除効果は十分なので標準量で良い。
・雄花を上位節に残す管理は、花だけ残して芽を摘む作業が加わり手間がかかる。
・雄花を残すと、そこからつる枯病や菌核病が発生しやすい(特に冬期)ので注意が必要。
・花粉供給は花粉や散布機の購入にコストがかかり、また散布に労力がかかるため、効果については慎重に検討する必要がある。

(2)防虫ネットの種類の検討
・防虫ネットの目合いは小さい方が侵入抑制されると推測される。暑さは何とかなる。(試験ほB農家)
・防虫ネットは特に目合いが小さいものを展張すると暑くなり、メロンの生育、作業面で厳しい。できたら天窓の防虫ネットは張りたくはない。スリムホワイトは涼しく快適であるが、コナジラミの侵入防止効果は低いと感じた。(試験ほAスリムホワイト使用農家)

(3)その他残された課題
・天敵への影響を考慮して使用できる薬剤が制限されるため、防除に苦慮する場合がある。特に今年度の作においてはうどんこ病が多発し問題となった。またタバココナジラミが野外で多発し、天敵に加えて薬剤の防除が必要となった。

提案するIPM防除体系

 これまでの現地実証試験の結果やアンケート調査結果をもとに、平成26年8月に抑制作での防除事例を作成し、天敵への影響を記した病害虫防除薬剤一覧とともに全戸に配布した。これは全作型に対応できるとの了解を得て、下記の防除事例を提案している。
 基本的な考え方として、年3作のうちの1作目(抑制作)でウイルス病の発生を抑えることで、2、3作目(促成作、後作)での発生が軽減される。また地域全体のミナミキイロアザミウマ、タバココナジラミを減らすことが、発生リスクを低減することにつながる。そのために、まず1作目に天敵を活用するよう勧めている。

表4 提案する防除体系(全作型)
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○ポイント
(1)天敵(スワルスキーカブリダニ)の活用方法
・放飼時期は、立ち上げ後交配前、花が開花し始めてから。放飼時にはミナミキイロアザミウマやタバココナジラミの密度を下げるため、効果の高い薬剤で天敵への影響日数を考慮して事前に防除する(ゼロ放飼の徹底)。
・放飼回数は1回で基準量。
・ボトル剤、パック剤どちらでも可。ボトル剤は1株ずつ散布し、パック剤は数株おきに等間隔に設置する。
・放飼は花に近い位置に。天敵は害虫がいない時には花粉をエサとして食べる。また雄花のガクの毛じに多く産卵する。
・放飼後は特に交配時期でもあり、天敵の定着を促すために薬剤の散布は控える。天敵のエサとなる花粉を多く確保するため、できるだけ雄花を残す。

(2)物理的防除
・防虫ネットは、ハウスサイド、天窓、入口などの開口部にサンサンネットe-レッドなどを被覆する。目合いは0.8~0.6~0.4mmで、小さいほど害虫の侵入防止効果が高まると推測される。しかし換気がされにくくなるので、ハウス内の気温ムラを解消するために循環扇(ボルナドファンなど)の設置や、高温期には遮光剤の塗布などの昇温抑制対策をとることが望ましい。
・スワルスキーカブリダニは若齢の害虫しか食べないので、ホリバーは、成虫防除のために設置する。

(3)その他天敵対象害虫以外の病害虫に対する防除
・薬剤を使用する場合は、天敵への影響を考慮する。
・スワルスキーカブリダニで防除ができない、アブラムシやハダニなどの問題となる害虫に対しては、発生を見逃さず適期に有効な薬剤を使用する。トマトハモグリバエ、ウリノメイガには育苗期間中および定植後に「プレバソンフロアブル5」を予防的に使用する。
・栽培時期ごとに問題となる病気に対して、予防的に有効な薬剤を使用する。天敵増殖促進のために雄花を残した場合、つる枯れ病や菌核病が発病しやすくなるので予防に努める。

(高知県中央東農業振興センター、農業振興部環境農業推進課)